ミヒデ村-村人の主張と子供達の主張
イラガは、村長を見る。
村長は頷いて
「それなら、同じ場所でどうじゃ?集会所の横の広場は広い。剣の鍛錬と魔力制御の練習、同時にやっても大丈夫な程じゃ」
そう言う。
バッカは、少し考えて
「そうか。ならば、俺達は広場に行く。飯が出来たら呼んでくれ」
と言い
「案内してくれ」
とイラガに言う。
一言も言葉を発しないネーゼの前にバッカが立ち
「大丈夫だ。お前達の力は、制御出来れば、この土地を潤す事が出来る」
と、言いながら頭に手を置く。
ネーゼは、キュッと唇を結び
「嫌だよ」
と、小さく呟く。
少し黙っていたが、バッカを見て
「私は嫌だ。この村の人達は、いつも私達を邪魔者扱いしていた。石を投げられたり、棒で殴られたたり、意地悪をいっぱいされた。お父さんもお母さんも村の人から、酷い事言われていた。なのに、どうしてこの村を救わないといけないの?」
ネーゼの言葉に、村長は黙り込む。
そこに
「邪魔者のお前達を今日まで面倒みてやったんだ。それくらい恩を返せ!」
村人の一人が声を上げた。
《そうだ、そうだ》と一部の村人も声を上げる。
イーナが
「黙りな!あんた達、それが人に物を頼む態度かい?」
そう叫ぶと
「この2人の力の暴走で、被害が出ていたのはイーナも知っているだろ?それを許して、村の為に役立たせてやるんだ。感謝こそすれ、拒否するなんてこいつらには権利はない!」
声を上げた村人が、そう反論する。
《そうだ、そうだ》とまた声が上がる。
そこに
「黙らんか!」
村長が一喝する。
「その分だけ、村はこの子達…いや、サラガとネーナにも酷い行いをしてきた。本来ならば、この村を出て街に出て、この子達の力を有効に活用してくれる者に出会えれば、この子達は幸せになれるはずじゃ。それをこの村に留めて、この村の為に力を使ってくれと頼んでいるのは、こちらの方じゃ」
その言葉に、黙り込む村人達。
村長は、ネーゼの前に立ち
「わしらのしてきた事を許せとは言わん。言う権利はない。じゃが、それでもこの村の為に力を貸してくれないだろうか?」
そう言って頭を下げる。
「でも、お父さんとお母さんは…酷い事を言われてきた。私と兄ちゃんだって、酷い事をされてきた。それを…許したら、お父さんやお母さんも浮かばれない」
戸惑っているネーゼにイラガが近づき
「父ちゃんも母ちゃんも村のみんなの事恨んではいない。父ちゃんは村の為に自ら盾になって死んだ。母ちゃんは最後に村の力になってくれと言った。だから、俺は力を貸す。それが父ちゃんと母ちゃんが願っている事だから」
そう言って、ネーゼの頭に触れる。
ネーゼは、涙をポロポロと流しながら
「…本当に?お父さんやお母さんは、そう望んでいるの?」
そう兄に問いかける。
イラガは頷いて
「そうだ。父ちゃんと母ちゃんは、この村が好きだった。だから、酷い事を言われても、何も言わず堪えていた。俺達を山に捨てろと言われても俺達を守ってくれた。俺達の力を信じて守ってくれた。だから、俺は自分の力を村の為に使いたい。だけど、ネーゼに強制はしない。お前は、魔法制御を習ったら街に行ったらいい。ネーゼの力を必要としてくれる人がいるかもしれないから」
そう言うと
「村長、それでいいか?俺は村の為に力を使う。だから、ネーゼは街に送って」
と、村長に向かって言う。
村長は頷いて
「…分かった。本音を言えば、ネーゼにも協力してもらいたい気持ちはある。じゃが、強要は出来ん。魔法制御を得たなら、責任を持って首都オリンズまで送ろう」
村長の言葉に
「しかし、この村をもう一度繁栄させるには、イラガの力だけじゃ足りないのでは…」
村人が懸念を口に出す。
「それに、サラガやネーナが死んでからは、こいつらの面倒を見てきた。恩だけ受けて返さないのは、どうかと思う」
別の村人も、不満げに口にする。
村長が何か言おうとすると
「あんた達が、イラガとネーゼの面倒なんか見なかったじゃないか!手を上げたり、罵ったりしてばかりだったじゃないか!それを棚に上げてこの子達に村を救う事を強制させるのかい?」
イーナが声を上げた。
「…そう言うが、イーナ達が世話をしてきた。その恩を仇で返すのか?と聞いているんだ」
村人の一人が言うと
「それを、あんたが言うのか?フリューと一緒になって、この子達に手を上げていた、あんたがそれを言えるのか?」
イーナの言葉に黙り込む村人。
「…だが、フリューの気持ちも考えてくれ。小さい頃から惚れていたネーナをサラガにかっさらわれて、生まれてきた子供は、先祖返りの魔力が強い子供だ。ネーナが苦労をしていたのを横で黙って見ているしかなかったフリューの気持ちも…」
そう言ってきた村人に向かって
「だったら、この子達に暴力をふるったりしていいと、あんたは言うんかい?ネーナが苦労?魔力の強い子が生まれて、村の希望だと一番喜んでいたのはネーナだよ。『これでこの村の土地が昔のようになる』と嬉しそうにいつも言っていた。いつかこの子達の力が村の為になる、その日まで頑張ると言っていたのはネーナだよ。それを苦労とあんたは言うんかい?」
イーナが睨みながら言う。




