世界と世界の狭間で…
葵が気付くと、そこは真っ暗だった。
何も無い。
ただの暗闇。
(ここは…何処?)
そう思いながら、状況を整理する。
(帰り道で…公園の近くで…そうだ…車に轢かれた?)
そう思って痛みを確認すると何も感じない。
しかも、今自分は一糸まとわない姿。
(え?何?何が起っているの?)
混乱しながらも、必死に冷静になろうとする。
(私…死んだ…?死んで、天国に向かってる?)
ならば、納得出来る。
(そっか…私、死んだんだ)
そう思うと涙が溢れてきた。
やりたい事とか、未来とか、いろいろあったハズだ。
それが一瞬で無くなった。
そう思うと悲しかった。
(お父さん、お母さん、雪夫、今頃どうしているかな…圭子…泣いているかな…?)
遺された人達の事を考えて、一層悲しくなってきた。
(結局、勝ち逃げになったな)
美津子の事を思い出す。
悔しい顔をしているのが頭に浮かぶようだ。
はぁっと息をつく。
(あっけない最期だったな。16年の人生)
(大会、出たかったな。先輩、残念がるだろうな)
(あーあの人ともう一度戦ってみたかった)
いろんな事が頭を巡っていく。
(で、ここは何処かね。何か天使とかが迎えに来るのかね)
走馬灯が終わったのか、いい加減暗闇から出たくなった。
(何だろう?ここは?ただ暗いだけ?)
首を傾げていると、いきなり目の前に小さな光が見えた。
(お!)
と思った瞬間、それは目映い光を発した。
思わず目をつむる。
光が弱まったのが分かると、ゆっくりを目を開ける。
光は、葵と同じ大きさとなり、人の形を取っていく。
光が収まった瞬間、驚きを隠せなかった。
そこにいたのは自分…
いや、自分では無い。
目の前にいるのは、金髪碧眼の少女なのだから。
だが、顔は正しく葵そのものだった。
長い金の髪は、微かにウエーブが掛かっている。
「あなたは…誰…?」
思わず聞いてしまう。
『私はレイラ、そしてあなたでもある』
少女-レイラは答える。
「え?私?」
(いやいやいやいや、私黒髪だし、目の色違うし!)
混乱しながらも、冷静に心の中で突っ込む。
レイラは、フフ…と笑い
『あなたは私、私はあなたである。私とあなたは同じ魂を持つ者』
「え?」
『お願い、ルスレニクスを救って』
「へ?」
いきなりの申し出に戸惑う葵にレイラは続けて
『今、ルスレニクスは危機に瀕している。だから、助けて』
「いやいやいやいや、助けるって私、何か特別な能力があるわけではないし、どうしろと?」
一気にまくし立てる。
『大丈夫…あなたなら出来る』
レイラは、微笑んだまま言う。
(…これは、夢か?事故で意識不明の状態の私がみている夢か?)
何とか現状を納得させようとしている葵に
『夢じゃない。あなたはあの世界で、瀕死になった。だから、魂はここ呼べた』
「は?」
『今の私達は、魂だけの存在…しかも、半端で不安定』
「え?」
『だから…一緒になるの』
「へ?」
再び横から光が溢れてきた。
それは、小さな球のようだが、何故か神々しい。
《話は終わった?》
言葉は直接届く。
男か女か分からない。
ただ、言葉は直接頭に届いた。
「誰?」
葵が問うと
《私はシンフォニア》
言葉が届く。
レイラは、光る球を見つめ
『シンフォニア、お願い』
そう言うと
《…レイラ、よいのだな?》
光る球の言葉。
『構わない。これが最善』
レイラが答えると、葵は
「ちょっと待って!何を言っているの?訳わかんないよ?」
混乱している葵にレイラは、フッと笑い
『私とあなたは1つになって、ルスレニクスを救うの』
「え?だから、それが意味分かんない」
《葵》
言葉が響く。
葵は、光る球の方を見る。
《お前は、あの世界で魂が消えていく所であった。それを私がここに魂を引き寄せた》
「何故?」
葵の問いに
《すべては、ルスレニクスの為に》
「だから、ルスレニクスって…」
《それは、これから分かるであろう。もう時間が無い。レイラ、葵、いくよ》
光る球が、目映い輝きを放つ。
それが収まると、レイラの体がキラキラと光り出した。
「レイラ?」
『私とあなたは一つになる。ルスレニクスと、そしてフィアントを救うの』
「え?」
『ただ…心残りが一つだけ…』
「心…残り」
レイラは葵に近付いてきて
『カイト…あの人の事だけが心配。私の為に心を痛めていないか』
「カイト?それは…?」
レイラは、光の粒子となり葵の中に入ってくる。
その瞬間、いろいろなモノが葵の中に入ってくる。
記憶…知識…力…
たくさんの何かが、葵の中に流れ込んでくる。
(何これ…一体…)
《さぁ葵、目が覚めたら、そなたは理解するであろう。レイラの行動と今から成さねばならぬ事が》
(え?どういう事?シンフォニア?って言っていたよね?何がどうなるの?)
《さぁ、今は眠ると良い。お前達の魂の融合が始まった。馴染むまで時間がかかるであろう》
(だから、何を言っているのか…分からない?いえ…分かる?)
意識が段々と遠のいていく。
(私が成すべき事…ここに呼ばれた意味…)
深く考える間もなく、葵は意識を手放した。
そして、彼女はゆっくりと降りていく。
《さぁ、ルスレニクスを救うのだ。葵》