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【1-11】前線都市ファルエル 冒険者ギルド 地下封印室 / 幻惑のマリアベル

「なんっ……」

「迂闊に動くな、ドラゴン。その剣が何かは分かるな?」


 いきなりのことに立ちすくむしかないシャラ。

 シャラの首に突きつけられた四つの刃からは、何か、嫌な魔法の気配がした。


「『対竜特効武器アンチドラゴンウェポン』! あんたら、こんな物まで持ち出して……!」

「ドラゴンと相対するというのがどういう事か、君も知らないわけではなかろう? マリアベル・グレイ。

 君の師匠は君よりもよく分かっていたようだがね」


 人族だってドラゴンにやられっぱなしではない。

 魔法技術の粋を結集し、ドラゴンに対抗しうる武器を生み出していた。

 それが『対竜特効武器アンチドラゴンウェポン』。ドラゴンの肉体を魔術的に分解し、破壊する武器だ。

 ただでさえドラゴンとして出来損ないのシャラは、こんなもので斬られたらひとたまりもない。

 息すら止めてホールドアップするより他に無かった。


「おかしいでしょ!? もしシャラがスパイとか、この街に害意があるなら、そのためにわざわざガイレイを殺す意味なんて無いじゃない!」


 傍らではマリアベルが必死の抗弁をするが、降ってくる声は硬いままだ。


「分からんぞ。そもそも、本当にそいつが出来損ないだというのなら、そんな奴が竜王ガイレイを倒せたというのが怪しいのだ。

 例えば、死んだガイレイは偽物で……竜王を倒したと偽って街に潜り込もうとするこやつこそがガイレイの化身なのかも知れん」

「そんなっ…………」


 ガチガチに固められた地下の部屋。

 精鋭らしき戦闘員。

 この『事情聴取』が行われている環境を考えれば、シャラに対する警戒心の程も分かろうというものだ。

 だが、彼らはシャラの想定以上に敵対的だった。


 ――なんでガイレイを殺せたかなんて、俺だって分からないのに……!


 今だって夢なんじゃないかと思っているくらいだ。

 シャラ自身に不思議なのだから、それを傍から見ていた人が不思議に思うのは当然で。そこから警戒や疑念に発展するのもまた、当然で。


「ナンセンス。竜王を倒して街を救った英雄にあんまりじゃない。

 疑おうと思えばどこまでだって疑えるわ。疑って調べるのはあなたたちの仕事だけれど、制御下に置けないものを毛嫌いするのは保身のためでしょ。あなたたちはいつもそうだった……」


 マリアベルは吐き捨てて、苛立たしげに肩をすくめた。


「それこそ邪推だ、マリアベル・グレイ」

「……生き残ってる街の評議員は全員そこに居るのよね?」

「その質問には答えられない」

「師匠に貸しがあったことを忘れている人も居るんじゃないかしら?

 師匠が死んだから踏み倒せるって思っているのかも知れないけれど、そうは問屋が卸さないわよ」


 高いところに居る数人は、押し黙った。


 評議員なるものが何なのかシャラは知らなかったけれど、まあニュアンスで大体分かる。

 この街を政治的に動かしている人々の集まりというところだろう。


「私はね、あなたたちがちゃんと仕事をして街と人々を守っているなら、多少の問題は大目に見てもいいと思ってるの。大っぴらにできないことをしてるのはお互い様だものね。

 でも、あなたたちが道理の通らないことをするなら容赦はしないわ。街がひっくり返るわよ」


 返事はない。

 ただ、シャラの聴覚はヒソヒソと囁き合う声がある事を感知していた。


「な、何事ですか」

「ちょっとね。割と最近の、汚いお金とかインモラルな男女交際の話。

 どうしても街に混乱を起こせない時期だったから隠蔽に力を貸したのよ、師匠が」

「……『どうしても街に混乱を起こせない時期』にそんなことしてたんですか。この人ら」

「ねー。アッタマ悪いわよね」


 マリアベルは心底呆れた様子で言ったし、シャラも呆れていた。

 こんな人類存亡の最前線でやらなくてもいいだろうに、と思うのは間違っていないと信じたい。


「脅迫する気かね。なら、こちらも君を捕らえてここから出さないという手があるわけだが」

「あら……」


 相も変わらず、上からの声は高圧的だ。

 こんな場所に二人を呼びつけて閉じ込め、周囲を精鋭の戦闘要員で固めさせているのだから、気も大きくなるだろうというものだが。

 しかしマリアベルは不敵に微笑んだ。


『ドウヤッテ?』


 マリアベルの肌が剥がれ落ちた。


 質素な魔女ローブも、艶やかな柔肌も色褪せてばらけ、それは何故か無数の木の葉となって舞い落ちる。

 後に立っていたのは、等身大のデッサン人形みたいな木製で人型の何かだ。


傀儡くぐつ……!?」

『本物ノ私ガココニ居ルトデモ勘違イシテイタノカシラ?』


 デッサン人形はのっぺらぼうの顔でケラケラと笑った。


 こういった魔法の話はシャラも聞いた事があった。

 自らの分身を生み出して操る魔法だ。ある種の幻術も併用することで、傍目には本物と全く区別の付かないような分身を作り出せる。

 この場にやってきたのは最初から偽物のマリアベルだったのだ。


「……俺も知らなかったんスけど」

『敵ヲ欺クニハ、マズ味方カラヨ。コウイウ展開モアルト思ッテ備エテタワ』


 マリアベルは得意げだ。どこで入れ替わったのやら。多分、呼びつけられて冒険者ギルドへ向かう前に『財布を忘れた』と言って家に取りに戻った時が怪しい。


『不毛ヨ、コンナノ。ソロソロ落トシ所ヲ提示シテモラエナイカシラ?』


 長い間があった。


「…………彼女が街に居る限り24時間、精鋭の監視を付ける。ドラゴンとの交戦経験のある防衛兵団員や冒険者をな」

『女性ヲ要求スルワ。ドウセ、トイレノ中マデ付イテ来ルンデショ?』

「善処しよう」


 渋々、という色を滲ませて、天の声は要求を呑んだ。

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