4、始まりの章 俺の激痛とクソババア
ラノベの中に入る為の俺と魔女のおはなしはまだ続いていた。
入るのは簡単。本を開き触れればよいのだそうで。
しかし入るにあたっての説明の中で更に俺は驚かされたのだ。俺はどうも魔女の従魔にさせられているということらしい。え、どゆコト?
Why?と思ったが、先程顔を埋められた時に"負けた"と思ったことが原因であるらしかった。もっと抵抗しておけば良かった… 早く元に戻りたいし帰りたいのに従魔だなんて、俺をずっとここにとどめておくつもりだろうか?激しく後悔である。
「まあ私に紐付いてないと他のに入れなかったからね、手間が省けてよかったよ。あとはあんたを留めておくつもりなんてこれっぽっちもないね。留めておくつもりだったら元の姿、場所に戻る方法なんか教えてやるもんかい。」
確かにそうだ。教えないだろうな。
全く状況はよくないが、留めておくつもりがないのは安心した。…それにしても1日で人間から黒猫になり更に従魔とは忙しいなオイ。
しかしこの魔女、断りもなく俺をこんな体にした挙句、従魔とはとんだB・B・Aである。こんなんじゃ俺はお婿に行けない。
「彼女がいないくせによく言ったもんだよ。それにいくら文字を変えたところでバカにしてるのはわかってんだよ…人を何度もババア呼ばわりするとは」
不味い!すみませんでしたッ!!
さっきの文字の意味はしっかり伝わってしまっていた。心で文字化はしていないのに彼女の有無までバレるとは驚きだ。イメージと文章、全て伝わってしまうのか…心がそのまま伝わってしまうのはなんと不便なことだろう。
そしてネットスラングにも強いなんてちょっと想像してた魔女と違う。
あぁ、心の中で文字変換するとどうなるのかな、その他はわかるかな程度の試みだったけど、悪口じゃ無いのにしとけば良かったじゃんか!
BBAの単語じゃないやつ以外に思いつかなかった俺のバカ!
それにしても文字の意味ってことなら俺も意異議ありである。
"従"はしょうがないにしても"魔"なんて持っていないんですが?
どう見ても俺はただの黒猫だぞ?
少し何か考えていたらしかった魔女は、俺のその念話?を聞いてニヤニヤしながら口を開いた。
「従魔というのは間違いでは無いのさ。なんてったってすでに私がはじめに1つ力を付け足しているんだからね。」
つまりそれってどういう事?
俺は聞いたのに、魔女はためるだけ溜めて中々教えてくれようとしない。
「聞きたいかい?」と言ってニヤニヤしている。めっちゃ魔女っぽい。
しかし、ここで俺の限界がきた。とうとう俺は切れたのである。
いいわけをするならば、朝からの今までのストレスがMAXを超えてしまったのでもうしょうがなかったってところだろうか。
だから、その力は何なのか教えてくれって言ってるだろうが!一般的なババアはおしゃべりが好きなんじゃないのかよ!
じらすだけじらして情報規制か!アンドだ!勝手に俺を巻き込み事故してわけわかんないことばっかりはなしやがって!従魔!ムカチャッカファイヤー激おこプンプンファイナリティックアタックだ!この野郎!
朝からの怒涛の展開に心のダムが決壊した。感情が大暴走だ。俺って極限になるとキレるんだなと初めて知ったのはこの時である。
キレた俺を見下ろしながら魔女が笑う。絶句だドSすぎるだろこのクソババアめ。
流石に普段だったらおばあちゃんにこんなに暴言は吐かない。このババアが異常にウザいのだ。
しかしキレたかいはあったのか、ようやく答えを頂けた。
「ムカチャッカファイヤー?古すぎるだろ?今それ使ってるやついないんじゃないのかい?
…すぐにはなしがズレるね。まったく。
こうやって私と馬鹿話できているのはなんでだと思う?
