野宿
触手を伸ばし、数本を先の方に倒れている木を切るのに使う。腕輪から狼の死体を取り出す。熊の死体は一応収納してあるが、グチャグチャの挽肉になってしまっているので、ここでは食うことができない。
狼の肉なんぞ食ったことはないが、異国では犬を食べているところもあるというし、まぁ、大丈夫だろう。狼も犬もそうは変わらないはずだ。
毛皮を別に収納し、触手を一本展開。肉をぶつ切りにする。そして、腕輪から容器に入った粉を二つ、取り出した。塩と胡椒だ。あの家の中には、確かに食料が無かった。だが、なぜか調味料だけは大量にあったのだ。塩、胡椒、甘辛いタレ。中には自分の知らないものも少しあった。恐らく、あの家に戻るのは、しばらく旅をした後だろうと思い、調味料をもらってきた。
肉に少しの切れ込みを入れ、塩と胡椒をまぶす。これで、何の味付けのない肉よりはマシになるだろう。
その辺に落ちている枯れ枝を何本か触手で取り、肉を突き刺す。
肉の串刺しが5本できたとき、木を切り終えた。触手で木を巻き取り、こちらに戻す。
まだ、遠くで精密な動作を行うことは難しいので、結構な大きさのままだ。
腰を上げて、触手を腕に巻きつける。
形態変化、斬。左腕が1本の刃になる。ドクリ、と脈打つその感触に慣れるには、あと少し時間が必要かもしれない。
腕を振る。一回、二回、三回。回数が重なるごとに、倒木は小さくなっていき、薪へとその姿を変えていく。切った木の量は丁度よかったようだ。少しの木を切り刻み、おがくずにする。焚き火の準備をして、ふと考える。
どうやって火を起こそう?
火の魔術が使えたら、呪文を詠唱し、魔力を込めるだけで着火できる。しかし、自分はそんな便利な力を持っていない。摩擦で火をつけようにも、相当な力と時間がいる。力の面は別に大丈夫なのだが、ただ単に面倒だ。ならば、どうやって火をつけようか?
面倒なのはごめんである。生きるために必要とは言え、自分は楽をしたいのだ。それは皆同じ。
自分に手紙を当てた彼からの贈り物に何か便利なものは入っていなかったか?
出発前にしっかりと確認をしなかったのが悔やまれる。
溜息を一つ。
腕輪の中を意識すると、脳裏に一覧表が展開される。火をつける程度の道具ならすぐに出てきそうなものだが、なぜ、ドラゴンの骨や悪魔の角が出てくるのだろうか。
溜息を一つ。
少しずつ見ていくと、それが目に止まった。黒い手袋と、同じく黒の眼帯。眼帯は両眼を覆うもののようだ。眼帯はどうでもいいが、手袋はいい道具のようである。
黒王
手袋、眼帯。手袋は摩擦力の増加など、世界の法則を少しだけ操ることができる。また、魔術の核を的確に撃ち抜き、魔力の吸収も可。眼帯は、左眼で魔術の核を見ることができる。右眼は物体の解析が可能。所有者固定。材質不明。製造不可能。
製造ができないのに、ここに存在しているという矛盾。では、何から生まれてきたのか。その辺の謎はどうでもいい。重要なのは、世界の法則を少しだけ操る。ここだ。摩擦を増加すれば、火を付けられるかもしれない。
早速やってみる。腕輪から手袋を取り出し、装着。自分の手に合わせて作られたかのように、手に馴染む。中指と親指で指を鳴らす。光が散った。これなら、いける。
おがくずに手を近づけ、一鳴らし。小さい、まだ赤子のような火種ができる。手で少し仰いでやり、風を送る。火が木に移る。焚き火の完成だ。
そこから適当な距離を取り、串刺しの肉を地面へ突き立てる。寝袋やテントなどの夜営用の装備は、腕環に入っていなかった。この目の前の焚き火が、自分の一晩の友となる。
肉が炎で炙られ始め、食欲をそそる香りが周囲へと漂う。5分程たち、ようやく焚き火で焼いていた肉にも火が通った。串を地面から抜いて肉汁の滴る肉へとかぶりつく。
ふむ、肉だ。圧倒的肉だ。一口目で感じたのは芳醇な肉の味だった。などと、言っても同じ。しかし、毒があるかもとほんの少しだけ覚悟はしていたのだが、全くそういうことはなかった。肉としては美味い部類に入るだろう。塩と胡椒がいい感じにきいている。
ただ、惜しむらくは熊の肉を食べられないことか。魔物の肉というのは基本的には持っている魔力が高ければ高い程に美味くなる傾向があるのだ。しかし、あくまで傾向。当然、魔力を豊富に持っていても不味いものは存在するし、魔力が少なくても、美味いものはある。
ゆっくりと、一通り食べて満足した後は、デザート代わりにオランジェの実を取り出して齧り付く。
甘酸っぱい果汁と果肉を持つその実を素早く腹に入れる。少しだけ休み、ゆっくりと立ち上がった。
黒王の能力は、同じくなろうで執筆している先輩と同級生にアドバイスをもらいました。能力だけで1時間悩んでます。
僕の小説を読んでくれる方に感謝。来週もお待ちください