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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
ミヒデ村
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ミヒデ村‐子供達の決意

「…そうか」


バッカが少し気まずそうにしていると


「こんな奴らを庇う必要なんてない!この村は、今まで何とかやってきた。これからだって…」


見張りの男がそう言うと、バッカは首を横に振り


「それはないな」


と言い切った。


「は?」


見張りの男が驚いていると、バッカが屈んで


「この土地の土は、もうおそらくは限界だ」


土を一欠けら拾い、弄りなら言う。


「それはどういう…」


村長の疑問に


「元々、この土地は人が住める土地ではなかったようだな。この村を作った魔導師が魔法でこの土地を潤した。だが、込められた魔力とて、少しずつ流れていけば、補充をしていかなければ終わってしまう。村長の言う通り、この2人はシンフォニアからの慈悲なのかもしれないな」


バッカは、そう言ってから、イラガとネーゼを見る。


2人とも、戸惑っているようだ。


「そんな訳ない!こいつらはネーナを…」


見張りの男が何か言おうとすると


「黙りな!」


女性が声を上げる。


「イーナ姉さん」


見張りの男は力なく言うと


「ネーナの死が悲しいからと言って、その子達を責める権利は、あんたにはないよ。それを言うなら、父親のサラガを見殺しにして生き残ったあんたや他の連中も責められるべきだ」


女性―イーナと呼ばれた女性が、見渡しながら言う。


男の数人が、バツが悪そうに視線を逸らす。


「不快にしてすまないね。こいつは、私の妹であるネーナの幼馴染でね。ネーナが亡くなった事を未だに引き摺っているんだよ」


イーナがそう説明する。


見張りの男は、顔を歪ませて視線を逸らす。


「あんな男-サラガに嫁がなければ、こいつらは生まれてこなかった。そしたら、ネーナは死なずにすんだ。イーナ姉さん!俺の言いたい事分かるだろ?」


見張りの男は、必死に訴える。


「分からないね。ネーナは、サラガを選んだ。あんたじゃなくてね。あんたがネーナを好いてくれていたのはありがたいが、その矛先を向けるのは、この子達じゃないよ!」


イーナがそう言うと、見張りの男はグッと拳を握りしめ


「なんだよ…俺は…ネーナが…なんで…死なないとならなかったんだよ…俺に嫁いできていたら…死なずに済んだのに…不幸にならずに…こんな化け物の母親じゃなくて…普通の母親として幸せに…」


涙を浮かべ悔しそうに呟く。


イーナは、パシンっと乾いた音を立てて、男の頬を叩く。


「ネーナは幸せだったよ。サラガと夫婦になれて、イラガとネーゼが生まれて、いつも幸せそうに笑っていた。不幸だった…なんて、ネーナに対する冒涜でしかないよ。いくらあんたでもそれは言ってはならない言葉だ」


怒りの表情を浮かべて言うイーナに、男は何も言えずに涙を流す。


イーナはバッカを見て


「すまないね。内輪もめして」


すまなそうに言う。


「いや、いいさ。そんな事より…」


と、イラガとネーゼを見て


「お前達はどうしたい?お前達の力なら、街に出て貴族のお抱えになる事も出来る。そこで、魔法制御を習えば、お前等なら国でも有力な魔導師になれる。この村で、こんな扱いを受けながら、力の暴走に怯えて暮らすより、まともな生活が出来るぞ」


そう言ったバッカの言葉に、村人の数人が


「何を言いやがる!こいつらは…」


と何か言おうとしたが


「止めい!」


村長がそれを制する。


「わしらに、イラガとネーゼの自由を束縛する権利はない」


村長がそう言うと、声を荒げようとした村人達は、目を逸らしながら黙り込む。


長い沈黙がその場に流れる。


「…俺は」


口を開いたのはイラガだった。


「この村の為になるなら、俺やネーゼの力を使ってもいい」


と、決意を秘めた目で言った。


「…いいのか?こいつらはお前達を…」


バッカが確認すると、イラガは頷いて


「いい。俺達の力で、村のみんなが困っていたのは事実だ。それに…」


そう言って言い淀む。


「それに?」


「父ちゃんと母ちゃんが言っていたんだ。『イラガとネーゼは、村の希望だ。今は辛いかもしれないけど、いつかきっと村の為にその力が役立つ日がくる』って。だから…父ちゃんと母ちゃんもそれを望んでいる…それに、イーナ伯母ちゃんや少ないけど村のおじちゃん、おばちゃんも、俺達に優しくしてくれた人もいる。俺達の傷口に薬塗ってくれたり、ご飯くれたりしてくれた。俺は、俺達に優しくしてくれた人に恩返しがしたい」


涙を流しながら毅然と言うイラガ。


バッカは、イラガの頭をポンポンと叩いて


「よく言ったな。えらいぞ」


そう言うと、ポロポロと涙を流すイラガ。


ネーゼはそれを見て、オロオロしている。


「かあ…ちゃん、さい…ごに…言ってた。『村を救って、あなた達にはその力がある』って。だから…」


泣きじゃくるイラガに


「そうか…母ちゃんの最後の言葉か…それは守らないとな」


そう言って、バッカは頭をもう一度ポンポンと叩く。


「…ありがとう、イラガ」


村長が歩み寄り、イラガに頭を下げる。


「お前達に、私達がやった事は許されない。それでも、お前達はネーナの最後の言葉を守って、この村の為に力を使うと言ってくれた。村の長として、感謝する」


そう言ってから、もう一度土下座する。


それにつられるように、イーナや他の村人の殆どが土下座をする。

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