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クラウンクエスト  作者: 空花
25/25

閉ざされたのは・5

「もうどのくらい前になるか……ちらほらとよぉ、妙な姿をした『余所者』がいるってえ話が出だしてよぉ……」


 村の通りを門に向かって歩きながら、ガルドンは鍬を左肩にして顎髭を扱きつつ、うんうんと唸り声をあげていた。


「初めはちらっと見えた、とか、そんな感じだったんだけどよぉ」


 村で広まっている噂によると……

 その『余所者』はおよそ半年前から姿を見かけるようになったらしい。

 姿かたちはカシミアが幻影で見せられたものと同じ黒いローブ姿だそうだ。


「……それって昨日の奴がしていたような?」

 デニムの質問にガルドンの代わりに答えるのはカシミアだ。

「恐らくそうだと思う……昨日、フルートに『見せて』貰った者たちも同じような格好をしていたからね」

「昨日の……あの夕方の事かよぉ?」

 そこにガルドンが口を挟み、他の三人が各々頷く。


 ガルドンはドングリ眼をさらに丸くしながらほぉ、と声を上げた。

「あっただ魔獣の群れン中に人がおったのかよぉ?」

「正確にはあの群れの向こう側に隠れてたんですけどね」


 カシミアが解説するのに合わせほうほうと相槌を打ちながら、ガルドンは更にぶんぶんと首を縦に振る。


「陽の出とる時間にあんな大量の魔物が出るなんか今まで一度もなかったから、おかしいとは思っとったんだがよぉ……」

「……ご覧になっていたのですか?」

「ああ? うん、まあ……コットンの声が聞こえたんで外に出てみたら、あんたらがブロッケンの群れに囲まれとったでよぉ」

 これはいけない! と思い、急いで納屋にあった鍬を引っ掴んで出て来てみたら……

「そこの兄ちゃんがブロッケンに向かって突っ込んで行ってたんだよぉ」

 そう言って眼だけを向けてデニムを示す。


 割と早い時点から見ていたようだ。


 そして加勢をしようと一歩踏み出したところで、モーメンから制止された、と言う事らしい。


 それで、門のすぐ外側でブロッケンたちを迎え撃とうと構えていたのだが……


「兄ちゃんのおかげでよぉ、こっちには一匹も来なかったよぉ」

 次にカシミアを見やりつつそう締めくくって、ガルドンはガハガハと笑った。


 実際、加勢に来られたとして……


(うん、戦力にはなりそうなんだよな……)


 冷静に戦士の目線でデニムはこっそりとガルドンを値踏みする。


 斧でも持っていれば、或いはブロッケンの頭一つくらいは容易にかち割ることもできるかもしれない……のだが……


(鍬……なんだよなあ……)


 恐らく昨日、引っ掴んで持ってきたというのは、今肩に担いでいるそれだろう。

 強度は確かにありそうなのだが……


(でも、やっぱり鍬だよな……)


 ある意味かなり失礼なことを考えているデニムをよそに、三人は話を続けていた。


「ブロッケンは確かに群れるけんど、昼間には絶対姿を見せないんだがなぁ……なるほど、召喚したのがおったんかよぉ」


 納得したように顎髭を扱くガルドンに、カシミアはふと首を傾げる。


 妙に納得するのが早くないだろうか……?


「まるで半分予想していたみたいですね?」

 少しばかり怪訝そうな口調になってしまったカシミアに、しかしガルドンは意に介した様子もなく後ろ頭をぼりぼりと掻いた。

「そっただこと、当たり前だろよぉ? 魔獣を召喚できるちゅうのはあまり聞かねえがよぉ」


 あまりにあっさり返されすぎて、デニムはそんなものかと頷いているのだが……


(いやいやいや……ちょっと待て!)


