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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
一路、北へ…
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防具屋での一幕とオリンズ出立

宿から通りの2つ進んで、右に曲がった奥。


宿の主人に言われた通り先に進むと、道具屋の看板が見えてくる。


中に灯りが付いているようだ。


ホッとしたように息を付くと、その建物に近付いて葵は、ドアをノックする。


「なんだぁ?」


少し頑固な職人気質の男性が不機嫌そうにドアを開けた。


「すまない。宿バスクベのイヴァンさんからこれを…」


そう言って、イヴァンから預かったメモを渡す。


主人は、そのメモを受け取り、視線を動かして読んでいく。


「…ふん。イヴァンの紹介なら仕方ねぇな。中に入んな」


そう言って、2人を中に入るように促す。


「あぁ」


短く答えて、中に入る。


どうやらここは、防寒具や防具を扱っている店のようだ。


「で、防寒着を欲しがっているみたいだが、それで間違いねぇか?」


店主の問いに


「そうだ」


葵が答えると


「そうか…じゃあ、とりあえず寒さは凌げないと話にならないな。後はどういった付与の注文がある?」


その問いに対して


「動きやすさが欲しい。動けば体が温まるから、ある程度の防寒は犠牲にしても構わない。後は衝撃を吸収したいところだが…」


葵が考え込みながら答えると


「予算はどれくらいだ?それによって、品は違ってくる」


店主の言葉は、少し唸ってから


「…デュラン、お前の予算はどれくらいだ?」


カイトに向かって問いかける。


カイトは、財布代わりの袋を出して中を覗いてから


「…そうだな、銅貨50枚から80枚までだったら大丈夫だ」


と、ボソッとした声で答える。


葵も自分の財布代わりの袋を覗いて


「俺は60枚が限界だな」


そう言ってから店主を見る。


「…そりゃあ、あまり期待は出来ないな。動きやすさと防寒に特化したのしか出せない。衝撃を吸収するモンを追加するなら、少しお高めだ」


そう言ってから、防寒具を置いてある棚から数着、商品を取って来てから2人の前に広げる。


「防寒着と言っても、ピンキリだからな。何に重点を置くかで決まると言ってもいい。そっちの兄ちゃんのは、多少の衝撃吸収を組み込んだのを見込めるが、あんたのは防寒と動きやすさぐらいだろうな」


店主の言葉に葵は少し考える。


(やはり、そうなるか…でも、これ以上の予算投入はこれから先の事を考えたら、しない方がいい。でも、寒さで動きが鈍るのは本末転倒もいいところ。さて…悩むな)


そう考え込んでいると


「すまないが…」


カイトが店主に向かって


「2人で銀貨1枚銅貨50枚ぐらいならどうだ?同じ位の付与付きで」


そう言うと、店主は唸り


「そうさな…」


そう言ってから、もう一度棚から防寒具を取ってくる。


「イヴァンの紹介だからサービスして、これとこれなら、そんくらいで構わないぜ。去年の売れ残りでわりぃが、価値はそれ以上になる」


と言って、2人のサイズに合った2着の防寒着を出す。


「どういった付与がされている?」


カイトの問いに


「まぁ、機動性重視だが、ある程度の防寒機能は備わっているわな。衝撃もある程度は凌げる。本来なら、2着で銀貨2枚は貰いたいとこだが、イヴァンの紹介と去年の売れ残りってのも加味して、お前さんの言い値で売ってやるよ」


店主がそう答える。


「じゃあ、それにしよう」


そう言って


「アオイ、お前は自分の予算の60枚を出せ。俺は90枚出す」


そう言ってから、銀貨1枚を出す。


「でも…」


葵が何か言いかけるが


「今は急ぐ」


と言って言葉を遮る。


葵は、その言葉に逆らわず、銅貨を60枚出す。


カイトは、そこから10枚取り、自分の袋にしまい


「これで、銀貨1枚銅貨50枚だ」


そう言うと


「…まいどあり」


店主はそう言って、お金を受け取って


「これはおまけだ」


そう言ってから、防寒着が入るくらいの肩掛けの袋を出す。


「いいのか?」


カイトが問うと


「あぁ、かまわねぇ。去年の在庫が処分出来たしよ。去年のもんと言っても、材料がいいもん使っているから、今年のと比べても、そんなに遜色はないぜ。保証する」


そう言ってから、それぞれの袋に防寒着を入れてから、2人に渡す。


「気を付けていけよ」


店主は、先に広げた防寒着を片付けながら言う。


「あぁ、ありがとう」


カイトがそう言い、葵も


「朝早くからすまなかった」


と、詫びを入れて店から出て行く。


少し歩いた後


「すみません」


小さな声で葵が言うと


「防寒着の事か?気にする事はない。助け合う事は当たり前の事だ」


カイトがチラリと葵を見る。


そして


「とりあえず、先を急ごう。少し時間を使ったようだ」


そう言って歩くスピードを上げる。


葵もそれに続くように、スピードを上げた。


門の所に到着し門番にギルドカードを出すと


「こんな早くから狩りに行くのか?」


怪訝そうに見る門番に対して


「あぁ…少し、北の方にな」


葵が答えると


「おいおい…北ってグルゴ山脈にでも行くつもりか?」


門番は驚きながら聞く。


葵は首を横に振り


「いや…少し北の方を見るだけだ」


そう答える。


「しかし…防寒着だろ?それ?」


そう言って2人が肩から掛けている袋を指差す。


「もしも、の時の為の装備だよ」


葵が答えると


「用心深いこった。ま、その袋が邪魔で戦闘に支障が出ないといいが。大丈夫か?」


そう言う門番の言葉に


「無理しない程度で引き返してくるさ」


肩をすくめながら葵が言う。


「それが賢明だな」


門番はそう言うと、門を開いて


「さ、行きな」


そう言って2人に外に出るように促す。


「おつかれさん」


門番とすれ違い様に葵が言うと


「お前らも気を付けろよ」


そう言ってから、2人を見送る。


葵とカイトは門を出ると早足で北に向かい歩き出した。


2人が門を出て、朝日が差し込んで来た頃、門に追っ手の早馬が来た事は2人の知る由もない。


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