7、魔王の章 俺の現状理解
説明回です
ベットに腰掛けたハンターはかなりお年を召したおじいちゃんだった。70歳すぎてそうに見える。そして結構優しそうだぞ?
…あぁ質問ね、ンン〜どう答えたら良いだろうか。
何処からきましたかって言われてもね?
ここは実は本の中で俺は異世界から来ましたって言ったら痛いやつすぎるだろうし、どうしよう。
俺は質問に対して、咄嗟にそう考えてしまっていたのだが、俺の困惑はそのままハンターに伝わってしまっていた。
「これは驚いた。君は会話ができるのかい?…うん? …イセカイ?どこだそりゃ…こりゃ夢か?」
うげぇぇ…思ったこと全部伝わっちゃうから、側から見るとさっきの痛い発言にしか聞こえない。恥ずかしすぎるだろコレ。
そしてこれって、もしや嘘もつけないんじゃないの? つく予定はないが、なんというか本当にプライバシー皆無だな!
「嘘がつけないのかい?そいつは不便だなぁ」
カラカラとハンターは笑った。笑い事じゃないのよ…結構辛いんだぞこれ。まぁ確かに笑うしかない状態っちゃ状態だけどさ、生きてりゃ色々あるからな!嘘つけなくなることもあるだろ。
「笑ってすまなんだ。確かに生きてりゃいろいろあるが、嘘がつけないのは逆に良いことかもしれんな…それでそんな不思議な猫さんは何故うちにいるんだい?」
不意打ちの質問で俺はアニキの彼女のことが脳裏によぎりそうになった。
ギャー!質問されたらその答えなんてすぐ頭に浮かんじゃうでしょうが!!!答えてしまえば、俺がここにいる意味が皆無になってしまう。
無理やり思考を切り替えないとだ、えぇ〜ッ?
ウォォ!クラエッ!シツモンガエシッ!!!
ウン、そんなことよりもあの納豆の量はなんだ!多すぎるだろうが!俺はそっちの方が気になるぞ?
ちょっと無理がある会話転換をしたがハンターは快く答えてくれた。なんだ、ちょっと良い奴なんじゃないか?
「あぁ、あれな。珍しいかい?…そうか、イセカイから来たと言っとったな。そこには無いのかもしれんが、あれは血液をサラサラにするためのものじゃ。面倒避けでもあるがな。この国では各家にあるのではないかい?」
血液サラサラにするとなんか面倒避けられるのか?確かに病気になりにくくなりそうではあるけど。
「そうか、猫が知るはずもないわな。納豆は税を納める為に必要な食べ物なんじゃよ。それと厄除けってところかのぅ。それに今代はサラサラな血液が好きらしいしの。」
サラサラな血液が好き?…それが税?
ここでやっと俺は自分の入ったラノベに当たりをつけることができた。
人から取った血液を税金の代わりにする国 が出てくるのは、あの7冊の本の中で1つしかないのだ。
どうやら俺がいるこの世界は、"俺、最強種族で素敵な雇用形態作って魔王になる件" 略して "オレマオ" というラノベで間違いなさそうである。
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ストーリーを説明するとまぁ題名から分かる通り、転生した主人公が下剋上で魔王になるストーリーだ。
主人公は、生前ブラック企業に勤めていたおかげで過労死。起きたらあれれっ?俺が異世界に転生!?この世界もブラックなのかよ!よし!俺が変えてやるぜ!
とまあざっくり言えばこんな感じである。
主人公が初戦勇者なのに魔王に負け、バンパイアになっちゃう所なんかが予想を裏切ってきて面白いな、と感じた事を俺は覚えている。ラストは主人公が勇者兼バンパイアになって人間と手を取り合い国を統治する話だったはずだ。
勇者スタートの魔王になっちゃった系と言えば伝わるだろうか。え?そんなもんない?
いやいや、勇者じゃなくとも賢者だったり、大魔法使いだったり、暗殺者だったり、ともかく主人公枠と魔王枠を掛け合わせる話ってあるじゃん?俺、勇者 兼 魔王です、みたいなやつ読んだことない?