「召喚って、ここでは珍しいことではないのですか?」

 グッと腹に力を込めて気を落ち着かせながら、カシミアはガルドンとコットンに向けて問うた。


 村人たちは一瞬きょとんとした目をして顔を合わせ、同時に首を傾げて頷いて見せる。


「魔獣はともかく、幻獣ならよぉ……」

「みんな召喚できるけど……?」

「…………そ、そうなんだ」


 何を聞いているんだろう? と言った眼で見詰められ、カシミアの額に汗が浮かぶ。


 何とか笑って見せるも、その顔が見事に引き攣っているのはカシミア自身にも充分わかっている……のだが……


 何か事も無げにすごいことをさらりと告げられているような……


「へえ……凄いな! 召喚できるんだ!?」

 子供のようにはしゃいだ声でデニムが割って入る。その言葉は、奇しくもカシミアの気持ちを代弁してくれることになった。


「みんなって、この村の皆が召喚できるってことか?」

 無邪気なデニムに、コットンはこっくりと大きく首を縦に振る。

「うん、みんなできるよ?」

「じゃあ、ひょっとしてガルドンさんも?」

 それを受けて今度はガルドンの方へと首を振り向けるデニム。


 眼を向けられたガルドンは、あまりの勢いに一瞬びくりとなったが、すぐさま自分も肯定する。

「んだ……契約してれば誰でも呼べるよぉ」

 そう言って、太い右人差し指を折り曲げて口に咥え、ピュウッと一つ吹き鳴らす。


 するとその背後がゆらりと揺らめき、たちまち大きな影となって凝った。


「「――――!」」


 その後ろに現れたモノに、旅人たちが驚愕する。


 それは、とてつもなく大きな……


「……か…………カメ?」

「うん…………姿形はそうみたいだけど…………」


 そう、姿形は間違いなく亀、と呼べる……が…………


「で、でか……っ」

 流石のデニムもそう言ったっきり絶句してしまう。


 決して小柄ではないガルドンのその頭の上から、その『亀』はまるで睥睨するように二人を見降ろしていた。


「『森亀』ギータだよぉ」

 そう言ってガルドンが親しげにその首筋を叩く。


 それを合図に、ギータは首をうっそりと降ろし、真正面から二人を覗き込んだ。


 しかしそれでも、その後ろの甲羅がずずんと聳え立ち、まだそこまで高くない朝の光を遮る。


 高さだけでデニムの身長すら遥かに超える程の厚みを持つ甲羅は、よく見れば青みがかった金属のような光沢を放っている。ともすればそこらの剣では歯が立たないかもしれない。


