閉ざされたのは・2
村は昨日とは打って変わって、人で溢れていた……
と、言うよりも……
「……今日は何かあるのかい?」
コットンにこっそりと耳打ちするカシミアの頬が心なしか引き攣っている。
「ははっ……人を探しに行く手間が省けたかもな」
デニムもまた、乾いた笑いを浮かべて鼻の頭をポリポリと掻く。
「…………うん、多分…………お兄ちゃんたちが珍しいんだと思う」
コットンは引き攣り笑いを浮かべて肩をプルプルと震わせた。
村長の家の周りを取り囲むように、多くの人々が集まってきている。
皆、一様に興味半分、訝しさ半分の眼で『異邦人』達を眺めているのだが…………
「うーーーーん」
その距離が異常に遠い。
遠巻きに、と言うのも難しく感じるくらいに遠いのだ。
村の男たちが手前の方で人垣を作っているのだが、そこまでさえもデニムが走ってもすぐには距離を詰められない。
それぞれの手に得物を持っているところを見ると…………
「おまえたち……大事にされてるんだなあ」
デニムがコットンにそう耳打ちする。
その口元には薄っすらとした笑み。
どうやら、ただの興味本位というわけではなさそうだ。恐らく彼らは長老たちを心配してここに集まってきたのだろう。
「でも……みんな早起きだよな」
「いや……そういう問題か?」
のほほんとしながらどんどん感想がずれていくデニムに、カシミアは小声で突っ込む。
「いや、だってさ……ふつ―今の時間だったら朝飯なんじゃないのか?」
それは有るかもしれないけれど……
違う…………何か違う……
密かに胃の痛みを覚えながら、カシミアは気付かれないようにこっそりと溜息を吐いた。
「まったく……ッ」
君の辞書には『危機感』と言う文字は無いのか?
しかし、カシミアのツッコミは音になることは無かった。
「もう! みんなどうして集まって来てんのさ!?」
二人をかばう様に進み出たコットンが大声で言い放つ。
「いや、だってよぉ……」
手に持つ鍬を身の前に構えながら、一人の壮年の男が代表するように一歩前へと出てきた。
日頃の作業で鍛えているのだろう太い腕を袖捲りにして、太鼓のように突き出た腹の上に鍬の柄を乗せている。
鍬の先は樹々の隙間を縫ってきた朝日にギラリと銀色の光を弾き、当たればなかなかに立派な武器になりそうだ。
(でも、鍬なんだよなあ……)
いや確かに当たればただでは済まないのは確かなんだけど……でも、やっぱり鍬なんだよな……
そんな失礼なことをデニムが考えているその視線の先で、コットンと村人は対峙し続けている。
「もしモーメン様に何かあったらと思うと居ても立っても居られなくてよぉ」
「何かあったらって……昨日皆も見たでしょ!? お兄ちゃんたちはリュートを助けてくれたんだよ!?」
怒りが昂じて声をますます張り上げるコットンに、男の方がたじたじとなり、小さく縮こまってしまう。
コットンはお構いなしに大きく一歩踏み出すと、大きく手を振りかぶった。
「カシミア兄ちゃんなんか、聖霊様の言葉を話せるんだからね!」
そんな人が悪い人のはずないじゃないか!
力説するコットンのあまりの勢いに押され、村人たちの間にざわめきが起きる。
「……そっただこと言われてもよぉ」
逆に勢いをなくしぶつぶつと小さな声で呟く男。
その周りで交わされる会話。
「俺も確かに見たぞ……あっちの戦士がリュートの前に立って……」
「私は見てなかったけど……でも……」
「『聖獣の御子』がああまで言うんだからなぁ……」
(聖獣の……?)
微かに聞こえた単語にカシミアはわずかに目を見開く。
思わず隣を見ると、デニムもまた、僅かばかり眼を眇めているようだった。
視線の圧力に気付いたように、デニムがカシミアの方に顔を向ける。
その眼がチラリ、とコットンに注がれた。
やはり同じことを考えたようだ。
どうやらコットンはこの村では長老と同じように大事にされている存在らしい……
それも、ただ長老の孫だから、と言う事だけでは無いような……
「……でも、やっぱり……」
「うん、あんな……が、なあ」
「……コットンがそこまで言うんだから、俺だって信じたいんだけどよぉ」
周りの声に押されるようにして、男が再び声を張る。
「けんど、あんなおっきな音がしたら心配するなってのが無理な話ってもんよぉ」
「へ…………?」
男の放った単語に、コットンがきょとん、として眼をしばたかせる。
「おっきな……音?」
訊き返すコットンに「んだ」と頷いて見せる男。後ろの村人たちも各々頷き合っている。
その途端、デニムの肩がピクリと揺れ、カシミアの眼が冷たーーーーく眇められる……
そんな旅人たちの表情の変化なぞ一切関知せず、男は言葉を続けた。
「日の出と共によぉ……神の森の方からカコーン!! カコーン!! ってよぉ……それに魔物の笑うような声とか、ガンッ!! って音とか……」
だから無性に心配になった村人たちが、各々手に得物を持って集まってきた……
そういう事だったらしい。
事の委細が明らかになるにつれ、カシミアの胃がキリキリ悲鳴を上げ、それに比例するように蟀谷にぶっとい青筋が浮かび……
「…………………」
デニムがそそそ、っと距離を取ろうとして……
「結局お前のせいか――――――ッ!!」
振り抜かれた平手が、デニムの後頭部にクリーンヒット!
パコ―――――――――ン!
それはそれは小気味のいい音が辺り一面に響き渡ったのだった……
かなり短いですが……(^_^;)
ここでいきなり補足(と言う名の蛇足?)
本文に入れられなかったカシミアのツッコミ……
コットンの「二人は良い人力説」シーンで
「いやいや、だから僕は聖霊様関係ないし! と言うかそんなので説得力ある!?」
って感じのツッコミ入れたかったけど、ちょっと無理でした(;'∀')
今回もよろしくお願いします!




