援護する者達は、疑問に思う
宿から少し離れると
「アオイ、追加料金の30枚だ」
そう言ってから、銅貨30枚を葵に渡そうとするが
「15枚でいいですよ」
葵が言うが
「いや、これは自分が払うと決めた分だ。今から、防寒具を買いに行くだろう?防寒具は出来るだけ機能性が高い方がから、その資金を少しでも多く持っていた方がいい」
そう言って、銅貨を葵の手に握らせる。
「…分かりました」
少し納得出来ない部分もあるが、せっかくの好意をムダにする真似は出来ない。
銅貨を財布に入れてから
「さて、この先2つ通りを進んでから右に曲がって奥…と宿の主人が言っていましたね。行きましょう」
葵の言葉にカイトが頷き、歩き出す。
その姿を気配と消した視線がある事も知らない。
『とりあえずよかったですね』
副官に向かって部下が言う。
『とりあえず…ね。薬を作らなかったのは私達の仕事が減ってよかったけど、別の場所で作成する可能性も示唆していた方がいいわね』
副官が歩いている2人の後ろ姿をジッと見ながら言う。
2人に気付かれないように、一定の距離を置いて後を付ける。
『そうですね、後は追跡の軍がこの街に入る前に街から出られれば問題ないのでしょうけど』
部下が懸念の口にする。
『そう…奴らが今、何処までここに迫っているか…』
副官が不安げに言うと
『奴らなら、休憩を終わらせて出発しているよ』
彼女らの後ろから、エイリアがニュッと出てくる。
思わず驚きの声が出そうになるが、彼女らもプロなのでそれは抑えた。
『エイリア…脅かさないでとあれほど…』
呆れながら副官が言うと
『気配を消さないと、気付かれちゃうでしょうが。そこは私もプロですから』
と、意味不明にドヤ顔して胸を張る。
副官は、はぁっと諦めたようにため息をついて
『で?彼らの動きがあった、という事ね』
と、確認作業に入る。
エイリアは、表情を引き締めて
『えぇ。ね…じゃない、副官の言う通り、ビルガ帝国軍はバースの森の中心にある湖畔の近くで休憩を取っていたみたいだけど、天幕とかを片付けて出発したわ。朝一番にはならないだろうけど、首都オリンズにある政府に早馬を出したみたいだから、早馬自体はもうすぐ到着すると。本隊は、歩兵隊のスピードからして、大分遅れるだろうけど。一応、ツォンズ王国はフィアント公国とは状況が違うから、すぐに門が閉鎖される事はないでしょうけど、時間の問題だと思うわ。奴らはシンフォニアを盾に協力を迫ってくると思うから』
エイリアがそう言うと
『一刻も早くオリンズを脱出してもらいたいわね』
副官の言葉に
『姫様達、どこに向かっているの?』
エイリアは先にいる葵とカイトを見る。
『防寒具を買いに行くみたいよ。どうやら、昨日買い損ねたみたい。いろいろ問題を抱えているみたいだから、冷静に要領よく行動が出来てないみたいね』
副官がエイリアの疑問に答えると
『…姫様は箱入りだったからねぇ。バルテノス次期子爵も騎士の演習でしか外の世界を知らないだろうから、行動に杜撰な部分が出るみたいだね』
エイリアのその言葉に
『…失礼な言いようね』
副官が窘めるように言うと
『事実じゃん。私ら部隊が陰で援助しているから、何とかギリギリの状態で追っ手を躱せているみたいだけど、それが無かったら、今頃…』
エイリアが言葉を紡ごうとしたが
『そこまでだ』
彼女らの後ろから声がする。
ピンッと張り詰めた空気を持った首領だった。
『首領…』
エイリアが、バツが悪そうにしていると
『エイリアの言いたい事も分かるが、私達はシンフォニアの意思の元にベイト・ディインダと賢者レスクドールの指示で動いている。姫様が未熟なのは当たり前の事。今までの姫様の環境下では知る必要の無い事だったのだからな。それはバステノス次期子爵にも同じ事が言えよう』
首領がそう言うと
『しかし…』
エイリアが何か言おうとすると首領は遮るように
『エイリアの言いたい事も分かる。シンフォニアが何故姫様を、このような状況に置いているか…私にも分からない部分もある。だがしかし、言えることがある』
一旦言葉を切って
『シンフォニアには、私達の思いも寄らない考えがある、という事だ。そして、それは世界の安寧に繋がる事になっている。その為に姫様自身に成長を促し、その為に敢えてこの状況に姫様を置いている、という事だ』
と、言った後
『エイリア、昨日の言った通りに情報を出来るだけ集めてくれ。出来るならば、北の方の情報も欲しい。ヒルデガース王国の情報は特にだ。首都エルダに向かう為のあらゆる経路について調べて来てくれ』
首領の命令に
『分かりました』
若干、納得してないが、己の成すべき事は分かっている。
スッとエイリアが離れていくと
『首領…』
副官が不安げに声を掛ける。
『何だ?メイリア?』
首領が副官を見る。
副官は、少し迷いながらも
『エイリア…情報部隊長の疑問も私は分かります。何でこのような回りくどい事をシンフォニアは…』
そう言うと
『私とて、それは疑問に思っている。だが、シンフォニアの意思は絶対である。納得が出来なくても、それがルクレニクスの安寧の為なのだから、今は出来る事をするしかない』
首領の言葉に
『…分かりました。監視業務を続行します』
副官は、答えた。