とにかく、この話はまさしくソレで、主人公は勇者のステータス+魔族のステータスで数値が爆上がりしてラストはゴリゴリの無敵バンパイアになっていたのだ。
散々説明したけど、主人公のおはなしは置いておこう。俺主人公と会うかどうかもわかんないしね?会ってみたいけどさ。
それよりも俺と関係しているのはこの世界の情勢だろう。
俺が今いるのはおそらく、ものすごくでっかいクレーターにある日照時間が少ない国である。国名は、オスクリッタ。オスクリッタでは日光に弱いバンパイアと人間が住み、バンパイアが王として君臨している。これが後に主人公に倒される魔王である。
まぁどんなブラック企業並の統治をしていようと、主人公が解決するのでそこはスルーで良いんだけれども、問題はおそらくだが 治安が悪い、ということである。
この国、実は貴族階級にも人間が普通にいてちゃんと働いている。バンパイアと人間が共存している国なのだ。
しかしどんな国にも至上主義者は存在するわけで、この国の場合はバンパイア至上主義を掲げる奴がかなりいるのだ。バンパイア勇者に倒される魔王もその中の1人である。
重度のバンパイア主義者は、人間を獲物と考えており襲ってきては失血死するほど食事をしてしまう。
そんな事件がこの国では多発しているが、バンパイヤ主義者の王は改善しようとしない。結果、バンパイヤ至上主義貴族は増長、次々に事件を起こす。
その事件を主に取り締まるのは魔王部下なので状況は無法地帯の荒野である。まともな国の役員が事件にあたるも重なる尻拭いand皺寄せによりブラック企業と化しているのだから本当色んな意味で怖い国だよな、絶対住みたくない。
役員の手が足りないため無法地帯が生まれ、そこの野郎達は更に増長、事件を起こすという正に負の連鎖がこの国はできあがっているのだった。
ここだけなら人間の話だから、今の俺は危なくないんだけどね。血が足りないとなると人々は肉を求める。
だから畜産が重要になるけれど、ここはクレーターの中にある国である。家畜の餌になる草が日光が少ないせいであまり育たないのだ。
俺が最初に見たまばらな芝生は、そういう事である。年中芝生育成中ってわけよ。
畜産が間に合わないとどうなるか?
答えは、狩をして肉を調達するである。おそらくだが、それでアニキの相手は連れ去られたのだろう。まさか猫まで食べようとするなんて、げに恐ろしきは人間なり。
まぁ要するに、俺にとってこの国の人間はめっちゃ危険、ということなんだろう。やっべえな!
オッケー、とりあえず世界がわかったのは良かった。自分がいる場所がどんな所かわからないとどう動けば良さそうかアタリをつけることもできないしな!納豆なんて本には出てこなかったけどね!納豆だけじゃなく、本には乗っていなかったこの世界の常識はまだまだあるんだろう。
俺はこの話のファンでもあるのでこういう知らなかったことを知ることができるのは単純に嬉しかった。
おっと、考え込みすぎて目の前のハンターのこと考えてなかったわ…
俺はハンターに視線を戻す。
あれ?意思疎通できるからと言っても、改めて考えると俺って今かなり危なくない?
「長い説明をありがとう。この国についてよく知っとる様じゃのう…フム、丸々太ってうまそうじゃ」
ヒィ!やっぱり!?やっぱり猫も食べるんかい?!
世界観を理解した途端、ハンターをめっちゃ怖く感じるじゃん…オイ、結構優しそうとか言った奴誰だよ!!!にっこりハンター超怖えぇぇ!!
すぐにでも動けそうなハンターとは違い、俺はまだモサモサ犬にロデオ状態なのだ。やばくない?降りたら犬にも襲われるんじゃないのコレ?
床に散らばる納豆、それをひたすら食べるモサモサ犬、ソイツにまたがる俺、そしてそれを見ながらベッドに腰掛けるハンター。月はその全てを優しくてらしていた。
俺は全然優しい状況じゃないけどな。 …泣きたい。