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クラウンクエスト  作者: 空花
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カシミアの回想・1

 カシミアの口元に、ほんの少しだけ苦笑いが浮かぶ。


 まだ一月ちょっとしか経っていない筈なのに、もう随分昔のような気がしているのだ。


 その頃のカシミアは学校の外の世界など殆ど知らないに等しかったのに、全てを解っているつもりでいた。


 ……だが今は、世界のことごとくが驚きと発見に満ちている。


 二人の会話を聞きながらカシミアは思う……世間知らずであるということに関しては、自分もコットンと何ら変わりは無い。


(神学を修めただけで、全てを解ったような気がしていたんだ……)

 二人の背中を追いながら、カシミアの思考は次第に過去へとそれていった……


 ……………………


 カシミアが神学を修めたのは、首都カーディガニアにある『四聖正教』クラウン教会本部である。


 カーディガン王国の教会の総本山であり、同時に世界でも三か所しか存在しない『クラウン』の名を冠するその教会(一説には四か所とも言われている)では、各地より集った優秀な神学生たちが未来の神官となるべく勉学に励んでいる。


 カシミアは地方の神学校にいた。


 幼少の時期より『神童』と称されるほどの才覚を顕わし、その才を時の司教に見止められて、十二になる年に教会本部の神学校へと進んだ。

 四年の間神学の基礎を学び、その後わずか二年で全ての専門分野の習得を終えた。


 そして半年前、高位神官になる最終課程へと進むことになったのだ。


 最終課程では、およそ一年の予定でカーディガンの各地を回り、『四聖賢』と呼ばれる賢者たちの元を訪ねることになっている。そこでそれぞれの賢者に報告という名の挨拶と、彼らからの『認められた者の証』を受け取るのだ。


 カシミアはその課題に向かうにあたり、一人で行く、と学長に告げた。


 その時彼から告げられたのが「知識だけでは旅はできない」という純然たる事実だった。


「君も知っているはずだよ? 王国の慣例のことは」

「……はい、存じております」

 そう答えながらも一切譲るつもりはないカシミアは口を引き結ぶ。


 その様を困ったような微苦笑を浮かべながらしばし見つめ、学長メッシュ・ブランゴーリュはやがて小さく肩を竦めた。


「意志は固い……か」

 溜息交じりに呟かれる言葉に、カシミアは少しだけ目を伏せそのまま頭を下げる。


「はい……申し訳ありません」

「……理由を訊いても?」

「……」

「無理にとは言わないけど……」


 学長、と言うよりももっと近しいような笑みを浮かべながら、メッシュは机の上に組んだ両手に軽く顎を乗せる。


 親子くらいに歳が離れているはずだが、そうやっているとぐっと距離が縮まるような気にさせられる。


 カシミアは微苦笑を浮かべると、降参したように首を振った。


「別に隠すほどでもありませんけど……単純な話、騎士というのが……」

 そこで不意に言葉が詰まる。


 不用意に口にすべき言葉なのか否か……


 カシミアは急にそのことに思い当ってしまい、戸惑ってしまった。


「…………いいよ、はっきり言っても」

 言いながらメッシュはひらひらと右手を振る。

「ここには私たちしかいないから」


 まっすぐ見つめてくる鳶色の瞳を見つめ返しながら、カシミアは何かを吹っ切るように大きく息を吐きだした。


「私には……どうしても騎士という方々を信用することが出来ません」


 言い切ったカシミアに、しかしメッシュは怒ることも嗤うこともせず……

「……ん、なるほどね」

 そう呟いたきり、眉間に皺を寄せて考え込んだ。


「申し訳ありません……」

 その表情を黙って見つめたまま、カシミアは申し訳なさが滲んだ声音で一言漏らし、黙り込む。


 無茶を言っているのが解らないわけではなかった。


 最終課程では長い距離を旅することになるため、必ずと言っていいほど誰か一人は共を付けていくものなのだ。その誰かというのは、本来だれでも良いと言えば良いのだが、慣例として王国騎士が随行することが一般的である。


 当然、カシミアにも、課題決定の際騎士団の方から打診があった。

 それをカシミアはにべもなく断ったのである。


 その仲裁に立たされたのが、メッシュというわけだった。


 しばらくの間沈黙が場を支配して……

「……ねえ、カシミア・ロートシルト」

 ようやくメッシュが口を開いた。


「はい」

 短く答えて、カシミアはメッシュと眼を合わせる。


「騎士の随行を断るのはこの際いいとして……君は他の誰かを、って考えて……」

「いません」

「…………だよねぇ」

 カシミアの即答に、メッシュは解っていたかのような溜息を吐く。

「そこだけでも曲げることは出来ないかい?」

「……一般の方を長い旅に付き合わせるわけにはいきません。傭兵は……正直論外です」


 傭兵も中には良い人間もいるかもしれないが……かなりの賭けになるであろうことはさすがのカシミアでも分かることだ。


 その言葉に、幾分ほっとしたような表情でメッシュは頷いた。


「でも、一人での旅は正直お勧めできないし……本当は分かってるよね?」

「…………」

 沈黙が消極的な肯定になる。


「う~ん……じゃあさ、一つ、試してみるかい?」

「……試す?」

 訝しげな顔をするカシミアに、メッシュは子供のように悪戯っぽい眼をして大きく頷いて……

「カシミア……君の実力が実のところどのくらいなのか、騎士団に胸を借りよう!」

 この上なく爽やかに言い切った。

少し短いですが、ここで一旦投稿します。


読んでくださる方が少しづつ増えていくのに励まされています(*^^*)


今回もよろしくお願いします!

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