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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
一路、北へ…
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湯浴みの間―カイトとバッカの会話―

―少し時間を戻して


カイトは、部屋を出ると、扉に体を預けるように寄り掛かる。


【カチリ…】


中から鍵を掛ける音がした。


言いつけ通り葵が鍵をかけたようだ。


(旅は続いている…だが、北の解印石まではまだ遠い。まずは、グルゴ山脈を越えないとならない。しかし…)


カイトは考える。


この旅の先に何が待っているのかを。


愛するレイラ姫を取り戻す為…そういう信念で旅を続けている。


だが、この旅が終われば…そう考える時がある。


レイラ姫だけを追い求めていた自分が、葵の人格や強さに触れてざわめくのが分かる。


この感じは、何なのだろうか?


【パシャリ…】


ドア越しでも、葵が体を洗っている音が伝わってくる。


そして、意識してしまう自分がいる。


(いかん!姫の湯浴みを…湯浴みを…)


想像してはならない、と分かっていても想像してしまう。


ふと、先日寄った湖での出来事を思い出す。


(あの時は、面白かったな。アオイの表情が…)


と、クスクス笑ってしまった。


そして、裸を見た事に赤面してしまう。


(…いかん、いかん。騎士たる者、いついかなる時にも冷静に…)


ドアに頭を打ち付けたくなる衝動を、流石に不審者に見えるだろうと思い踏みとどまる。


「よお、何か面白いな」


そこにバッカがやってくる。


「…お前か」


カイトが、つっけんどうに言うと


「ご挨拶だな…」


バッカは肩をすくめて言う。


「廊下に出て何をしているんだ?」


そういうバッカの問いに


「別に…」


【アオイが湯浴みしている】


とは言えないカイトは言葉を濁す。


「なるほど、アオイが湯浴みをしているのか」


それでもバッカには理解出来たようだ。


「追い出されたのか?」


そう問うと


「…まぁな」


カイトは、ぶっきらぼうに答える。


「あいつもアレだな。そんなに自分の裸に自信が無いんだな。それか隠しておきたい何かがあるのかね?」


少しばかり核心を突いてくるバッカに


「…さぁな」


と曖昧に答える。


「アイツとは、少し前に出会ったばかりだからな…互いに知らない部分もある」


カイトは、嘘は言ってない。


葵とは、数日前に出会ったばかりなのだから。


ただ、体がレイラ姫なだけで。


「ふぅん…」


バッカは、怪訝そうに見ていたが


「ま、いっか」


と、勝手に何かを納得して


「そんな事よりよ…」


カイトの肩に手を置いて


「さっき、聞いたんだけどよ。この街に軍がやって来ているらしいぞ」


と、カイトの耳にコソリと囁く。


「え?」


カイトは驚いて目を見開く。


「さっき、酒場で耳に入れたんだけどよ。この街に数千単位の軍がやってきている話だぜ」


その表情は硬い。


「…どこの…国だ?」


カイトは答えが分かっている質問をバッカに投げかける。


「…ビルガ帝国らしい」


バッカの答えに、カイトはグッと拳を握りしめる。


「ビルガ帝国?何でそんな大国が…?」


動揺を悟られないように平静を装う。


バッカは、お手上げのポーズのように手を軽く挙げてから


「知らねぇよ。そんな大国の事情なんか…ただ…」


「ただ…?」


「お隣のフィアント公国にビルガ帝国が侵攻してきた…って話は回ってきているからな。次はツォンズ王国かイーストベルカ王国…はたまたジン連邦になるかは世界中が注目しているし、警戒しているのか聞いているからな。その三国で一番軍としての規模が小さいのはツォンズ王国だ。ま、軍事的に侵略するならツォンズ王国になるだろうな」


バッカは人目を憚るように小声で言う。


やはり、こういう事は声を大にしては言えない。


誰が聞いているかも分からないし、不穏な事を口にしたら身を滅ぼす事になりかねない。


バッカは頭の後ろに手を組んで


「まぁ、シンフォニアの加護がフィアント公国から失われた…とか噂が回っているからな。俺の仕入れた情報ではビルガ帝国のキートン王子の婚約者になるはずのレイラ姫が姫の元婚約者に誘拐されて今は行方不明になっているとか…」


その言葉に


「え…?」


と、驚く。


「どういう事だ?」


そうバッカに聞く。


「何が?」


バッカが首を傾げると


「レイラ姫が行方不明だって、噂が回っているのか?」


動揺を隠すようにバッカに問いかけると


「あぁ…表立っては出回ってないけど、裏の界隈では有名さ。噂では、姫の元婚約者が拐かして何処かに姫を監禁しているって話だ」


その言葉に、一瞬カッとなったが、爆発する一歩手前で抑える。


今は、その行動がこの旅の目的を破壊する事になりかねないと分かっているから。


「…そうか…レイラ姫が…監禁…か」


自分を落ち着かせようとして、言葉が途切れ途切れになる。


「おい?どうしたんだ?」


怪訝そうにバッカがカイトの顔を覗き込む。


「何でもない」


そう言って、カイトは顔を背ける。


「どうしたんだ?デュラン?」


不思議そうに顔を覗き込んでくるバッカ。


ハッとしたように


「まさか…お前…」


バッカが何か言おうとする。


カイトは、【マズイ!】と、失態をさらしてしまったと焦りだした。


「お前…レイラ姫に憧れているのか?」


バッカが少し的外れな事を言ってくる。


「は?」


カイトが素っ頓狂な声を出すと


「お前、フィアントの生まれなんだろ?だから、どっかでレイラ姫を見て一目惚れとかしてさぁ、それで…」


的外れな推理を展開するバッカに、少し脱力してから。


「…そんな訳ないだろ」


安堵と共に呟く。


「いや…絶対そうだ…どこで見かけたんだよ?やっぱり、王家のパレードか?ん?でも、お前、首都から離れた村の出身だよな?…そうか、用事で首都に来た時に王家のパレードに出くわしたとか?いや…まてよ…もしかして、姫がお忍びで城下にやって来た時に偶然に見かけたとか?」


と、勝手に推理を展開していく。


カイトはため息を吐いて


「違うよ」


そう言うが


「いや、絶対そうだ!」


バッカが主張する。


カイトは、もう一度ため息を吐いてから


「もう勝手に言ってくれ…」


と、言った。


そこに鍵がカチリと鳴り、ドアが開く。


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