6、魔王の章 俺の侵入、ハンターと納豆
今月は毎日あげると言った矢先予定が入りあげられませんでした。すみません。
計画を練る、といってもそんなに大層なものではない。
俺がハンターと犬を引きつけ囮をする間に、猫がカノジョを助けにいくという至ってシンプルなものである。
ところでこの俺じゃない方の黒猫は、街でボスをやっているらしく皆からはアニキと呼ばれているそうだ。
どうりで男気が溢れていると思った。すごくアニキっぽいもんな。
俺ならばカノジョ助けずとっくに尻尾巻いて逃げ出してるが、この猫は助けにいくというところからしてもうアニキッて感じである。
…猫と尻尾がかかってて俺今ちょっと言い回しかっこよくなかった? …はい。なんでもないです。
まぁしかし、尻尾巻いて逃げる、なんて言いつつ俺が囮を引き受けたのは勝算があるからなのだった。
魔女によれば、俺は "おはなし" ができるはずなのである。
つまりハンターとも意思疎通は可能なはずで、ならば最初会話さえできればすぐに襲われる心配はないとふんだのだ。
俺のコミュ力にもかかっているが、それで時間は稼げるように思う。だっておはなし出来る猫って絶対未知との遭遇、下手したら都市伝説ものである。スルーはできないだろ絶対。
俺が囮やるわっていった時、アニキは少しだけ口角を上げて笑いながら"…本当にありがとな。このでかい借り返すまでは生きててくれよ?"
とキザなセリフを吐いた。クソかっこよくない?
流石はアニキである。
本当はフラグ立ちそうで怖いからそういうこと言わないでもらいたかったけどな…アニキの方こそ死なない?大丈夫?
とまあ、俺たちはこんな感じで計画を詰めていった。決行は今夜だ。
早くしないとアニキのカノジョは食べられてしまうかもしれないので、狩人が寝静まっている真夜中に、カノジョを奪還する事に2匹で決めた。
囮の為の話題はもうその時の俺のフィーリングで乗り切るしかないだろうし、あとは夜までに寝て待てばオッケーだろうか?
クマじゃあるまいし家の中で銃は流石にぶっ放さないだろうしな!まぁなんとかなるだろ!
俺は安請け合いをしたのだった。
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夜 あたりが静まり返りる中、2匹の黒猫は闇に紛れるようにして行動を開始した。
俺はチリトリを窓の隙間に差し込み、チリトリには兄貴に乗ってもらう。これは窓を開け侵入するためである。テコの原理をまさかここで使うことになるとは…侮りがたし中学の理科の力よ。
鍵がないのは確認済みだった。これがあると面倒だったので良かったけどさ、異世界って結構物騒だよね。
窓を持ち上げ、家の中に入ればあとはもう救出するのみである。1つうなずきあい、そこで俺たちは別れた。
さあ!ここからが俺の仕事だ。
ハンターが寝たままならそれでもよしって所なんだけどどうだろうな?なんて呑気に考え俺も部屋を移動した。
迷ったがチリトリは持って行ってみる事にする。やっぱりいらなかったらハンターの家に放置する予定である。猫である俺よりもしっかり使っていただけるだろう。
部屋に着くと、ハンターは木製のベットで寝ていた。踏んだらギシギシ言いそうなのでそこは避けて通る。よし、今のうちにチリトリは置いとくか。
部屋の様子だが カーペットには細長いモサモサなクッションが置かれており、戸棚には丸い球が乗った様な形のトロフィーなんかもある。月明かりが床や壁に差し込みキラキラと光る部屋はまるで、童話の挿絵の様だった。
真っ暗だけどわかるのは猫の恩恵だろう。夜目がきくからものが見やすくて大変助かる。
そして部屋の中をぐるりと見渡していた俺は、そんな目のおかげであるものを発見した。
…なんと戸棚に、大量の納豆が備蓄されていたのである。
ざっと見て10リットルバケツいっぱい分ぐらいの納豆がワラの小袋に収まっており、それが更に棚にみっちり詰まっているのを俺は無言で見上げた。今朝ぶりの遭遇だな。
夜目が効くからこそ見えてしまった物がのおかげで、さっきまで素敵な挿絵感があった部屋のイメージは納豆オンリーへ華麗なる変化を遂げた。
それにしても、ハンターの家じゃなくて納豆生産の家に来てない?大丈夫?と不安になる量の納豆である。
しかし、それを見て俺は思ったのだ。
腹空いたなぁ、と。
実は俺は今腹ペコなのだ。朝しか食ってないし、腹痛だったせいですでに胃は空っぽである。
そこで少し魔が刺した。こんなにいっぱいあるんだもんな。少しぐらい頂いてもバレないのでは?一口だけ頂戴するなんて事は可能だろうか?
…狙うは納豆なり
止めときゃ良いのに、俺は猫だし大丈夫だろうと軽く考え納豆の棚へ狙いを定めた。見ながら力をググッと後ろ足にこめる。
そして華麗に大ジャンプ!
…した結果、残念な事に俺の体は、まだ上手に猫としての動きを再現することができなかった様だ。俺って人間だしね!あとはもう予想通りである。
ガッシャン!パラパラパラパラ…
OH…と思った時には既に俺は棚をひっくり返し、納豆を撒き散らしていた。クッソ、途中からそんな気はしてた!
月光に照らされた室内にパラパラと納豆の雨が降り注ぐ。 臭い。
しかし俺はジャンプの最中だが、咄嗟に納豆を1束咥える事に成功していた。
人は腹がすいた状態で目の前に食べ物がくると咄嗟に加えてしまうんだという事をこの時初めて知ったね。いや俺今猫だったな…これが本当の泥棒猫か。後で食おうと心に決める。
幸運な事にまだ寝ているハンターにヒヤヒヤしつつ、俺の体は勝手に着地姿勢を始めていた。
着地場所、どうしよう?絶対に納豆は踏みたくない。
少し考え、落ちている銀杏も避けて通るタイプな俺は比較的被害が軽かったモサモサなクッションの上に着地することに決めた。
…しっかり着地できたはず、だったのだ。しかしそこで予想外な事態が発生する。
一難さってまた一難、なんとその飛び乗ったクッションは動き出したのである。
俺が着地したモサモサクッションの正体、それはなんとハンターの飼い犬だったのだった。
俺は驚き着地を失敗、モサモサ犬の背らしき所にロデオ状態で跨った格好になってしまった。
モサモサ犬が驚き飛び上がる。そりゃそうだ。寝てるところにいきなり飛び乗られたら誰だって驚く。すまんな!
モサモサ犬は驚いたからだろうが、吠えようとした為、俺は手近にあった納豆を口に放り込み口封じをした。俺が食おうとして猫ババした奴はこれで無くなってしまった。クソ、俺のバカ野郎!それどころじゃないってわかってても俺の胃はあんなに納豆を求めてたってのにッ
しかし幸運にも、突然口に突っ込まれた夜食に集中し始めたのか犬の動きは止まる。もちろん口だけはは動かしてるけどな。俺の納豆そんなに美味いかよ…
動きが止まった事で余裕ができた為、俺は犬の背でこの犬どうしよ?と考えていたのだが、
「おや珍しい、小さなお客さん。何処からいらっしゃったのかね?」
…まぁあれだけ騒いで起きない方が珍しいわな!
その声の主は、すっかり目を覚ましべットサイドに座ってこちらを見下ろしていた。