ランクアップの試験ーアオイ編判定
「ダメです。不合格ですね」
マーニャが残酷に言う。
正確には、葵のカードをクリスタルに翳した状態で浮き出た文字を読んでから言った言葉だが。
「は?」
葵達は驚いている。
帰り道も、それなりに魔物と遭遇した。
体力は限界だ。
宿に戻って休みたい。
そんな気持ちを抑えて、買取場にていつも通り魔物の査定を行った。
バッカが気を利かせて、入り口近くで自分達が狩ったフェンダーベアを1体出して、自分達の資金にしろと言った。
フェンダーベアはシャウトベアより小さいとはいえ、大きさはある、
ギルド会館までの道のりは目立ってしまった。
そして、買取場にていつも通り魔物を査定してもらい、ギルド会館に向かった。
フェンダーベアを5匹倒した事を報告し、カードを翳して確認をしてもらう。
そして、冒頭の言葉だった。
「え…だって…」
葵が動揺を隠せずにいると、マーニャはため息をついて
「いえ、課題はクリアしています。間違いありません。でも、大事な事を忘れていたようですね」
と、マーニャは残念そうに言う。
「は?」
葵が首を傾げると
「助けに入られていますね。そうクリスタルに出ています」
マーニャの言葉に
「あ…」
葵は、思い出した。
【助けに入られた時点でアウトである】事を。
「あれも助けに入る事になるのか…」
葵が呟くと
「何があったかは、クリスタルに出ていないから分かりませんが、デュランさんの補助があって、フェンダーベアの討伐に成功したのでしょう…だから、判定は…」
マーニャは、申し訳なさそうに言う。
「しかし、アオイがフェンダーベアを狩ったのは…事実だろう?」
カイトが反論しようとしたが、葵はカイトの肩に手を置き
「いい。デュランがランクアップしただけでも実りはあった」
そう言う。
「しかし…」
カイトは納得出来ないように何か言おうとすると
「それが、シンフォニアの判断だ」
葵は言った。
そう…葵は理解した。
自分がまだ、実力が伴っていない事も。
まだ、シンフォニアに認められる程の力がついていない事も。
現実を叩き付けられた。
カイトが押し黙っていると
「さぁ行こうか。マーニャ、さっき買取場で査定して貰った分の報酬はもらえるか?」
葵が言うと
「はい…出来ます。ベレッタにリルラビットの角まで…貴重なモノを持ち込んでいますね。これでしたら、銀貨1枚と銅貨20枚になります」
そう言いながら、急いで報酬の準備をする。
それを乗せた皿を出して
「これが報酬です」
そう言うと、葵は急いでそれを財布代わりの袋に入れる。
「デュランも、出せよ」
そう言ってカイトを促す。
カイトは、ブスッとしながらもカードを出す。
それを翳したマーニャは
「あら…フェンダーベアを持ち込んでいますね。それにリルラビットの角、ベレッタの石も。フェンダーベアは貴重ですから査定も上がりますよ…と、そういえば残りはどうしたんですか?アオイさんが狩った分は?」
と、もっともな事を聞いてくる。
「森に置いてきた。でかいからな」
葵がそう言うと、冒険者の一部は急いで出ていこうとする。
そこに
「自分で狩ってないのは、買取不可ですよ」
メガネの受付嬢が、よく通る声で言った。
それで、一部の冒険者達は残念そうに肩を落とす。
「フェンダーベア…高いのに…もったいない…収納魔法持っているヤツがいたらよかったのに」
と、落胆の声を上げている。
それ程にフェンダーベアの価値は高いのだろう。
「はい出ました!銀貨2枚と銅貨50枚ですね」
そう言ってから、報酬を出す。
マーニャは興奮気味に
「やはりフェンダーベアの価値が大きいですね。本当に、収納魔法の使い手がいたら、よかったのに。お二人とも魔法は…?」
マーニャが言うと
「使えないんだ2人とも」
葵が答える。
「それは残念でしたね。特にリルラビットは滋養強壮にもいいのに、もったいないです」
惜しそうに言ってから
「デュランさんがEランクなので、これからはEランクの依頼も受けられます。アオイさんも同行する事は可能ですから安心してください。そして、葵さんはもう少し実力をつけてから、また挑戦しましょう。私、応援していますから」
そう力説する。
葵は
「あぁ…そうだな…ありがとう」
と礼だけ言ってから
「行こうか、デュラン」
そう言ってからカイトを促す。
カイトも黙ってそれに従ってギルド会館を出た。
出た所で
「あれだけ努力したというのに…」
惜しそうに言うカイトに
「仕方ありません。私の実力不足は否めない所があります。それがシンフォニアに認められなかっただけです」
葵は達観したように言う。
「ずいぶん落ち着いているな」
カイトが言うと
「ショックはショックですよ。二重の意味で」
葵はそう答えた。
「二重?」
カイトの問いに
「ええ。単純にランクアップ出来なかった事。そして、私の実力はまだシンフォニアには認められていないという事です」
そう言うと、カイトは黙った。
何の言葉をかけていいのか分からないからだ。
「そんなに困る必要はないですよ。これから強くなればいいだけですから」
そう言って微笑む葵に、カイトはドキリとした。
笑い方がレイラ姫とは違うのに、重なる。
こんな時、レイラ姫なら落ち込んで立ち直れないだろう。
魔法が上手く上達出来ない時、姫はよく落ち込んでいた。
それを宥めたのはカイトとヴィヴィアンだった。
だが、葵は違う。
立ち直ろうとしている。
それだけでも、心の強さが違う。
カイトにとって、レイラ姫と葵は別人だと改めて突きつけられた気持ちになった。




