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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
一路、北へ…
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戦闘終了、己の実力不足を痛感する葵

間合いをジリジリとつめつつ、攻撃のタイミングを図るカイト。


ゾットベアも、同じく攻撃のタイミングを図っているようだ。


葵は、警戒をしつつそれを黙って見ている。


手を出せば、逆にカイトの足を引っ張る事になると理解できているからだ。


緊張感が漂うなか、先に動いたのはゾットベアだ。


魔物は、基本知能が高いわけではない。


だから、駆け引きなどは出来ないのである。


切り込むゾットベアとひらりと躱して、胴に剣を叩き込む。


【ザシュッ…】


と、短い音を立てると同時に、ゾットベアの表情が歪む。


そこに出来た隙をカイトは見逃さずに、首に一撃を入れる。


痛みからなのか咆哮するゾットベア。


カイトは、懐に入り心臓めがけて、トドメの一撃を入れる。


【ドゥゥゥ…ン…】


仰向けになって倒れこむゾットベア。


緊張感を解くように、ふうっと息をつくカイト。


葵もホッと息をつく。


「お見事でした」


葵が言うと


「これくらいの魔物なら、造作でもない」


そういってから剣を鞘に収める。


「アオイ、怪我はなかったか?」


葵を気遣うように聞くと、葵は剣を鞘に収めながら首を横に振り


「大丈夫です。途中から獲物をカイトさんに変えましたから、ただ…」


そこで言葉に詰まる。


「ただ?」


カイトが眉を顰めると、葵は少しだけ躊躇したが


「…体は思うように動かないかな、と。感覚ではもう少し早く反応出来ると思っていたのですが、実際は微妙なズレが生じて、反応は遅かったです。今回は、何とかギリギリ攻撃を躱せましたが、次はどうなるか」


そう不安を口にする。


カイトは、葵に近寄り肩に手を置いて


「それは今後の課題だな。課題は多いが一つ一つ解決していくしかない。出来ることから…な」


カイトの言葉に、葵は頷いて


「そう…ですね」


そう返事したが、今の戦闘を見て、自分のレベルの低さを改めて突き付けられたような感覚に囚われた。


カイトは、騎士として戦闘を繰り返してきたのだから、葵とは桁違いの戦闘を繰り返してきたのは理解できてはいる。


分かってはいるが、今の自分の無力さを突き付けられたような感じがして、葵の中にモヤモヤする感情が渦巻く。


「もう少し休んでいたいところだが、これがある以上、死骸の匂いに釣られて他の魔物がやってくる可能性がある。移動しよう」


そう葵を促す。


「はい」


と、返事してゾットベアの死骸を見る。


「この死骸から、お金になりそうな部位を持っていきませんか?」


ゾットベアを指さしながら葵が言うと、カイトは動こうとした足を止める。


「…そうだな」


そう言ってゾットベアを見つめる。


よく見てみれば、立派な角や牙がある。


「毛皮は売れそうだが、さすがにそれは持って行けない…角と牙は、何かの材料になるだろう」


そう言って、バックからナイフを取り出す。


ゾットベアの角をつかんでから、ナイフを滑らせて、柔らかい部分を見つけ出し、そこから切り込みを入れる。


左右の角の次は牙だ。


上の左右に立派な牙がある。


角と同じように、要領よくカイトが牙を取り出す。


持って行けそうな部位をバックに入れようとしたが、バックには部位は大きすぎる。


「収納します」


葵は言うと、カイトは自分が持っている部位を差し出しながら


「大丈夫なのか?」


と、問う。


魔法を使えば、その波動が跡として残る。


それを追手に気付かれたら、自分たちの足跡が見つかる事になる。


「これくらいなら、大丈夫です。最小の出力で済みますから」


葵は部位を受け取る。


収納する部位を両手に持ったまま、魔法陣を展開する。


出力は、部位が収納できるギリギリの出力だ。


その出力調整は難しくはあるが、それは魔導師として鍛錬を重ねているので、問題はない。


収納は終わると、息を吐く。


問題はないとはいえ、その作業は緊張する。


正直な所、追手…ヴィヴィアンに本当に気付かれずに済むのか自信はない。


ヴィヴィアンの実力は、共に鍛錬を重ねていたレイラ姫がよく理解出来ている。


【次期ベイト候補】の一人と言われる彼女の実力を、甘くは見ていない。


だから、収納魔法であろうと、魔法を使うことには抵抗は無いといえば自信はない。


だが、旅の資金は多い方がいいし、部位を持っていくと提案したのは自分自身だ。


それに、自分も何か役に立ちたい気持ちがある。


この旅で足を引っ張っているのが自分なのは、葵自身が理解出来ている。


自分がいなければ、カイトはもっと先に進める。


この旅は、葵とレイラ姫の成長の為とはいえ、足を引っ張っているという引け目は消えない。


少しでも旅の役に立ちたいという気持ちは出てくるのは自然だ。


だが、その思いは諸刃の剣だという事に葵は理解出来ていない。


今、最小とはいえ魔法を行使するのは、追手に気付かれる可能性がゼロとは言えない。


その可能性を見えてない葵は、未熟の部類に入るのであろう。


それか、旅を焦るあまり、周りが見えてないのか…


息を一回吐いた後


「終わりました」


と、一言だけ言うと


「よし、じゃあすぐに出立しよう」


カイトが促すように言うと


「あれは、そのままでよいのでしょうか?」


葵が、ゾットベアの死骸を指さす。


「放っておいても大丈夫だ。他の魔物の餌食になるか、誰かに発見されて、売れる部位を回収されるかもしれん。とりあえずは、自分達に出来ることはない。先を急ごう」


「そうですね」


カイトの言葉に頷いて、ゾットベアの死骸は気にしないようにする。


急ぐように出立する2人を見つめる視線がある事には気付かない。


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