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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
一路、北へ…
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修練とカイトの不安

中庭に出るとすぐに


「先ずは素振りをして剣筋を見る…ぞ」


カイトは、口調を改めるように言う。


先程、葵がそうしたように、ここではもう素ではいられない場所だ。


声音も少し低めに、寡黙な剣士であるべきなのだ。


「分かった」


葵は答えて素振りを始める。


それを見つめながら


(剣の筋は少しぐらいマシになったが…)


そう思いながら眉をひそめる。


(まだ、隙が多い。思考と体が上手く調和出来てないという事か…)


カイトの見立てが正しければ、葵の思考にレイラ姫の体がついて行けてない事になる。


本来の葵ならば、今よりもっとマトモな動きが出来るのであろう。


だが、レイラ姫の体では、それが上手くいかない。


元々、レイラ姫は魔導師として育てられた人間だ。


体の造りにしても、魔導師と剣士とでは違いがありすぎる。


魔導師として体が造られているのに、剣士として動きを強いられている状態なのだ。


動きがついて行けないのが否めないのは仕方ないだろう。


だが、今は仕方ないと言っている場合ではない。


無理にでも、突き通さないとならない事態ではあるのだから。


ふぅっと息をついてから


「アオイ、今度は俺と打ち合いだ」


そう言ってから、カイトは木刀を構える。


「…分かった」


葵は、そう答えてから木刀をカイトの方に向ける。


打ち合いが始まった。


葵は必死に打ち込むが、カイトは受け流す余裕がある。


打ち合いはしているが、カイトはまだ手加減を相当している。


上手く体を動かせない葵は、少し焦り出す。


【パシッ】


とカイトが葵の木刀を弾いて、下に落とした。


「焦るな。その焦りが隙を作っている」


カイトの言葉に、葵は剣を拾いながら


「すみませ…すまない」


慌てて言い直した。


焦りで素が出そうになった。


(まだまだ…だわ)


グッと木刀を握りしめる。


「言っただろう?焦れば、それだけ隙が生まれる。先ずは落ち着いて相手の動きを観察する事から始めろ」


カイトが厳しい声音で言うと


「分かった」


そう答えて葵は、カイトの動きを注視する。


何処にも隙が無い。


どこに打ち込んでも返される。


分かりきっている事だ。


それでも、僅かな隙を探す。


スッと打ち込む。


だが、あっけなく弾かれる。


「そうだ。相手が隙を見せたらすぐに打ち込め。まだ動きが付いていって無いが、良い観察眼をしている。そのまま注視することを忘れるなよ」


先程、カイトはわざと隙を見せた。


そして、葵はそれを見逃さずに打ち込んできた。


しかし、体が付いていってないので、あっけなく弾かれたのだ。


(ダメ…まだ体が付いていってないわ。いつまで経ってもこのままじゃ…)


焦りが禁物だとは分かっていても、焦りが出てしまう。


「また焦りが出てるぞ」


そう言ってカイトが切り込んでくる。


それを何とか躱してから


「すまない」


と言い、カイトの動きをよく注視してみる。


全く隙の無い構えである。


葵は、両親と対峙した時を思い出す。


普段の生活の中でも隙の無い両親だ。


剣の稽古の際は、特に隙を見せない。


葵は毎回、完膚無きまで叩きのめされるしかなかった。


だが、そこで観察眼を身に付ける事が出来た。


相手の動きに注視し、僅かな動きにも反応し、対応する。


鋭い観察眼…それが両親との打ち合いで得たモノである。


呼吸を1回吐いて整えてから、グッと木刀を握りしめる。


スッとカイトが打ち込みに来る。


認識は早かったが、反応は遅い。


ギリギリのタイミングで躱せたが、葵は顔を顰める。


(ギリギリでしか躱せない…)


歯痒さで、自分が情けなくなる。


だが、カイトは躱した事を驚いていた。


(まさか躱せるとは…受け止めるとおもっていたが…)


それは、葵が日々努力している証。


出発してから、一日たりとも鍛錬を怠る事無く続けていた証だ。


嬉しい事であるのに、素直に喜べない自分がいる。


そう感じてしまう。


カイトは、そういう自分がいる事に嫌悪感を抱く。


…カイトにとってレイラ姫は自分に守られる存在であって欲しい。


そう思ってしまう自分が嫌になる。


いつの間にか自分がレイラ姫を守る立場である事に対して優越感を抱いていた事に。


葵の成長は、カイトの思うより早い。


数日間の鍛錬で、手加減しているとはいえ、カイトの一振りを躱したのだから。


これも融合の影響だろうか?


葵の反応速度にレイラ姫の体が付いていってない部分は否めないが、それでもこの成長速度には驚かされる。


その速度は、決して早くはない。


だが、この数日での成長は、カイトの想像の上を行っている。


恐らく、葵自身の持つ吸収力が融合の影響で出ているのかもしれない。


少し焦ってしまう。


前に魔法剣士の誕生が誕生するかもしれない事を考えていた。


その実現は、思ったより早いかもしれない。


噂程度には聞いていた魔法剣士の存在。


この時代に実在しているのは知っていたが、二人目の誕生に立ち会う事になる。


それに、葵がこのまま成長し続けたら、旅が終わった時、自分とレイラ姫の関係が変わってしまう。


シンフォニアの奇跡が起こり、レイラ姫が戻ってきた時、姫の側に自分は相応しいのだろうか?


姫ならば、自分を側に置いてくれるだろう。


だが、魔法剣士となった姫はもう誰の守護も必要としない。


そうなった場合、自分の存在価値はあるのだろうか?


カイトは不安になった。


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