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【1-16】前線都市ファルエル グレイ家 居間 / カウントダウン

 病院巡りを終え、日も暮れて、グレイ家にて。


「格好良かったわよ、シャラちゃん!」

「内心ヒヤヒヤでしたよ。あんなのやったことないですし」


 謎の薬草茶を飲みながらシャラとマリアベルは一息ついていた。

 外ではあくまでも謎のキャラ付けで通しているシャラは、帰ってきてようやく一息つくことができた。


 一日掛けていくつもの術医院を回ったが、ハイライトはやはりガイレイの呪いに冒された少年の腕をシャラが切り落としたことだろう。

 前世でシャラは医者でも軍人でも肉屋でも殺人鬼でもない商品企画業のサラリーマンで、手術の経験など無かった。自信満々な演技をしていたが実は冷や汗ものだったのだ。

 幸いにも手術は成功したので、後は傷が塞がれば少年は元気になることだろう。


「≪治癒促進リジェネ≫行脚も手伝ってくれてありがとね。みんなポーションを節約できてよろこんでたわ。怖くて直接はお礼言えなかったみたいだけど」

「鳥無き里のコウモリ……人里のドラゴンってか。魔力持ってるだけで大活躍だな」


 くすぐったい気分でシャラは苦笑する。

 シャラの力は、ガイレイを殺した謎のブレスを別とすれば本当に大したことない。

 だが、そもそも人族はマリアベルみたいな例外を除けば自力で魔法を使えないわけなので、『自前の魔力がある』というただそれだけのことがシャラの存在意義となっていた。


「ところでシャラちゃん。下着も用意したはずだけど、あなたノーパンで通す気なの?」


 突然マリアベルが繰り出した殺人的斬れ味の指摘に、シャラはスカートを押さえてぎくりと声を詰まらせる。


「……気が付いてました?」

「階段でやたら後ろ気にしてるなーと。あと綺麗すぎるヒップライン」

「しまった、そんなとこでバレるのか」


 どうせスカートなのだからバレないと思っていたのだが甘かったようだ。


「女物の下着は流石にいくらなんでも……」

「抵抗ある? ……ノーパンの方が恥ずかしくない?」

「気分的には若干マシ。だって、ノーパンは男だってやる奴居るかも知れないことだし」

「屁理屈ね。とにかく女の子がそんなはしたない格好するのは許しません」

「うええ……別に理由は『恥ずかしいから』ってだけじゃないんだけど……」


 マリアベルが用意した服の中にあったおパンツ共が、シャラの頭の中で下着旋風パンツネードを起こしていた。

 古式ゆかしい純白のドロワーズ、シャラが生きてた時代の地球にもあっただろう白青の縞パン、大人っぽいやつ(ちょっとせのびパンツ)……

 今のシャラは少女の肉体なのだから、そういう下着を身につけることに問題は無いはずなのだが、前世でも今世でも男あるいはオスとして数十年生きてきたシャラがいきなり女物の下着を身につけるのは、服以上に抵抗が大きかった。


「人前に出るときだけでもやめなさいよ」

「……明日も病院巡りですか?」

「それなんだけどね、冒険者ギルドの方から協力要請が来てるの。私とシャラちゃんに」

「協力?」


 冒険者と言えば、ドラゴンの手下たる魔物だの、ドラゴンそのものだのと戦うのを生業とする職業。

 そんなギルドがドラゴンに協力を求めるとは只事ではない気がする。


「負傷者の治療には魔法だけじゃなくってポーションも使うでしょ。

 ところが。低位中位の冒険者がお使いで薬草摘みに行くフィールドに、今は超強力な魔物がうろついてるの」

「なんだってそんな…………ああ、そうかガイレイが連れて来た奴ら!」

「そうそれ」


 シャラはガイレイを倒し、ドラゴン共は巣に逃げ帰った。

 しかし、ファルエル攻略のために連れて来た手下たちは命令者を失ったまま、未だ適当にたむろしているのだ。

 連れ帰る余裕すら無かったに違いない。


 そんな連中が街の近くに居座ってしまえば、いい迷惑だ。


「触媒をなるべく使わないよう、医療はなるべくポーションで補ってるんだけど、そのポーションの材料が尽きちゃったら大変だわ。

 それと、強力な魔物からは良い触媒が取れるから、街の近くに来てるなら逃がす手は無いし……

 数日がかりで大掃除をすることになったのよ」

「それで俺にも協力して欲しいって話ですか」

「……どっちかって言うと、ドラゴンと戦えるレベルの冒険者をあなたの見張りに取られてると厳しいから、いっそのこと来てくれた方が良いって話だと思う」

「一石二鳥なんですね……」


 今も冒険者が二人、シャラの見張りとして居間の隅に控えていた。物騒すぎる壁の花だ。

 装備は使い古されていても手入れが行き届いた立派なもの。堂々たる立ち姿だけ見ても手練れの雰囲気が漂う。シャラの見張りとして浪費するには惜しい人材なのだろう。

 もしシャラが討伐へ出るのであれば、見張りの冒険者も一緒に来ることができるという寸法だ。


「そのために明日は冒険者ギルドまで、打ち合わせとか手続きに来てほしいって。だからまず明日は…………」


 空のカップを持ってマリアベルは席を立つ。


 その時だった。急に重力が増したかのように、マリアベルが倒れたのは。


「マリアベルさん!?」


 椅子を蹴ってシャラは滑り込み、マリアベルの身体を抱き留めた。

 彼女の手を離れたティーカップが鋭い音を立てて割れた。


「……ごめん、ちょっとくらっときた。あはは、魔力の使いすぎかな?」


 テーブルに手を突いて身体を支え、マリアベルは立ち上がる。

 まだ少しふらつきながらも、彼女は箒とちりとりを部屋の隅から引っ張り出そうとしていたので、シャラは割って入って自分が箒を手にした。


「ありがと。

 ……えっとね、明日はまず冒険者ギルドに行って欲しいの。

 作戦は明後日からだって話だから至急よ。襲撃で前代未聞なほど怪我人が出てるから、薬草摘みができなくなると死活問題だし」

「あの、マリアベルさん。本当に大丈夫ですか?」

「平気平気」


 シャラは割れてしまった陶器を掃き集め、手早くちりとりにまとめる。

 マリアベルは全身重たそうな様子で椅子に座り直して、その姿を見ていた。

 済まなそうに笑っているのが痩せ我慢にも見えた。


「ゆっくり休んでください。本当に魔力切れなら、寝れば回復するでしょうし」

「はーい」


 カップの破片をちりとりに収めたシャラは、ひとまず片付けを後回しにしてマリアベルを抱え上げた。


「あら」

「ベッドまで運びますよ」


 いわゆる『お姫様抱っこ』の体勢。

 体格差があるせいで格好付かないが、ドラゴンの膂力なら女性一人持ち上げるのは容易いものだった。


 抱き上げられたマリアベルは、感極まった様子で抱きつき返してきた。


「あぁーっ、シャラちゃーん! 優しいわー!」

「ちょ、待っ……胸っ……! 窒息……!!」


 主に頭部を抱きしめられて、シャラは顔を胸にうずめさせられる。

 直立不動で見張る二人の冒険者(三交代制)は、ちょっと気まずげに視線を逸らしていた。

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