…お前の力は " おはなし "だ。
よかったじゃないか。一般的なババアは、おはなし好き、なんだろう?ババアな私の従魔は"おはなし"ができる…ピッタリじゃないか。」
力がおはなしだと!?
このババア!!!当てつけだ!当てつけだよ!!
ババアって言ったことへの当てつけだ!!
だめだ、このままこのペースで話していると血圧が上がりすぎて心臓がもたない…俺はクールダウンすることにした。
でも確かに、よくよく考えれば心の声はダダ漏れではあるがこの姿で意思疎通ができるのは大変便利である。
なんとなく認めたくはないが、感謝するべきなんだろうな…言いたくないけどありがとうございます。
それにせっかく魔女に会ったんだから魔法っぽいものが見たいなとは思ってたし、話す黒猫っていうのはかなり魔法っぽいから側から見ていれば嬉しかったんだろう。まさか自分がなるなんて思わなかったがな…
それにしても、勝手に姿を変えられて舎弟にされ、ディスられるなんでひどい状況下でも、しっかりお礼が言え冷静になれる俺。流石である。これはもう鋼メンタルハートなのではないだろうか。
俺は自分に感動した。
「自画自賛かい?全く先が思いやられるねぇ。見てるこっちが不安になってくるよ。」
ため息をつきつつ魔女は腕をスイッと一振りした。
するとあら不思議、その手には杖が握られていて、おお?杖が光ってる!しかも黒い帽子とマントも出現した。メタモルフォーゼ!凄く魔女っぽい、カッコイイ!ここにきて初めていいもの見た!
「魔女っぽいんじゃなくて魔女なんだよ、ハァ…まったく…餞別だ、それもくれてやる。」
その言葉と同時に杖から出た光のキラキラが俺にまとわりつきスゥッと中へ消えていった。
感動している場合じゃなかった。また断りもなく体に何かされてしまった。今何をしたんだ!餞別ってなんだ!情報規制反対!
俺が騒いでいるのを無視する魔女。そして今度は魔女の手元に、厨二な装飾の本棚から一冊の本が飛び込んできた。すっ飛んできた勢いで魔女のマントが翻る。アクシオじゃん!
…おっと?あの本は、先程俺が見ていたラノベだろうか?
遠目で分かった理由?だって他の立派な本と比べて装丁が何というかペラいのだ。ラノベだから本のサイズも小さめだし。
引き続き呆れこちらを見ていた魔女はクルクル杖を回しだした。すると今度は先程の本が勝手に開き浮かび上がる。
魔法だ!今度は生のウィンガーディアムレビオーサだ!俺は今、魔法をみている!ちょっと想像していた魔女と違うとか思ってすみませんでした!
そんなことを思っていたら、さらに俺の体も浮かび上がった!俺、初めて宙に浮きました!
この魔女にこんなサービス心があったなんて…クソババアなんて言ってたのマジごめんなさい。
「…浮かせたのは別にサービスじゃない。まぁまだ自力ではうまくいかないだろうからこれもついでだ、持ってきな。」
なんだ!実はめっちゃいいやつじゃないですか!
そしてそろそろ餞別とやらの説明お願いします!
魔女の周りで空気が渦を巻く。はたはたの揺れるマントが最高にかっこよく見えた。ハイハイ、説明は待ちますよ。
それを見ていると今度はポンッとチリトリ出現した。
そして何と、そのチリトリ&開いた本が猛烈な勢いで迫ってきたのである。もちろん俺に向かってだ。
空中に浮かぶ俺は当然避ける術なんてないわけで、
バシンッ ガツーンッ
でかい音を立て二つは同時に俺に当たった。
本は頭、ちりとりは俺の大事なアソコにクリーンヒットであった。もうお婿にいけないであろう激痛が俺を襲う。
" やっぱり クソババアァァァァァァァァ "
そう心で叫びながら俺の意識は完全にブラックアウトしたのだった。