後ろで援護する者達の会話
その一方でー
葵達の後を追っていた2人がいる。
【副官】とその部下だ。
『出立するみたいですね』
部下の女性が言うと
『そうみたいね。長居は禁物だから、英明な判断でしょう。しかし…』
『よもや、試験に落ちるとは思いませんでしたね』
部下が言うと、副官は
『それがシンフォニアの判断なのでしょう。姫様もだけど、私達もその判断に従うのみよ』
そう言ってから
『さて、そろそろ追っ手が迫っても仕方ない頃合いだけど…どこまで迫っているのかしら?』
と、少し考えるポーズをとる。
すると
『呼んだ?』
と、ひょっこりと誰かが姿を現す。
『『うわっ!!』』
副官とその部下は驚いて声を上げるが、彼女たちの周囲には最低限の認知阻害の結界が張られているから、誰も気付かない。
『エイリア…驚かさないでよ』
『情報部隊長、心臓に悪いですよ』
と、2人が抗議の声を上げていると
『ごめんごめん。そんな事より、姉さん…』
その瞬間、ギロリと副官に睨まれる。
『うっ…』
情報部隊長―エイリアは、その迫力に圧される。
『任務中は【姉さん】って呼ぶなと言ってあるでしょう』
副官が言うと
『…ね…副官だって、私の事【エイリア】って呼んでいるじゃん』
不服を申し立てたエイリアだったが、副官の一睨みで黙り込む。
副官は、コホンっと咳払いをして
『で?街での情報収集は上手くいったの?まさか、9班と10班に迷惑かけて…』
『ません!真面目に仕事しましたよ。まったく、ね…副官はいつもいつも…』
不服を言いながらもエイリアは
『まずは、オリンズの様子から。まだ影響は出ていない…と思われているけど、中枢部分には多少なりに影響が出て来ている。姫様達の手配書が明日にでも街に通達される可能性が出て来たわ。そして、ここが肝心なんだけど、ヴィヴィアン殿達追っ手が国境を越えつつある。首領達の錯乱がしばらく効いていたけど、限界には達しているみたい…だた』
そこでエイリアは黙る。
『ただ?』
副官が聞くと
『ビルガ帝国側の副官が、まだ首領達が偽りで蒔いた情報を鵜呑みにしているらしくて、兵の1/4を国境近くに残して、情報の真偽を確かめるそうよ』
そう言ってから
『首領達は、すぐに撤収して国境をもう越えてこっちに向かっている。そろそろ着く頃じゃないかな』
と言うと
『そんな事よりさ、姫様ってたぶん気になっているよね?』
話題を切り替えた。
『は?』
副官が目を丸くしていると
『いや…あの様子から察するに装備と服の汚れが気になるみたいだね。汗と汚れが染みついているみたいだし。女の子だから気になるよね?』
エイリアに問いかけられて、副官は少し困ったように
『それは気になるでしょうけど、洗浄魔法は結構魔法の波動が残るし、リスクを犯す真似は姫様はしないでしょう』
そう答えたが
『じゃあ、副官が何とかしてあげたら?出来るよね洗浄魔法』
エイリアは暢気な口調で言うと
『そんな勝手な真似は、首領の許可無しでは出来ないわ。姫様のフォローを命じられたけど、そこまでしたら、姫様達の為にならないもの』
副官がそう言うと
『真面目だねぇ』
エイリアが茶化すように言うと
『あなたが不真面目なだけよ。本当に話題を急に変えるのはやめなさい』
副官が窘めるように言う。
『ふぁーい』
エイリアは返事だけはした。
そこに
『お前達何を話している?』
後ろで声がした。
『首領』
副官の声が若干嬉しそうだ。
『姫様達の様子は?』
首領が確認するように聞く。
『ギルドのランクアップ試験を受けたようです。結果なのですが、姫様は落ちましたが、バルテノス次期子爵は、合格しました。ここでの用事が済んだのでしょう。1回休憩を入れてから出立をするようです』
副官が事務的に答えると
『そうか…ヴィヴィアン殿達の追っ手が迫っている。ここにも偽の情報をいくつか蒔いておく必要があるな』
そう言ってから、手を耳に当てて
『1班から5班、聞こえるか?着いて早々悪いが、今からオリンズ中の宿屋や商店街、ギルドに偽の情報を流す。手配書の人間がこそこそ彷徨いているように見せかけろ』
と、念話を始めた。
1回念話を切り、もう一度耳に手を当ててから
『6班から8班は、出立する姫様のフォローに回れ。減ったアイテムなどの補充も忘れるな』
そう言って念話を切った。
1班から5班、6班から8班にそれぞれダイレクトに届くようにしているのだろう。
これも相当な技術を要する。
相手をダイレクトに選んで念話するのは、相経験経験や鍛錬がいるのだ。
念話を終わらせた首領は
『情報部隊長…9班と10班を連れて、時間のある限り情報を集めろ。副官達は、このまま姫様達の監視を怠るな』
そう3人に命じる。
『『『はっ!!』』』
3人は返事をしてから、エイリアはすぐに9班と10班に合流する為にその場から離れる。
『さて…姫様の成長はどうだ?』
首領が尋ねると
『まだ、1人では小魔物が余裕程度ですね。中魔物に至っては補助が必要かと』
副官が答える。
『あの…首領』
おずおずと部下の女性が話しかける。
『何だ?』
首領が答えると
『姫様が、回復薬の制作をしています。そして、また作ろうとしています。危険な行為だと思うのですが…』
と、報告した。
首領は眉を顰めて
『回復薬をか…確かに、質の悪い上に高い回復薬を買うより自分で作った方がいいだろうが…危険だな…ちゃんと隠蔽魔法を施したか?』
首領が確認するように聞くと
『もちろんです。その時は人払いの結界も張りました』
副官が報告する。
首領は少し考えて
『危険な行為だが…隠蔽魔法は成功したのか?』
と、確認をする。
『それはもちろんです。姫様も最低限の魔力しか使用しませんでしたら、私の隠蔽魔法は成功しました。しかし、姫様が制作するのは資金が足りないからであって仕方ない部分はあります』
副官の報告に、首領は少し考えた。
『確かに、今の姫様達の財布事情を鑑みると、制作したほうがいいとは思うが…』
しばらく考えてから
『よし、再び隠蔽魔法をかけるしかあるまい。それがヴィヴィアン殿に通じるかは分からないが、今度は私が自ら行う』
そう言うと、副官は少しホッとしたようだ。
自分の実力では、完全に隠蔽出来るか不安だったのだろう。
『監視を怠るなよ。それに…と連絡を忘れるな』
そう首領は命じた。




