婚約破棄された青年社長は代理出産の道を選択する~俺の資産目当ての女性が多すぎる~
「ねえ、別れてよ」
彼女は開口一番切り出した。
「それはどういう……」
思わず口ごもりながら訪ねるて、
「アンタよりさ、いい男が見つかったの。だから、別れて」
彼女はグラスのワインをくいっと飲み干すと勢い良く席を立った。
高級レストランに良く映えるいい女だ。
悠然とさっていく姿も俳優の様にさまになる。
そんな女が、自分の手の中から零れ落ちていった。
「はぁ…」
部屋の暗がりの中、一人ため息をついた。
手の中には彼女に渡すはずだった婚約指輪。
最早、無用の長物となったそれを弄びながら、ベッドに身を横たえる。
これで三度目であった。
女性と付き合い、結婚寸前までいく。しかし、その直前に婚約破棄。
これまでに、彼女らにどの程度の金を貢いできたのか。
馬鹿馬鹿しい。
それらの金があるのなら社員のボーナスを増やした方がいいが、余程有意義だ。
その時、手元のスマホが鳴る。
この番号は、ああ、あの娘か。
あの娘も一件清純そうなんだが、この間、店を出したいとかやたら言っていた。
おまけに他の男とも付き合ってるし……。
彼女にすれば、男同士を競わせて如何にこちらから金をせしめるかのゲームに興じているのだろう。
確かに、彼女はそれにふさわしい美貌だ。男を天秤に掛けるに値する容姿だ。
だが、だから何だというのか。
確かに一時の虚栄に酔うのは素晴らしい。が、それで彼女の愛を勝ち取れる訳でも向こうの相手を越えた訳でもない。
単に彼女がより大きな金を巻き上げているだけなのだ。
本当に馬鹿馬鹿しい。
どいつもこいつもそうだ。
今日フラれたあいつにもマンションや高級外車を買ってやった。確かにその時は喜んでいた。だが、心のなかでは舌を出して笑っていた。そりゃ中身のない愛だの絆だの囁くわ。言いさえすれば馬鹿な男が際限なく貢いでくれるんだから。多少、露出の多い服で媚び売ってりゃいいだけの簡単な商売だ。
心の底から馬鹿くさくなった俺は、とりあえず知り合いの女性、仕事以外全員の電話番号を消去した。
翌日、心は晴れないがそうも言ってられない。気を取り直して相手会社との打ち合わせに挑む。
打ち合わせは順調にすすんだ。やれやれ、これくらい結婚も上手くいけばいいのだが。
ふと取引先の相手ーー今日は向こうも社長が出向いて来ているーーその指を見ると、以前あったものがない。
「気づかれましたか~」
彼は困った風に頭の後ろをポリポリと掻いた。
「いや、先日離婚しましてね。
何でも性格の不一致ーー後で調べたら向こうもの不倫だったんですが、子供を取られましてね~。今、慰謝料巡って裁判しているんですわ」
「大変ですねぇ……」
「いや本当、調停員は男をだらしないだの、それくらい払うのが男の甲斐性だの、慰謝料不払いは犯罪だの、向こうな肩ばっかり持ち腐る。
裁判はしますが、結婚はもうこりごり」
「ですが、子供はどうするんです?」
「まあねー、一応、代理出産考えとるんですわ」
「代理出産ですか?」
「それなら結婚なくても子供が持てますしなー」
代理出産。
その手があったか。
今日の取引は大変、有意義なものになったのであった。
「代理出産かー」
仕事を終え、ネットで早速調べ始める。
うーむ、こう見るとそれなりにメジャーなんだな。結構、みんなやっていた。
やはり、自分同様、社員にも利用者が増えている。昨今のフェミニストの強まりから裁判では女が不倫しても、それは正義みたいのが多く、離婚されたら一方的に財産を奪われる。
ならば、最初から結婚という選択肢を捨て資産を守ろうという動きが流行っているらしい。
確かに結婚だと、そこに行くまでにいくらかけているか分からない。その上、離婚リスクを背負うのは、男に取って一理なし。
ここに来て自分も結婚という選択肢を捨て、資産防衛のためにも代理出産を選ぶのだった。
という訳で、1年後、無事に自分の子を手にする事が出来た。
うーむ、自分に似て不細工だ。
まあ、それも良いだろう。
社員が祝いにプレゼントをくれた。可愛らしいベビードレスだ。
代わりに社員には一人頭10万の臨時ボーナスを出した、これでも女に貢いでいた時の十分の1だから恐ろしい。一体、いくら女に貢いでいたんだか。
会社でも子供の面倒見るべく子供用の施設が必要だな。社員にも子持ちが多いから福利厚生にまもちょうどいい。
これから賑やかになるかもな、と社員に抱かれて泣いている我が子を見ながら感じた。
完