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ぼくらはそれを『愛』と呼んだ

作者: 愁知 こにこ

 ━━どうして?


 ぼくには何も、わからないよ……。

 真っ白い紙に、黒いインクが一滴落ちて、広がっていくのが止められない。そんな、どうしようもないことに似た感覚が、ぼくを支配している。

 ぼくの瞳には君は映っているはずなのに、君の瞳にはぼくは映っていないんだね……。

 それは、いつからだったのだろう。一緒にいることに安心して『愛』なんて名前で呼んでいたのは。

 ぼくらの『愛』は、名前はそのままに変わってしまった……。


 ちょうど2年前、傷だらけのぼくに優しく手を差し伸べてくれた君。笑顔が眩しくて、直視できなかったことが、今でも思い出される。

 君は向日葵のような微笑みをぼくに向けて、ぼくのペースで一緒に歩いてくれていた。君の方が足が速いはずなのに、ゆっくり進むぼくに合わせてくれていたんだよね。


 ぼくは、君の知らないことを知っていた。反対にぼくの知らないことを、君は知っていた。ぼくらは互いに教えあい、一緒にいるとちょうど良い関係になっていった。

 一緒に遊んで、一緒に笑って。あぁ、あの時は本当に幸せだった……。


 時間の経過が変えたのは、ぼくらの関係性。特に君は変わってしまったよ。あの頃の面影が微かにしか残らない程度に、変わってしまった。

 ぼくが居ない時に、あの人と楽しんでいたんだろう? ぼくが何も知らないと思って、油断していたのかな。

 でもね、ぼくは君のことが好きだったから、すぐに分かったんだ。何も言わないのは、関係性を壊したくなかったからなんて、君は知らないだろうけど。


 ぼくに「好きだよ」なんて言いながら、あの人にも愛の言葉を囁いていたんだろう?

 ぼくには花火大会に一緒に行けないと言いながら、あの人と2人きりで楽しんでいたんだろう?

 ぼくとは出かけなかったくせに、あの人とは何回も何回も出かけていたんだろう?


 ぼくは知っているんだ。だって、君のことが好きで好きで好きで、堪らなかったから……。君の変化も、心の移り変わりだって手に取るように分かるんだ。

 そっと目を伏せ、見ないフリ。別に君を責める気なんてない。そんなことをしたら、ぼくは嫉妬で狂いそうになるからね。

 あの人との関係、表面上は終わっているんだろうけど。水面下で、まだ繋がりがあることもぼくは知っているのにね。

 君はぼくの傍らで無防備な寝顔を見せてくれる。そう、これはぼくだけが知っていればいいんだ。


 そういえば、他にも君は変わったね。ゲームは元々好きだったみたいだけど……。どんどんのめり込んでいったよね。

 ぼくのことを無視して、通話を繋いで、楽しそうに笑う君。あぁ、なんて憎たらしいんだろう。ぼくとの会話ではそんな笑顔見せないじゃないか。

 顔も知らない相手と、なんでそんなに楽しそうにしているんだい? 君はぼくのものなのに……。

 休日は朝起きてから、夜寝るまでずっとゲームのお友達と楽しそうにして、ぼくはまるで透明人間さ。

 おかしいな……。その笑顔はぼくに向けられていたはずなのにね。



 あぁ……。願うならば、ずっと君のそばに居たかった。

 でも、ぼくは君のそばにいると、痛かった。

 だからぼくはこうして、1人川沿いの道に座り込んで、何をするでもなく佇んでいるんだろう。


 さぁ、そろそろ帰らないと。スマホの画面がぼくに日付が変わったことを教えてくれる。

 君の瞳に映らなくても、ぼくの瞳には君は映っているのだから。

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