小休止…だが、すぐに戦闘
しばらく北に進むと、その歩くスピードを落とし
「少し休憩しよう」
と、カイトが言う。
「でも、少しでも先に進んでおいた方が…」
葵の言葉を遮り
「お前の体力では、この辺りで休憩を取っておいた方がいい」
カイトが言う。
「でも…」
何か言いたげな葵だったが
「休むのも今は必要な事だ」
カイトに言われ、しぶしぶ近くにあった岩に座る。
確かにカイトの言う通り、そろそろ体力的にはキツい頃だった。
休憩を取れるのはありがたい。
バックから水筒を取り出す。
魔法の水袋―魔法が刻印された水筒で、無限に水が出てくる仕組みらしい。
ベイト・ディインダが持たせてくれていたアイテムだ。
食べ物もだが、水は重要性が増してくる。
持たせてくれた事に感謝だ。
だが、バッカの前では出せないアイテムだった。
水の飲んだ後
「ここまで来れば、ある程度は安心でしょうか…?」
不安げに言う。
正直、追っ手が何処まで迫っているかは分からない。
今この瞬間にも、追っ手がやってきてもおかしくはない。
葵達は、援護する者達の事は知らない。
だからこそ、不安に思う部分も大きい。
「…絶対とは言い切れないが、安心はしない方がいいと思う」
カイトが答えると
「ですよね…それより…」
「何だ?」
「バッカですが…何も言わずに出て来たから、怒っているかもしれませんね」
表情を曇らせて言う。
カイトは眉間に皺を寄せて
「…お前、まさか」
「いえ!」
葵は、カイトの言いたげな事を、首を横に振って否定して
「深い意味はないんです。ただ、礼儀に反する事をしたなって思って」
そう言うと、カイトは葵が座っているのと別の岩に腰を掛けてから
「…仕方あるまい。ヤツは得体が知れない人物だ。おいそれ近くに置いておく訳にはいかないだろう。それに、自分達の旅の目的からして、赤の他人を巻き込むわけにはいかない」
カイトの言葉に、葵は頷いて
「そうですね。分かってはいるのですが、割り切れない部分はあります。礼儀に反しても、貫かないとならない状況なのは、理解出来ているのですが…」
理解はしているつもりだし、割り切っているつもりだが、消化しきれない思いもある。
葵の表情から、それを読み取ったカイトは
「礼儀に反する事をしている事で、割り切れない部分があるのは私も一緒だ。だが、無理矢理にでも納得させるしかあるまい」
そう言ってから
「今は、納得出来なくてもいい。でも、いつかこの判断が間違っていなかった事は分かる日がくる。その時に今の思いがアオイの中でいい形で消化されると思う」
と、続ける。
葵は、少し俯いてから
(今は、消化出来なくても、いつか消化できる…か)
ぎゅっと拳を握りしめてから
(とりあえず今は、目の前の事を1つ1つ片付けていくしかない。4つの解印石を手に入れないとならない。その為には心身ともに成長しないとならないわ。今も心に突き刺さるけど、今は気にせずにいよう)
そう自分に言い聞かせるようにする。
葵は立ち上がり
「カイトさん、先を急ぎましょう」
と言ったが、カイトは静止するように手を前に出す。
「急ぎたい気持ちは分かる。だが、まだ体力が回復してないだろう?疲労は判断力や対応力を大きく削ぐ要因になりかねない。もう少し休むんだ」
カイトに言われ、葵は再び座る。
「…そうでしたね。すみません。焦るあまり…」
葵がシュンとしていると
「…焦る気持ちは分かる。私も同じだからな。だが、焦るあまり判断を誤ると取り返しのつかない事態になりかねない。慎重になりすぎるのもよくないが、今は少し慎重に行動をするしか…」
言葉を止めて、カイトは立ち上がる。
殺意に満ちた気配。
葵も立ち上がり、腰に提げた剣の柄を握る。
「…魔物がやってきたようだ。大型じゃなければいいが」
カイトが呟く。
『大型じゃなければ…』は、今の葵では対応が出来るかどうか不安からだ。
剣を抜いて、気配の方を見つめる。
数は分からないが、感じる気配はそれなりに大きい。
木々があるので、よくは見えないが獲物はフェンダーベアより小さいが殺意の濃密さが違う。
だが、数は1匹のようだ。
カイトは、これなら連携が上手くいけば倒せると確信する。
「アオイ!こいつは、ゾットベアだ。フェンダーベアよりは強くて獰猛だ。おそらく、ヤツはお前を狙ってくるだろう。攻撃は私に任せて、お前は防御…つまりは攻撃を避ける事に専念しろ。攻撃をしようとは思うな」
そう指示を出す。
葵は、それに頷いて
「わかりました」
剣を構えながら言う。
カイトの判断ならば間違いはないという信頼と自分の力量を受け入れて、その判断に従う。
ゾットベアが近距離に迫ってくる。
やはり葵の方に向かってくるようだ。
(とりあえず、攻撃を避ける事に専念)
自分に言い聞かせる。
獰猛な爪を立てながら腕を振り上げて襲い掛かってくる。
葵は、素早く避ける。
爪が地面にめり込む。
しかし、ゾットベアはすぐに素早く腕を振り上げて次の攻撃を仕掛けてくる。
今度は横一文字に切り付けてこようとするが、カイトは背中からゾットベアに一太刀入れる。
一瞬カイトの方を見たが、ターゲットを葵に定めているらしく、腕を大きく振り上げて葵に襲い掛かってくる。
葵は、ギリギリの所で攻撃を避けた。
(危ない!カイトさんが攻撃したから、そっちに行くかと思って油断していた)
次の攻撃をしようと再び腕を振り上げているが、少し動きが鈍い。
先程のカイトの一撃が効いているのだろう。
その出来た隙をカイトは見逃さない。
今度は首を切りつける。
そこでゾットベアはターゲットをカイトに変える。
先にカイトを仕留めてから葵にターゲットにするつもりだろう。
ゾットベアとカイトの間に緊張が走る。




