ランクアップの試験ーアオイ編肩慣らしの戦闘
少しホッとしたように剣を下ろす。
すると
「油断はするなよ。どこに魔物が潜んでいるかは分からないからな」
と、双剣を鞘に収めながらのバッカから忠告にも似た言葉。
「あぁ…わかっている」
そう言って、葵が剣を鞘に収めると
「とりあえず、俺が7匹、デュランが5匹、アオイが3匹か…まぁまぁの出来だな」
そう言ってから、魔物に近付き
「こいつは、ベレットっていう魔物だ。さっきも言った通り額の石には価値がある。だから、乱獲されやすい。そのせいで数は希少な訳だ。大人しそうな見た目だが性格は獰猛だ。鋭い爪で相手を倒しにかかってくる。額の石は、この通り…」
そう言って、一匹のベレットの額の石をグッと引っ張る。
あっさりと取れた。
「簡単に取れるわけだ。これは、この石が古くなったら新しいのに生え替わるからだ。生え替わった石は、ゴロゴロ森に落ちてはいるが、価値は下がる。古くなった石だからな」
そう言ってから、自分が狩ったであろうベレットの額から次々と石を引っ張り出す。
「分かるのか?」
葵が問うと、バッカは作業を続けながら
「まぁな。自分の狩ったのが分からないと、後で面倒な事になる。だから、自分が狩ったヤツは覚えておかないとならない…これで終了だ」
そう言って、最後の一匹の石を引っ張る。
だが、少し固そうだ。
「お…こいつは…」
そう言って力を込めるとやっとの事で引っ張り出す。
「ラッキーだな」
その赤く光る石を見ながらバッカが言う。
「何がだ?」
葵の問いに
「あぁ、ベレットの額の石は生え替わる…てのはさっき説明したが、生え替わったばかりは、外れにくい。逆に古くなってくると外れやすい。これは、相当外れにくかったから、生え替わりに近いって事さ」
そう答えてから、目の前の石を手の中で遊ばせる。
「そうか…」
納得しながら、困ってしまった。
3匹しか倒していないとはいえ、どれを倒したのか分からない。
「お前らは気にしなくていいと思うぜ。チームなんだから、一緒に鑑定するだろうからな。そん時にどっちがどれを狩ったかなんて混ぜちまえば分からねぇ。大事なのは、どっちが何を何匹狩ったかっていう事だからよ」
そう言われて、納得出来た。
確かに先日も混ぜて鑑定してもらっていたが、一緒に鑑定されていたし、数が正確だった事もあり、何の問題もなかった。
「なるほどな」
そう言ってから、覚えのある手前の1匹の額の石を取る。
少し力がいるが、それをバッカに気付かれてはならないと思い、難無く引っ張り出すフリをする。
そして、別のベレットの石も引っ張り出した。
今度は、少し苦労をする。
(これは…新しいの?)
と、思いながらも何とか外せた。
そして、最後であろう1匹は、特に苦労する。
引っ張り出せない。
カイトがそれに気付き
「俺がやろう」
と、葵に代わってベレットの額の石を取り出そうとする。
だが、中々外れない。
「どうした?」
そこにバッカがやってくる。
「…こいつの石が…」
と、葵が言おうとすると
「外れないのか?そりゃあ、またレアだな」
そう言ってから、ナイフを取り出す。
「どきな」
そうカイトに言う。
カイトは、不本意ながらもバッカに場所を譲る。
バッカは、器用にナイフで石と本体の境目に切れ目を入れてから、次に細くて短い平たい棒を取り出して、切れ目に差し入れてから梃子の原理のように棒を動かす。
すると、するり…と石は外れた。
バッカは、外れて石を見ながら
「よし、傷ついてないな」
と言ってから葵に渡す。
「これは、そんなにレアなのか?」
と聞くと
「あぁ、昨日今日生え替わったばかりの石だ。新しいから買い取り価格は高いと思うぜ」
そう言われて手元の石を見る。
「…だが、デュランが狩った獲物かもしれないがな」
ボソリと葵が言うと
「まぁ、その可能性はあるな。だが、売る時は一緒だ。売った後の合計をお前達の好きなように配分するといいさ」
そう言ってから、さっき使用した小道具をしまう。
「…そうだな。デュランと俺の狩った分で配分を決めるよ」
そう言ってから、石を腰に下げていた麻袋に入れる。
「どれをどっちが狩った…ってのを気になるなら、クリスタルに聞けば分かるが、そんな面倒な事は誰もしねぇよ。時間がかかるから別の連中が迷惑になんだ。ま、それでもやる連中もいるが、お前達もやるか?」
そのバッカの問いに、葵は少し考えていたが
「いや、必要ない」
カイトが即答した。
「配分は対等にする」
そう言い切るカイトに
「デュラン…しかし…」
葵が何か言おうとすると
「お前と俺は対等の立場だ。確かに腕は俺の方が上だが、戦闘以外の交渉等は、アオイに任せてある。それがあるから対等の立場だと思っている」
そう言ってから、回収した石を麻袋に入れた。
その何も言わせない空気感から、アオイは何も言わなかった。
だが、バッカはその2人の様子を見ながら
「お前らがそれで納得出来ているなら、いいんじゃないか?俺が口出すことじゃない」
そう言ってから
「群れはこっちの方だな」
と、歩き出す。
葵とカイトもそれに続いた。




