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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
お姫様となって旅立ちます。
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混乱と情報整理

「そんな…」


「姫の魂は、彼女と融合しておる。魔法の対価は、自身の《心》の消失。レイラ姫に、彼女にすべてを託して消えてしまわれたのだ」


「そんな…」


その場に座り込むカイト。


だが、キュッと唇を結び


「そんな!認められません!」


そう叫ぶと飛び出していく。


「あ…」


葵が声を掛けようとしたが


「止めておきなさい。今は混乱しているだけだ。その内、落ち着いて事実を受け入れるだろう。あなたも、落ち着く時間が欲しいだろう?少し話をしようか?」


セイトに言われ、追うのを止める。


「さ、こちらへ、お茶でもいれましょう」


そう言ってから、葵をテーブルへ誘う。


木製の椅子に座り、落ち着かない様子でモジモジしていると


「落ち着きませんか?」


クスリ…と笑いセイトが聞いてくる。


「はい…まぁ…」


そう言いながら、髪を弄る。


ふわふわのウエーブのかかった金色の髪。


華奢な指先。


剣道で鍛えた少しゴツゴツした指に慣れているせいか、戸惑いは隠せない。


《コトリ…》


と、目の前にマグカップが置かれた。


「さて、どこから話しましょうかね…アオイさんと言いましたね?あなたは、どこまで知っておられますか?」


セイトの問いかけに、少し考え記憶を掘り出す。


「ルスレニクスという世界。中心にあるのはフィアント公国。そして、フィアント公国の中心には、守護樹シンフォニアがある。私は、その国の第一王女。先日、隣国ビルガ帝国が攻め込んで来て、私はカイト…さんと共に城から脱出して…出てすぐの森でフィアント公国を裏切った魔導師と共に追っ手に追いつかれて、毒矢で射られようとしたカイトさんを庇って、私は矢を受けた。そこから、光が…魔法陣が現れて、私はシンフォニアから禁忌魔法の発動条件が揃っている、と言われて私は迷わず、使う事を選びました。それから、私に会って…そして…シンフォニアの力で融合して…意識が遠のいて…」


「では…わが孫娘の事は?」


「…ヴィヴィアン。フィアント公国を裏切った魔導師」


そこで、胸がキュッと締め付けられた。


レイラの記憶に、ヴィヴィアンと共に過ごした日々が残っている。


それは、どれも楽しいモノで、心が締め付けられる。


「何故、ヴィヴィアンは、裏切ったのでしょう?あんなに…忠誠心の厚い子だったのに」


涙が止まらない。


セイトは、頭を下げ


「姫、申し訳ございません。我が不肖の孫が、何を考えて裏切ったのかは分かりません」


「いえ、謝らないでください。こうやって、看病していただきましたから」


「そう言っていただけますと、ありがたく思います」


「それより…」


葵は、目の前のマグカップをジッと見つめて


「早くここから去らねば、なりませんね」


「分かりましたか…?」


セイトは、ふうっと溜息をつく。


「ええ。もうすぐ、ビルガ帝国の軍がここにやってくるでしょう。ベイトの森は、迷いの森。時間は稼げますが、あちらにヴィヴィアンが付いている以上、ここに到達するのも時間の問題でしょう」


そう言ってから、飲み物を飲む。


それは、セイトを信用しているという証になる。


「私を疑わないのですか?」


「ええ、あなたは、ベイト・ディインダが唯一認めた魔導師ですから」


葵の答えに、セイトは少し悲しげに笑い


「ベイト・ディインダ…か。彼をニュート・ディインダという名で呼ぶ者は、いないのですね…」


そう言って、マグカップを手に取る。


《ベイト》それは、名前では無く称号。


ルスレニクスで1番の魔導師に贈られる、シンフォニアからのギフト。


ニュート・ディインダ、それが彼の本名。


「レクス老にとって、ベイト・ディインダは、弟弟子でしたね」


記憶を取り出して、ベイト・ディインダという人物を思い出す。


若い20代後半の青年のように見えるが、セイトと3つしか歳が違わない。


「ニュートは、シンフォニアに選ばれた時から、己の時間を止めてますからね…このような爺と3つしか違わない…なんて誰も信じないでしょうな」


自虐的に笑うセイトに


「レクス老も、老いを止める魔法が使えるハズでは?魔術師として、ベイト・ディインダと肩を並べられる魔導師は、レクス老しかいませんから」


葵が言うと、セイトは首を横に振り


「あの魔法は、相当な魔力を消費する。維持するには、それこそ寿命を削らないとなりません。あの魔法は、シンフォニアの加護があるから維持出来ているモノ。それをここまで維持出来ているのは、ひとえにニュート自身が慢心せずに己を律しているのでしょう。人というモノは、力を得ると慢心してしまうどうしようもない生き物。だが、ニュートは先を見、フィアント…いやルスレニクス全体の事を見据えて努力を重ねておる。それだけでも、私には出来ない。ニュート・ディインダは、魔導師として私より数段も上ですよ」


そう言うと


『それは、最高の褒め言葉ですね』


どこからか声がした。


《ガタッ!》


と、音を立てて椅子から立ち上がる二人。


目の前に小さな魔法陣が描き出される。


そして、その上に写る幻影は、ベイト・ディインダであった。


「ベイト・ディインダ…君はシンフォニアを封じているハズではないか?」


セイトの問いに


『ええ、私はシンフォニアと共に眠っております。賢者レクスドール』


そう言って笑みを浮かべる。


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