 もし、敵として出てきたらなかなかに手ごわそうだ。


 しかし、一旦驚きから醒めてしまえば、その亀が敵意を持たないことはすぐに見て取れた。

 覗き込んでくる瞳は宝石のように紅く、それでいて穏やかな色をしている。その光の中に禍々しさは感じられない。


 旅人たちの肩の力が抜けたのが解ったのか、ギータはまるで伏せでもするように頭を地面に下げ、薄く眼を細めた。


 その様を見てガルドンがガハガハと笑う。


「お前さんたち、やっぱり悪い奴じゃねえよぉだ……ギータが大人しくしとるからよぉ」

「……大人しく、って……まさか攻撃したりもするんですか?」

 聞きようによっては不穏な言葉に、カシミアはついそんな浅い質問を投げかけてしまった。


 しかしガルドンは意に介した様子もなくおおように頷く。


「んだ……こう見えてもギータは幻獣だからよぉ……それにこいつは人間の心ン中を見通すって言われてるんだよぉ」

 それによって、相手の心を写し取り、鏡のようにその心を撥ね返すのだという。


 相手が穏やかであれば穏やかに……

 攻撃的であればそれに応じて……


 そしてそれは魔獣相手にも有効だという。


 話を聞くうちに、目をキラキラさせだしたのは当然デニムだった。


「凄いんだな、お前!」

 まるで人間に話しかけるように、ギータに向かって破顔して見せる。

 ギータは、まるでその言葉が解るかのようにさらにうっそりと眼を細める。


「…………そう言うところは、素直に感心するよ」

 もう呆れることも諦めてカシミアはそう呟くと、大きく鼻を一つ鳴らした。


 それを眺めていたガルドンが、

「それにしてもよぉ……」

と、首をわずかに傾げながら、デニムをしげしげと見やる。


「おめえさん、本当に戦士なのかよぉ?」

「…………へっ?」

 だしぬけに訊かれ、デニムが思わず間抜けな声を上げ、カシミアは同様に目を丸くして固まってしまった。


「ひどいよ、ガルドンさん!」

 応えあぐねる二人の代わりに叫んだのはコットンだ。


「デニム兄ちゃんはリュートを守ってくれたのに……!」

「いやいや、それは俺も昨日見てたけどよぉ……!」

 思わぬコットンの剣幕に、ガルドンは慌てて大きな両手をぶんぶんと振り回して慌てて言い募った。

「強いのは解ってんだけどよぉ、なんつうかほら……らしくねえ、って言うかよぉ」

「らしくない、って……お兄ちゃん、ちゃんと剣持ってるじゃん」

「いやいや、そっただことは見りゃ解るよぉ。でもよぉ、なんかのんびりしてるちゅうか……」


 ガルドンの言いたいことは、カシミアやデニムには通じる。


 問題は、剣を持っているか否か……ではなく、その持っている雰囲気と言う奴だろう。


「……真っ向から否定は出来ませんが、一応彼は戦士ですよ」

 ……例え普段の彼がそう見え辛いとしても

「カシミア……一応そこは否定しておいてくれないか?」

「否定できるものならね。君のように無邪気な戦士なんて、僕だってお目に掛ったことなんてないよ」

「……それって、喧嘩売ってる?」

「へぇ? 君が買うのかい?」

「やだよ。めんどくさいし」

「だよね? ならばあとは誉め言葉として潔く受け取っておいてくれていいよ」

「うわぁ……」


 いつの間にか漫才を始めてしまった二人に、村人たちは呆れた視線を向ける。


「まぁ、四六時中殺気立ってたって仕方ないからなぁ……」


 何を言っても暖簾に腕押しのカシミアに、それ以上言い募ることを早々に諦めたデニムが小さく肩を竦めた。


「それに、敵でもないのに戦意剝き出しっておかしいだろ?」

「確かにそれは言えてるね」

 カシミアが同意すると、デニムは唇を尖らせながらもすぐに口角を引き上げて、ぽんぽん、と両の手を打ち合わせる。


 この話はこれでおしまい、と言う事らしい。


 同時にガハガハと笑い声をあげたのはガルドンだった。

 すっかり警戒心の抜け落ちた笑顔で、バシバシとデニムの肩を叩く。

「うん、何となく分かっただよぉ……お前さんが人が良いってことはよぉ」


「……じいちゃんの教えなんだよ」

 叩かれてわずかに顔を顰めつつも、笑ってガルドンに応えるデニム。


「『本当に良い剣は鞘の中に納まっている』ってさ……」


 剥き出しの戦意や殺気は、やがて己を殺す……

 本当に良い戦士――――剣の使い手というものは、無暗に相手を傷付けたりはしない。


 それこそ幼い頃からずっと言われ続けてきたじいちゃんの言葉……


 思い出すデニムの眼が、少しだけ遠くを見つめていた。

 それを横から見詰めるカシミアの眼も、優しい色をしている。


「…………」

 それを眺めていたガルドンは、一つ大きく頷くと、コットンの方に眼を向けた。


「どうやら、信用できるみたいだでよぉ……モーメン様の託もあるし、俺も手伝うよぉ」

「ほ、ほんと!?」

 食いつくように身体を伸び上がらせるコットンに、ガルドンは真剣な眼をしながらもう一度頷く。

「余所者の事は村の連中も気にしてるでよぉ……調べて貰えるってんなら俺からも口利きするよぉ」

「わぁ! ありがとう、ガルドンさん!」


 コットンは感極まったようにガルドンの大きな右手をその小さな両手でがっしりと握りこんで力一杯振り回し、カシミアとデニムを交互に見上げた。


 そのキラキラした眼に、今一つ要領を得ないものの、どうやら話が進んだのであろうことを二人も感知する。


 いささか頼りない口調の男ではあるが、コットンの様子を見る限り頼れる人物であろうことは想像に難くない。


 二人は同時にそう判断し、眼を上げたガルドンに向かってそれぞれに頭を下げる。

「よろしくお願いします」

「ありがとう」


 コットンと一緒であれば、村人たちからの聞き込みそのものにはさほど支障もないだろう。モーメンからの託もある。

 しかし、そこに大人が加われば、更に話が聞き易くなるのは間違いはない。


 話が決まったところで、ガルドンが口を開く。


「今の時間なら、皆市場の方にいるでよぉ。そこだったら森に行く奴も居るからよぉ」

「森に行く方……?」

「んだ……初め余所者見た奴もまだ居るはずだよぉ」

「ならば、何か話が聞けるかもしれませんね」

「んじゃ、行ってみるか?」


 デニムの一声に皆が頷き、四人は朝の通りを再び歩き出した。

やっと話が前に進みそうです……以外にガルドンさんが出張ってしまってますね(^_^;)


今回もよろしくお願いします!

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