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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
一路、北へ…
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追っ手達の迷走の終わり

ヴィヴィアンは、その兵士に


「その情報は確かなの?」


と問うと


「はっ!西側を捜索している分隊の報告によりますと、西の方を旅している旅芸人の一座に話を聞いた所、ゲルムに向かう2人組を見たそうで、その特徴が金髪の長い髪で華奢な女性と騎士らしき人物だったとの事でした」


兵士は返事をした。


「ヴィヴィアン!姫達は北に向かっているとの事では無かったか?お前…まさか…」


そう言って腰に下げている剣の柄に手をやる。


「冷静になりなさいな。それも陽動だとは考えられないの?」


そう言ってヴィヴィアンは、リスターを窘める。


言葉に詰まったリスターは


「だが、それが嘘では無いとは言い切れまい。姫達が方向転換したという確率もあるだろう」


そうは言ったが、戸惑いは隠しきれない。


だが、ヴィヴィアンはそれが陽動だと理解していた。


(やはり…()()()の言う通りに事が進んでいる…)


姫達の偽の情報…陽動の思われる痕跡…全てが物語っている。


「私は、陽動だと思うわ。信じる信じないは自由だけど?」


ヴィヴィアンの言葉にリスターは、言葉に詰まりながらも


「しかし…だが…」


と、悩んでいるようだ。


そして


「よし!11から14分隊に命じる。西のゲルムに姫らしき人物が現れてないか確認しろ。私達は国境に向かう。それと7から9分隊は、ヴィヴィアンが示した場所への確認に急げ!姫達を確保出来なかった場合は、すぐに我々を追うように」


と、兵士達に指示を出す。


(なるほど…情報の確認はするのね…でも…それもムダに終わると思うけどね)


ヴィヴィアンは、そう思ったが口に出さない。


「それでいいな?」


リスターがヴィヴィアンに確認に入ると


「構わないわ」


と、とりあえず答えておく。


姫達は国境を超え、ツォンズ王国に入っている。


だから、全兵力を国境越えに向けるべきだと。


ヴィヴィアンは確信していた…が、リスターに言っても一蹴されるだけだろう。


何せ、リスターのヴィヴィアンに対する信用はゼロに近い。


元々フィアント公国の忠実な魔導師だったのだから、裏切ったのもフェイクの可能性があると見られていても仕方が無い。


だから、信用を得る為に、リスターの指示には従っているし、自分の力で貢献にも尽力している。


だが、信用は一向に得ない所か逆に信用度は低くなっているようだった。


それも仕方ない。


肝心のレイラ姫とカイトが捕まらないのだから。


冒険者の目撃情報やヴィヴィアンの探知魔法で捜索しても、一向に捕まる気配が無い。


それに対するリスターの苛立ちはMAXに達していた。


それが分かっているヴィヴィアンや兵士達は、黙ってリスターの判断に従うのみなのだ。


馬を国境に向ける。


移動している途中だった。


ヴィヴィアンの頭の中に言葉が浮かぶ


【国境を越えろ】


と…


()()()からの指示だわ…国境を越えろ…か。やはり、姫達は国境を越えているって事なのね。本当にあの方の慧眼には恐れ入る所があるわね)


チラリとリスターを見て


(後は、この人をどう説得するか…か)


そう思いながら、微かに笑みを漏らす。


ヴィヴィアンに取って【()()()】は敬愛の対象だ。


その方からの指示は、歓喜に値する。


すべては、ヴィヴィアンを信用して指示を与えているのだから、嬉しいハズがない。


誰からも信用が無くなっても、【()()()】さえ信用してくれればよい。


祖父や親友からの信用を失っても…だ。


それ程に、ヴィヴィアンは【()()()】とやらを心酔している。


その想いは誰にも負けない自負がある位なのだから。


そうこうしているうちに、馬は国境に差し掛かる。


門番は、少しうんざりしながらも


「手配書の人間は、まだ通過していませんよ」


と、答える。


「手配書をよく見ろ。本当に通過していないのだな?」


リスターが問いただすと、門番は手配書をよく見ながら


「ん?…似たようなヤツがいたな」


とレイラ姫の手配書を見て呟いた。


「何?」


リスターは驚きの声を上げた。


「何故、言わなかった?」


門番を問い詰めると


「確かに似てましたがね、男ですよ。ギルドカードにそう表示されていました。それに雰囲気が違う。この手配書の女性は品格がありそうだが、ヤツにはない。市政の人間の匂いがプンプンさせていた。ギルドカードは偽造が出来ない。それは世界共通の理だ。ヤツは正真正銘男ですぜ」


門番が言うと、リスターは眉間に皺を寄せて考えている。


そこに


「その者の名は?」


ヴィヴィアンが門番に問いかける。


門番は頭を掻きながら


「覚えてませんよ…ただ、珍しい名だったと」


そう答えた。


「そう…その者には連れはいたかしら?」


と、更に問いかける。


「いましたね。長い茶髪の寡黙な男でしたよ。しゃべるのはもう一人の方ばかりで、そいつは一言もしゃべりませんでしたよ」


門番の返事を聞いて


(その2人が姫達の可能性があるわ。でも、ギルドカードの偽造は出来ないハズ。違うのかしら?)


そう思いながらも


(さて、後はこの人をどうやって説得するべきなのか…だけど)


そう言って、リスターの動向を見る。


リスターは


「ヴィヴィアン、もし2人が国境を越えたとしたら、やはり首都オリンズに向かうと思うか?」


と問いかけてきた。


珍しい…と思いながらも


「ええ。物資は首都に集中するわ。アイテムや装備を整えるなら、首都オリンズはうってつけの場所でしょうね」


と答える。


「…そうか」


そう呟いて、少し考えた後


「王子に指示を仰ぐ。通信班!すぐに王子に連絡を取れ!」


そう兵士に指示を出す。


通信班の1人が急いで指示を実行に移す。


その人物が通信機器をリスターに差し出して


「王子が副官と話したいそうです」


と、言ってきた。


リスターはそれを受け取り


「リスターです。王子、申し訳ございません。今だ、姫達を確保には至っておりません」


そう言うと


『構わん。それよりだ。国境を越えてツォンズ王国に入るとの話だが…目撃情報でも出たのか?』


キートン王子は、問いかけると


「はっ!姫の目撃情報は出ておりませんが、気配をヴィヴィアンが感じたそうで…」


リスターが答えると


『ヴィヴィアンがか…なるほど、気配を察したと言うわけだな…それならば、国境を越えてツォンズ王国入りをしろ』


と、リスターに指示を出す。


リスターは、ヴィヴィアンをチラリと見て


「…信用なさると?」


と問いかけると


『今は、小さな情報でも確認するしかあるまい。首都オリンズには私の方からも連絡を入れておく。今度こそ、姫達を確保せよ』


「はっ!」


その後、通信が途切れた。


通信機器を通信班に渡してから


「国境を越える」


一言だけ、リスターは告げた。


(やれやれ、余計な仕事が減ったわね)


そう思いながらも、その指示に従う。


(すべては【()()()】の為…)


ヴィヴィアンは、手綱に力を込めた。


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