1、始まりの章 俺のおはなし
はじめまして!インリバーです。2週間に一回月曜更新を目安に頑張りますのでよろしくお願い致します。
東京の中野に行ったことはあるだろうか?
まんだらけやブロードウェイ、サンプラザなんかで有名な気がするがどうだろう?
朝は伝書鳩大会の鳩が大量に旋回し、夜は学生とサラリーマンが居酒屋やラーメン屋にたむろする。
日本の中で人口密度がいつも上位なだけあって住宅街が多くて新宿も近いし住むのには困らない、あとは野良猫が結構いる。
うっすら聞いたところによると去勢手術まで野良猫にしてあげているらしいので驚きだ。
まあつまり、当然そんな猫がいるって事はそれだけ面倒見の良い人が一杯いるって事だろう。
交通の弁がよく、学生、サラリーマン、ラーメン屋があって、猫の面倒見る人が多い。
俺が住んでいるのはそんな街である。
俺は八雲 章幸という。二十代後半、まだおじさんとは言われない年のピチピチサラリーマン独身だ。
越してきてまだ半年程度であり、ちょっと背伸びをして中野を選んだ理由は交通の弁のよさとすみやすそうな街の活気に当てられたからだった。
この街に住んでみて嬉しかったのは本屋や図書館や古本屋が意外と多い、ということだろうか。
大きな本屋は上階にカフェがついており、買った本を読みながらのんびりできるし、図書館はなかなかの広さで使用している人はみんなマナーが良いように感じた。
大通りには古本屋もポツポツとあり、本が好きな俺はブラブラして結構掘り出し物なんかがあったりしてな。
俺は結構雑食なので色々手を伸ばして読んでしまうのだが、最近は参考書や自己啓発系、物語系、海外の奴の他にラノベもチェックしはじめていた。
特にその中でも "異世界転生系" の話に俺はハマっていたのが後から考えると良かったのか悪かったのか…
この文章を読んでいる方にはお分かりいただけるだろうが、このジャンルの話は最近勢力をかなり拡大している。
大体の話は主人公が才能にも運にも恵まれ異世界でブイブイいわせているということだ。
その世界の中で自分の力を使い、周りを巻き込み
敵を倒す、都合の良いように物語を進めていく。
そんな所が俺は大好きでいて、大嫌いでもあった。
これは"異世界物語のオヤクソク"を粉砕しながら突き進む俺と仲間達のおはなしである。
――――――――――
"今日の運勢、最も悪いのは〜? ごめんなさい
水瓶座のあなた! 次々と災難に見舞われるでしょう。気分で行動すると事態が悪化してしまうかも?そんなあなたもこれで大丈夫!ラッキーアイテムはペン!文章をー"
全くせっかくの休日にケチをつけられた気分になりチャンネルを変えながら朝食を取る。
賞味期限切れのやつをいくつか食べ上げてしまおう。消費期限ではないので俺の中ではセーフだ。
消費期限であってもシャケは焼けばセーフ。
納豆とヨーグルトはもともと腐ってるからこれもセーフ。
新しく手をつけようとしたキムチは諸費期限のラベルがぐるっと巻かれているタイプだったので、剥がした後ペンでキムチパックに直接書き込んだ。その後、なんとなくさっきの占いを思い出して胸ポッケにそのペンを差し込む。
朝から臭いものばっか食ってるって?臭いもんって美味しいからしょうがないだろ。
その休日、俺は駅近くの大きな本屋に何ヶ月か前に出ていた本の新刊をようやく買いに出かけようとしていたのだった。
朝食を食べ終え、ワイドショーを切り、いつも通りに靴を履き、ドアを開けてボロいアパートを後にする。
坂を降り、廃品回収車の音の大きさに顔を顰めて神社の前を通り過ぎた。
ちょっとムカついていたせいか、近くにいた商店街に住む野良猫に気づかず当たりそうになる。緊急回避は成功した。
こんなにうるさくても関係ないぜ、なんて顔をしてゴロゴロする道端のそいつを眺めつい俺は溜め息をつく。猫を見習い細かいことにイライラするよりももっと楽しいことに目を向けよう、そんな事を考えていた時だ。
そのまま通り過ぎようとした商店街にふと古本屋があることに気がついた。
今までここに古本屋があったかは覚えていないけれど、結構年季が入った店が前を見ると成程、いつもはシャッターが閉まっていた場所だろう。
個人商店で本を買う場合、大手よりも安い場合がある事を知っていた俺は駅前の本屋に行く前にここの本屋にも寄ってみることに決めた。くるりと方向転換する。
まぁ何ヶ月か前に出たっていっても新刊だし古本屋にあるかどうかは微妙だけどな。
なくても駅前本屋に行けばいい話だし、と思いながら店の看板をみると、古ぼけた看板には
"古本屋世界" さらにチョークで "ラノベもあります"とも書かれていた。
なかなか家からも近いし、ラノベもあるし、結構嬉しいかもしれない、なんて考えながら店のドアを潜ると、中はこじんまりとしてそれでいて陽の光があまり入らず薄暗かった。
独特な本の匂いと、ひんやりとした空気、少しだけ入った光に埃が舞って光って見えるなかなか雰囲気のある店に少し心が躍る。
知らない街で本屋見つけるとワクワクする。
新しく買った本の1ページ目をあけるようなまさにそんな気持ちといえばつたわるだろうか?
「すいませーん!」
新刊の有無を聞くために声をかけたが、返事はなく人の気配はしないようだ。
本で囲まれた店の奥の雑多に物が置かれたカウンターにも人の姿はなく、不用心さにあきれを通り越して驚いた。
まさか店の奥で事件があって人が倒れてるなんて事は……ないない。
一応いろんなものがごちゃごちゃと積まれたカウンターごしに人が倒れていないか確認し、
昨日の金曜ロードショーだったコ◯ンのせいで思考が物騒になっているなと内心苦笑いした時だ。
カウンターの上のごちゃごちゃの中にあった本に目がいった。
おばさんとこの本屋によく似た絵が描かれた本なのだが …その本の絵のおばさんと、目があった気がしたのだ。
その時俺はおそらく少し驚いて組み立て式であろうカウンターに手をついただけだ。
そのカウンターがだいぶ危ないバランスで立っていたなんて上に物が乗りすぎて気付くはずもなかった。
ドサッドサドサッと物の山が崩れる。尻餅をつく俺、そして落ちてきたごちゃごちゃと頭にぶつかったさっきの本。
イッテェ!と思った瞬間、
俺は先程とは違う場所にいたのだった。