12、魔王の章 俺のフレーメン現象
カァン、カァンと夜の村に警鐘が響く。そんな中、俺はハンターの説明に耳を傾けていた。
先程の一瞬にして消えた偉そうな真っ黒乱入者は、ハンターの話によるとバンパイア至上主義者の可能性が高いらしいそうだ。
確かに下等種族が!とか言っていた気がする。おかげで夜中だが村は警戒体制に入った様であの警鐘である。あんなの聞こえたらみんな飛び起きるんだろうな。
「無事身を守れ良かった。ひとまず窓さえ閉めていればもう入ってくる事はないだろう」
え?なにその窓への絶対的な信頼。鍵もしてなかったし、俺、簡単に入れたんだけど?
「今はちゃんと窓にバンパイア避けはしてあるから平気なのさ。」そういいながらハンターは新たに窓辺に吊るした納豆束に触れた。ニンニクじゃないけど、納豆ってバンパイア避けにもなるのか?
「ニンニクを守りに使う方もいるらしいな。各家庭、皆匂いがあるものをかなり備蓄しているはずじゃからそんな家もある。奴らは総じて鼻が良いからな。いくら腹が空いたところで嫌いな匂いのもの避ける。今回は掃除で換気して部屋に匂いがこもっていなかったから入りやすかったんじゃろうなぁ」
戸棚いっぱいの納豆があった理由の2つ目がここでようやくわかってスッキリである。面倒避け?とか言ってたっけか。これがバンパイア避けだったとは…しっかし各家全て臭いものは何かしら常備しているのも凄い。鼻が慣れるまでは最悪な世界観なんじゃなんじゃなかろうか?どうりでずっとフレーメン現象が止まらないわけだよ。
フレーメン現象って知ってるか?臭いもん嗅いだ時、猫なんかが口開けて舌出したアホ顔になる現象のことなんだが、まさか自分の表情筋がこうも言う事を聞かなくなるとは思わなかった。さっきから気を抜くと、今の俺は勝手にこの顔になってしまうのである。
この現象が俺は我慢できなかっだのだ。白状すると、先程換気をしてしまったのはフレーメン現象ストップ強行派の俺なのだった。もちろんハンターにはしっかり謝ったぞ?夜は換気厳禁と知らなかったとはいえ、こんな危険を招いてしまい大変申し訳なかった。
聞くところによれば昼窓を開ける分には問題ないという事で、家に風を通すのは昼の作業なのだそう。夜間清掃なんて慣れないことするもんじゃないよなまったく。
そして気になってたんだが、さっき窓の外に落ちたやつはどうするんだ?警鐘が聞こえたって事は何か被害が既に出ていそうだ。大丈夫なのだろうか?
「この家から銃声が聞こえただろうからな、何か異変が有れば鐘を鳴らす様にしているからそれで大事を取って鳴らしたんじゃろ。もしかしたら村の若いのがこっちに様子見に来るかもしれんが、こんな時は急いで避難せずみんなじっとして身を守る。ホラ、皆家の窓に灯が灯ったろう?灯がついていない家が危ない家かもしれんな…まあ臭いものに囲まれていればそうそう襲われんし、換気しとらんかったら大丈夫じゃろう。窓の外のやつは知らんがまぁまだ生きとるじゃろうな」
まだ危ない奴がウロウロしてるかもしれないのに、結構ざっくりした身の守り方で逆に不安になるのは俺だけだろうか。そしてやはり臭い自覚はあったんだな。
家の中で鼻栓とかマスクするのは嫌だし多少はしょうがないのかもしれないが、ファブ◯ーズがない世界だ。しかも換気はなるべくしない文化に俺は馴染めそうもない。
しかしそういうことであれば、ビッショビショで先程の頭突きをした際に納豆まみれとなったモップの化身はかなり良い守護神なんだろう。今夜はコイツがいるだけで安心できそうである。俺は終始フレーメン顔になりそうだけどな。
"ふふん、僕のおかげだねぇ〜"
そうだな、結局不法侵入者を倒したのはお前だし。後でチリトリは回収しないといけないだろうが、不審者を放り出してくれてありがとう。
俺が犬にお礼を言っていた時だ。今度は強いノックの音と人の声が聞こえた。そしてハンターが玄関に向かう。
「ポールさん!大丈夫だったか!?」
家のドアを開けた途端1人の青年が家に入ってきたらしい。廊下の話し声はこちらに近づいてきた。
村の若いのが来るかもしれないって言ってたからそいつなんだろうか?
"そうだよ!村で1番頼りになるニンゲンさ!"
"ヤダ、カイ君じゃないの!撫でてもらわなきゃ!"
なにその反応、オイコラ三毛猫、お前なんだよその代わり身は?
"はぁ?うっさいわね、私と彼の邪魔してみなさいよ。タダじゃ済まさないから"
そういいながらミケ猫も廊下へ出ていった。猫多すぎるな、もう呼び方はミケでいいだろうか。
"カイくん久しぶり〜!撫でてくれても良いのよ〜!"という上機嫌な声と共に猫特有のゴロゴロが聞こえてくる。
性格悪すぎるだろアイツ。本当にアニキあれが良いの?
"強くて美しいだろ?"
ごめん、ちょっとよくわかんないわ。
"確かに性格は悪いけど、あれでいて意外と面倒見はいいんだよぉ〜そっちの黒いのはミケちゃんのことが好きなのかい〜?"
俺を挟むことで会話を成立させるのやめてくれない?しかし性格が悪いと言葉も伝わらないはずの相手に言われているとは、アニキよ、絶対 痘痕もエクボ状態だろ?
勝手に人を下僕扱いして番号を振るわ、指図してくるわ、Mじゃないとちょっとついていけないんじゃないのアレ?強い女がそんなに良いのか?
"Mってなんだ?俺がそれなのかはよくわからないが、少なくとも俺は強い女は発情相手には必須条件だ。そうでないと子が生き残れない。"
"強いからとってもミケちゃんはかっこいいんだよぉ〜この間もモグラを捕まえてたしねぇ、それを僕にも分けてくれるんだぁ。まぁ色々頼み事は沢山されるけどねぇ"
犬と猫の間で頼み事できんの凄くない?俺いなくても意思疎通できる時点で、アンタらってもうかなり仲良しなんじゃなかろうか。
そして、人、まぁ犬?使い荒い、面倒見が良い奴であると聞き、俺のアイツのイメージはすっかり和田ア◯コになってしまった。あんなハードな女、俺だったらごめんだけどな…
"ハードな女?アンタ、私の悪口をヒソヒソ話してたのかしら?"
ミケの悪口を俺が口にしているバットタイミングで、ハンターに抱っこされ張本猫が部屋に帰ってきた。まったくついてないわ…
"ちょっと!和田ア◯コって何よ?私に似て美しい女なんでしょうね?"
あーハイハイ、かなり似てると俺は思ってますよ?
さっきだって、強くて美しいとか、面倒見が良いって話してたんですよマジで。言ってたの俺じゃないけどな!
その会話の流れで、抱っこされたミケの方へ俺はつい目線を上げた。
そして、そのおかげでフレーメン現象で開いていた口をさらに開く事になったのである。顎が外れそうになるという状態をガッツリ体感だ。顎関節症患者にこれはキツい。
そっか、そっか!そういえば確かにさっきカイ君ってミケ言ってたもんな!
ハンターと共に部屋に入ってきた青年の名を、俺は聞かずとも知っていた。
彼の名はキート・カイモス。
このラノベ世界の主人公だったのである。




