これからもずっと⋯⋯ずっとずっと胸に志す俺の使命⋯⋯それは⋯⋯この身体(みんな)を守ること。
短め
そこからは早かった。
「グハァ⋯⋯ッ!?な、ん、だと⋯⋯!?」
『拷問器具』⋯⋯改め、ゼウスの手が一つの鎖へと収束され、背中を突き刺した。
「ギ、ガ、ガァァァッ!」
爺さんが悶え苦しんでいる。しかし、ゼウスの刺した鎖の箇所は間違いなく『心臓』だ。しかし、爺さんは悶え苦しんでいる以外は特に異常は見つからない。それどころか、出血している様子すらない。それは何故か、それは⋯⋯
『これより、《刑》を処す。罪人よ、己が罪を悔い改め、主より赦しを乞うがよい。』
それは⋯⋯敢えて形容するならば、人が持つ『神』の想像姿⋯⋯『神』そのものではないかと思考が錯乱する程である。実際、この爺さんも一瞬、神が降臨したのかと目を見張り、しかし、己が身体を縛り付けた鎖の正体だと気づくや否や叫んだ。
「おお⋯⋯神よッ!!貴方もッ!貴方様もこの悪魔に着かれるのですかッ!!!」
爺さんは⋯⋯怒りすぎて正常な判断が出来ていないようだな。一般に神様が悪魔なんざに肩入れする筈ぁねゑだろ。
『思い違いをしている様だな。今、貴様は《罪人》そして、此方が《執行者》だ。罪人は意見する資格はない。』
「神でありぃッ⋯⋯!??⋯⋯!!?」
ゼウスが爺さんの発言権を失くしたな。これこそ【唯一無二之絶対不逃拷問器具】の力、見た目に相反する様な能力。対象者への権利、生きる為に必要なアタリマエを失わせる。
『罪人に選る言の葉等無き。主への赦しを乞うならば、《刑》を選びし時の猶予をも与えよう』
「⋯⋯!!!⋯!!⋯!!!」
『ふむ⋯⋯その有り余る憤怒、暗き底にて払いなさい。』
そう言った瞬間、ゼウスの体が扉のように開き、その奥に光すら通さない完全な『黒』があった。
その『黒』に段々と吸い込まれていることに気づいた爺さんは慌てて踵を返し必死に『黒』から逃れようとしていたが、鎖がそれを許さない。ギチギチと音を立てながら⋯⋯ゆっくりと⋯⋯ゆっくりと鎖を手繰り寄せる様に引き込んでいくゼウスだった。ゼウスが爺さんの憤怒を取り除きたかっただけなら、ゼウスのやっていることはもう意味が無い事だ。何故なら、俺達の目には確かに⋯⋯
「⋯⋯⋯!!⋯⋯⋯⋯⋯⋯!!!!」
許しを乞う様に鼻水と涙でグチャグチャになった惨めな爺さんの顔を見ては、誰も爺さんが俺に怒りを持っているとは言えないだろう。あの顔では最早逆ギレの可能性すら微塵もありはしないだろうと確信出来る。でも、そんな顔を見ても、俺には何も感じない。憐れだとも、怒りも、罪悪感も、だ。それは何故か⋯⋯
《うわ⋯⋯流石にこれちょっとシャレにならんでしょう⋯⋯》
「良いんだよ。」
《え?》
気づいたんだよ
「気づいたんだよ」
この身体は⋯⋯
「この身体は⋯⋯」
俺と
「俺と」
七瀬と
「七瀬と」
ネエチャンノモノダカラ
「姉ちゃんのものだから。」
《そっか。そ、そうだよね!忘れてた!》
ソウダヨ。
コノカラダハ
オレダケノモノジャナイ
ナナセモ
ネエチャンモ
『皆』ノカラダだ。
「あぁ、だから。」
《⋯⋯え、ん、ん?》
これからも
「ずっと忘れずにいてくれよ。」
ネエチゃん。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯!!!!!⋯⋯」
そして、扉は閉じた。