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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
お姫様となって旅立ちます。
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目覚めたら異世界…

ゆっくりと落ちていく感覚が葵にあった。


《ふわ…ストン》と着地した感覚。


何かに馴染むように広がっていく。


体中の感覚が戻っていく。


ゆっくりと瞳を開けた。


「姫!」


誰かの声がした。


知らないようで、知っている声。


「レクス老、姫がお目覚めになりました!」


その誰かが別の誰かに声をかけている。


「おお、お目覚めになったか?」


老人らしき声。


この声も知らないようで知っている。


ゆっくりと視線を向ける。


心配そうに見ているのは、二人の人物。


葵は、二人を知らない。


だが、記憶はある。


一人、青年はカイト・バルテノス。


自分の恋人で守護騎士。


公国一の剣の使い手と呼ばれている。


魔法はからきしだが。


自分と共に城から脱出して、森を駆け抜けていたハズだった。


途中で追っ手に見つかり、矢で射られようとした彼を庇い背中に矢が刺さり…そこから光に包まれた。


もう一人の老人は、セイト・レクスドール。


ベイトの森の賢者と言われている。


自分の魔法の師匠であり、親友ヴィヴィアン・レクスドールの祖父でもある。


記憶はあるが、葵は知らない人達だ。


「姫、大丈夫ですか?」


心配そうに顔を覗き込んでくるカイトに


「あ…はい…」


と、答えながら、起き上がる。


《ふわ…》


と長い金色の髪が視界に入る。


それが自分の髪である事に気付くまでに時間は掛からなかった。


そして、周囲を見渡すと鏡が見える。


葵は、ベッドらしき家具から降りて、鏡の前に立つ。


そこにいたのは、あの時見た、自分に似た金髪碧眼の少女。


髪を手に取りながら、戸惑いを隠せない葵に


「姫?どうかなさいましたか?」


カイトが問いてくる。


(姫…そう、私は、レイラ・クェント。フィアント公国の第一王女。守護樹シンフォニアの巫女の一人…)


記憶を取り出せたが、それは葵としてではなくレイラとしての記憶だ。


「姫?」


カイトが顔を覗き込んでくる。


ハッとなる。


(この人だ。夢の中で、“私”と一緒にいた人は、この人だ)


いつも自分が夢に見ていた世界で、一緒に行動をしていた。


それが、カイトだと葵は確信した。


(じゃあ、これは…夢…?)


鏡の中の自分に触れる。


《ヒヤリ》とした鏡の感触。


パチパチと、自分の頬を叩く。


(痛い…感触がある)


「姫?一体、どうなさったのですか?」


カイトが戸惑っているようだ。


「あなたは、カイト・バルテノス…さんですね。そして、そちらは、セイト・レクスドール…さん」


葵は、戸惑いながらも名前を問う。


カイトの表情が変わる。


「…お前、姫では無いな?誰だ?」


そう言って、腰の剣に手をやる。


「私は、葵。椎名葵。でも、レイラ・クェントでもある」


「何?お前は姫に憑依しているのか?姫はどこにいる?」


カイトの問い質す声に


「レイラ…は、どこにいるの?分からない」


そう言ってから、頭を抱えてしゃがみ込む。


「お前!姫を…」


剣を抜いたカイトをセイトが制する。


「止めい!この娘は、レイラ姫で間違いない」


セイトの言葉に


「ですが…」


それでも、退こうとしないカイトに


「これは、恐らく禁忌魔法の発動の影響だろう」


「禁忌魔法?」


禁忌魔法リフォント。シンフォニアに認められし王族のみ使える禁忌の魔法じゃ。瀕死の危機に立たされた時、異なる世界にいるという魂の共有者の魂を呼び寄せて融合し、瀕死の危機から逃れる。じゃが…異なる世界の魂もまた瀕死の危機に晒されていなければならないという条件がある。お嬢さん、アオイと言ったね?」


「はい…」


「君は、何か生命の危機に立たされたのかい?」


セイトの問いに


「…はい、事故に遭い、瀕死の状態だったと思います」


葵が答えると


「…そうか、やはりな」


納得したように頷く。


「レクス老!一体何が?姫は?姫はどこに?」


カイトが必死の様子で問うてくる。


「姫は、ここにおるではないか」


「だが、この者は姫ではない!」


そう言って葵を指さす。


「姫は何処におられる?」


葵の肩を掴み、問い質す。


分からず固まっている葵に


「落ち着かんか!カイト!」


セイトが一喝する。


「しかし!」


「姫は、彼女と融合しているのだ。欠けた魂を融合する事で補い合う。これが禁忌魔法じゃ」


「え?」


セイトは、葵を見つめ


「あなたは、姫に会いましたね?」


そう問うと、葵は戸惑いながらも頷く。


あの暗闇の中で会った彼女が、レイラ姫だろう。


「何があったか、話していただけませんか?」


セイトの問いに、迷いながらも


「はい、暗闇の中で…光が…そして、レイラ姫だと思います。彼女に会いました。そして、《シンフォニア》という光の球にも会いました。『私とあなたは一つになる。ルスレニクスと、そしてフィアントを救うの』とレイラ姫は言いました。シンフォニア?の力でレイラ姫は、私の中に入ってきて、記憶とかたくさんの何かが流れ込んで来て、そして意識がなくなって…」


「目覚めたら、ここだった?」


「はい」


セイトは、ふう…と息をついて


「やはり、禁忌魔法(リフォント)が発動したようだ」


そう言う。


「では、姫は何処におられるのですか?姫は…?」


「姫は、彼女と融合しておる。彼女は姫であって姫ではない」


セイトが、ハッキリと言い切った。


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