ミヒデ村の入口にて
目の前に小さい村らしき集落が見えてくる。
葵は、小さく息をついてから
「村が見えてきましたね」
葵の言葉にカイトは、頷いて
「そうだな…」
と答えてから
「もう暗くなってきている。今晩はあの村で泊めてもらえたらいいが…」
と、空を見る。
オリンズを出立したのは、夜明け前だったのに、時間が経過するのは早いのか、もう夕暮れに差し掛かっている。
途中で何度か魔物に遭遇しながらも、何とか先を進んできた。
隙間時間を見て、回復薬も作った。
最低限の魔力でギリギリだったが、前に使った回復薬と同じ効果を出すだろうと推測出来る。
それで、時間を使ってしまったのだ。
それに北に進んでいるせいなのか、肌寒い感じがしてきた。
ここで野宿などしたら、おそらく凍死しないまではいかないが、風邪はひくかもしれない。
葵は、温度が夜に向けて急激に下がっている事を感じながら
「そうですね。泊めてくれる家があるといいのですが…」
と、自信なさげに言う。
正直言って、あまり人と関わらない方がいいと分かっているが、さすがにこの環境で野宿を強いたら、命にかかわるのでないか?位は理解出来ている。
それに自分たちは異邦者である。
閉鎖的な村ならば、宿に在り付けない可能性だってある。
その時は、厚着をしつつ野宿も考えないとならないが、厚着は動きを阻害するので、出来るならばそれは避けたい。
この旅では贅沢を言ってはならないが、出来るならばそれを避けたいし、夜になれば活性化する魔物もいるから、出来るならば村などに身を寄せていた方が安全だ。
「結界柱があればいいんだがな」
カイトがボソリと呟く。
結界柱-それは、一定の魔物を寄せ付けない特殊な波動を持つ鉱石で作られた柱である。
大きな都市では、濃度の高い結界柱を、街を囲うように配置しており、それが街の守りになっている。
小さな村では、濃度は濃くなくてもある程度の魔物を近寄らせない結界柱を集落の中心に配置して守りにしている…らしい。
だが、その鉱石は貴重な為、人が住んでいるすべての集落に配置されているとは限らない。
集落らしき村に近付くと、うっすらとだが柱らしきモノが見えてくる。
どうやら、ここは結界柱があるようだ。
「何とか結界柱があるみたいですね」
葵がホッとしたように言うと
「問題は、泊まらせてくれる家があるかどうかか…」
カイトが懸念を口にする。
問題はここからなのだ。
多少なりの緊張感を持って、村の入り口に差し掛かる。
入り口には、見張りらしき男がおり
「この村に何の用がある?」
と問いてくる。
「俺たちは冒険者だ。こんな時間になってしまった上に、土地勘がないので迷ってしまった。野宿をと考えていたが、この寒さでは凍えてしまう。出来るなら一晩の宿を提供してもらえないだろうか?」
葵が、低い声を心掛けながら言うと
「お前、男か?」
見張りの男が驚いたように言うと
「俺は男だよ」
と、懐からギルドカードを出す。
だが、
「俺は字が読めねえよ」
見張りの男が言うと
「す、すまない」
申し訳なさそうに言い、カードを懐にしまう。
「で、すまないが、今晩、この村に泊めてもらえないだろうか?」
葵が見張りの男に聞くと、男は少し考えて
「村長に聞いてくるから、そこで待っていろ」
そう言って村の奥の方に向かっていく。
待っている間、視界に入る範囲で村の中を覗く。
村人は、葵達を遠目で見ながら、なにやらヒソヒソと話している。
(何か殺伐とした雰囲気ね)
だが、葵達が来たから殺伐とした雰囲気ではなく、元々からそういう雰囲気のようだ。
(何か…ある?)
何となくだが、そう察した葵。
カイトの方を見ながら
「…歓迎はされていないみたいですね」
小さな声で言うと、カイトは頷き
「そのようだ。もし、宿を取れない場合は仕方ない、野宿するしかあるまい」
と言い、葵も野宿になった場合の心の準備だけはしておく。
そこに村の奥の方から、見張りの男が戻ってくる。
「村長が会うそうだ。ついてこい」
そういって中に入るように促す。
2人が入ろうとすると
「おいおい、お前らひでぇな」
2人の後ろから声がする。
驚いて振り向くと、そこにはバッカが立っていた。
「…バッカ」
葵が、驚いたように言うと
「2人ともひでぇな。俺を置いて行くなんてよ」
飄々としたバッカに
「な…なんで…?」
一瞬、声を低くするのを忘れたが、すぐに低い声を出す葵。
「お前ら、行くなら行くって声をかけてくれよ。焦ったじゃねぇか」
そう不満を口にするバッカに
「いや…バッカ…なんで…?」
と、まだ驚いたままの2人に
「俺は、どこまでもお前らに付いていくって言ったはずだぜ」
バッカは、ニヤリと笑って言う。
これには内心舌打ちするしかない。
捲いたと思っていたが、すぐに追いつかれてしまった。
この男、甘く見ていたかもしれないと、改めて痛感してしまった。
「どうした?そいつもツレか?」
見張りの男が、そう尋ねると
「そうだ」
葵達が返事をする前にバッカが返事をする。
「お…おい…」
カイトが何か言おうとするが
「案内をしてくれ」
バッカが言うと
「…ついてこい」
見張りの男が、促すように言う。




