ミヒデ村の忌み子
正直、その方法を葵は知っている。
正確にはレイラ姫の記憶-知識としてあるからだ。
だが、今はそれを彼らに教える事は、出来ない。
それは危険な行為だからだ。
自分に魔法が使えると周囲に知られてはならない。
だが、目の前の2人を見捨てられるほど、葵は出来ていない。
出来るならば助けたいと思っている。
バッカは少し黙っていたが
「知ってはいる。だが、簡単じゃない」
そう言ってから
「俺達は、明日の朝には、この村を発たないとならない。一晩で何とかなるほど、魔法制御は甘くはないぜ」
厳しめにいうバッカに、葵は言葉を詰まらせる。
それは、葵自身も理解出来ている。
魔法制御は一朝一夕で出来る程、甘くは出来てない。
「それに、この村の連中も、そんなの望んでいるみたいじゃないしな」
そう言って周囲を見渡す
「…そうだ。こいつらは、村にとっては邪魔者でしかない。とっとと山に捨て…」
見張りの男の言葉を
「黙らんか!」
村長が一喝する。
そして、バッカを見て
「その魔法制御とやらは、どれくらいで習得出来そうなのか聞きたい」
そう問いかけてきた。
バッカは、少し考えてから
「やり方によるな。魔法制御はいくつかある。で、何故この2人を庇うんだ?そこの男の言う通り、山に捨てるなり出来るだろう?この村の連中は、それを望んでいるみたいだぜ」
そう言って周囲を見渡すと、バツが悪そうに視線を逸らす村人がいた。
村長は、沈黙していたが、ふうっと息をついて
「この村に代々伝わる伝承がある。魔力がある者は、村の土地を活性化する事が出来ると」
静かに語りだした。
「この村を築いた魔術師の一族は、この土地に恵みを与えた。農作物は実り豊かに、この村の結界柱にも力を与えた。だが、今は、大地は飢え、結界柱の力は弱まってきている。このままでは、この村は終わってしまう。そんな時にこの子らが生まれた。わしは、飢えたこの村がまたかつてのように輝きを取り戻す事が出来るようにと、シンフォニアからの啓示だと思っておる」
その話を聞いて、葵はピンとくる事があった。
(そういえば…)
と考えていると
「村長、まだそんな御伽噺を信じているのか?そんな訳ないだろうが!」
村人から声が上がる。
「そうよ、この子達は、恵みを与えない」
別の村人からも声が上がる。
《そうだそうだ》
と、周囲の村人も同調しだした。
バッカは、そんな村人達を冷たく見渡し
「いや、その伝承に間違いはない」
と言い切った。
驚く村人達。
「魔力制御の応用に、土地を潤す方法がある」
バッカの言葉に
「本当か?」
村長が食いつく。
「そうだ。魔力制御をして、少しの魔力を大地に流す。一度に多くの魔力を流すと、逆に土地が枯れてしまうから、ほんの少しぐらいだ。長い時間をかけて魔力を流す事で土地の活性化と結界柱の回復は見込める」
頷きながらバッカが言うと、村人から安堵の声が上がる。
「だが…」
バッカは言葉を続けながら、2人の子供に歩み寄る。
「お前達は、この村を助けたいか?」
と、2人に問う。
「お前達を邪険に扱い、あまつさえ山に捨てようとしているこの村を、お前達は助けたいと思うか?」
その声音は、冷たく静かだ。
その言葉に、安堵の声を上げていた村人達の表情に陰りが出る。
よくみたら、その2人には生傷がついている上に瘦せ細っている。
そして、周囲にいる子供達の手には、小石や木の棒が握られている。
日常的に石を投げられて、木の棒で殴られていたのだろう。
そして、大人は止めるどころが、何もしなかったのだろう。
「お前、余計な事を言うな!」
見張りの男がバッカに殴り掛かろうとする。
後ろからきた男の拳をバッカが受け止め、軽くいなした。
男は、仰向けに倒れて、驚きの表情を見せていた。
「何でも、暴力に訴えてんじゃあねぇよ」
呆れたように言う。
そして、周囲を見渡し
「お前らも、今までやってきた事を棚に上げてんじゃねぇよ。こいつらの人権無視しておいて、使えるなら利用しようなんて甘えた考え持ってんじゃねぇ」
その啖呵に、村人達は、バツが悪そうに視線を逸らすだけだ。
「その通りじゃな」
沈黙を破るように言葉を発したのは村長。
「イラガとネーゼの力を恐れ、何もしなかった上に、酷い扱いもしてきた。この子らの親が亡くなってから、それは増長した。今更、この村の為に力を貸してくれとは言えない。…じゃが…」
次の瞬間、村長は土下座をし
「許してほしい。イラガ、ネーゼ。そして、この村の為に力を貸してほしい」
必死に2人に許しを請いているようだった。
そして、それにつられる様に村人達が土下座を始める。
石や棒を持っていた子供も、それを放り投げて、土下座を始める。
だが、それは一部だけで、後の村人は、黙って立っているだけだ。
「お前達も頭を下げんか!」
村長に言われても
「そんな必要はない。村長こそ何をやっているんだ。この村の土地は…」
村人の1人がそう抗議してきた。
「そうよ。今まで何とかやってきたではないですか。今更、そんな化け物の…親殺しの肩を持たなくても…」
別の女性が続けて言う。
「親殺し?」
バッカが怪訝そうにしていると
「こいつらは、その力でネーナを…母親を殺したんだ」
見張りの男が忌々し気に言う。
「…この子らの父親は狩りで命を落としてしまった。そのショックで力が暴発し、近くにいた母親は、そのエネルギーをまともにうけて亡くなったのじゃ」
村長が、説明するように言った。




