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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
一路、北へ…
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ランクアップの試験ーランチタイム中

しかし、ビルガ帝国に侵攻され、ヴィヴィアンが裏切り、今は逃亡中だ。


両親とベイト・ディインダは、シンフォニアの中で眠りについている。


シンフォニアが何を思って、ビルガ帝国の侵攻を許したのかは分からない。


だが、それが、民の安寧を誰よりも願うシンフォニアの意思だと言う事だけは分かっている。


今は、ただ与えられた試練を一つ一つクリアしていくしかない。


…そう思った。


そうやって考え事をしていると、料理が運ばれてくる。


何も考えずに手を合わせようとしたが、踏みとどまる。


食事の前に手を合わせる習性は、こっちの世界にはないからだ。


(おっと…危ない…危ない)


ラーラ麺というは、元の世界で言うライスヌードルのような感じだ。


だが、箸はない。


フォークとスプーンを使い、それを食べていくようだ。


スプーンは、れんげの役割を果たすのだろう。


(ここは、お上品に食べたらダメね)


自分は、今は貧乏な村出身の少年という肩書きを持つ。


所作一つで、どうバレるか分からない。


(よし!)


葵は、思い切って豪快に麺をすすった。


王族のレイラ姫としても、食べる作法にうるさい家庭で育った葵としても、考えられない行動だ。


(…ふ、不自然じゃ無いかな)


不安になって、2人を見ると、驚いている。


特にカイトの驚き様は、動きが止まっている程だ。


「な…なんだよ?」


葵が、背中に変な汗をたらしながら言う。


(やばいやばい。不自然だったかな?)


「いや…腹減っていたんだな。そんなに豪快に食べるなんてさ。まぁ、育ち盛りの少年だしな、お前は。それくらい仕方ないか」


バッカはそう言うが、カイトは何か言いたげである。


葵は、バッカに気付かれないようにカイトに目配せをしてから


「まぁな。俺の家じゃこんなんだぜ。農作業で忙しいからな。飯なんて食べている間も惜しいくらにな」


そう言って、野菜とホロ帳の切り身を口に頬張る。


(慣れない食べ方するの…疲れる)


そう思いながらも、自分の前に並べられたボークボアステーキ小…昨日食べた量の半分より少なめだが…を見る。


「遠慮なく食えよ」


食べていいか悩んでいる葵の気持ちを察したのかバッカが言う。


「お、おう…」


アオイは、その好意に甘え、ステーキを頬張る。


(やっぱ、美味い!!!…でも胃がもたれそうだな。だから、少量なのね)


と、何か納得したようだ。


「やっぱ、ボークボアは美味えな」


肉を頬張りながら言うと


「そんなに慌てなくても、肉は逃げねぇよ」


バッカが呆れたように言う。


カイトは、何も言わずに黙々と野菜スティックを食べていた。


言いたい事は理解出来る。


一国の姫という立場にある者が、あのような食べ方をしたのだ。


(後で、何か言われそうだな)


葵は思ったが、その行動自体に後悔はない。


今は、【姫】ではない。


ただの【冒険者】、それも少年なのだ。


それなりの作法というモノがある…と思う。


周囲に気取られないように、そう特に近くにいるバッカに気付かれてはならないのだ。


作法も知らない少年…それが今の葵なのだから。


「その豪快な食べっぷりに免じて、これやるよ」


そう言ってバッカは、蒸し容器に入っていたボークボアの蒸したものの一欠片を葵のステーキの皿に置く。


「え?」


葵が驚いていると


「腹、減っているんだろ?それに、昼からはお前さんメインだからな。依頼を達成出来るように、俺からのささやかな贈り物だ」


バッカは、そう言って他の肉や野菜をタレに漬けてから口にする。


「いい感じに蒸されているな」


感想を言い、次々と口に入れていく。


「でも、ステーキも…」


と、葵が何か言いそうになると


「それはそれ、これはこれだ」


バッカは食べながら、そう言った。


カイトは、黙々と食べているだけだ。


余計な事を口にしないように、彼なりに配慮しているのかもしれない。


ラーラ麺をすすり、肉を頬張り、完食した後


「あー食った、食った」


と、それらしくお腹をさする。


正直、食べ過ぎ感は否めない部分はあるが…


(レイラ姫は、小食だったのかもしれない)


そう思いながら、2人を見ると、ちょうど2人も食べ終えたようだ。


「じゃ、狩りに行くか」


そう言って葵が立ち上がろうとすると


「待てよ」


バッカが、その腕を掴んだ。


カイトの眉間に皺が寄る。


「食べてすぐ動いたら、もたれたり、戻したりするぜ」


そう言われて、葵は席に着く。


そう言われればそうだ。


葵自身も、両親からは食後に激しい稽古をするのは禁止されていた。


体によくないから、と言って。


「…ウォルの言う通りだな。どうやら俺は焦っていたようだ」


素直に反省を口にする。


バッカは、満足げに頷いて


「俺の師匠も言っていたからな。食後は、すこし体を休めて食べたもんを消化させる。これが基本、だってな」


そう言ってから、葵から手を離す。


カイトの眉間の皺も消えた。


バッカは、その様子に気付いているのかいないのかは分からないが、カイトをチラリと見て


「デュラン、昼からはアオイがメインだ。フェンダーベア以外の獲物に関しては、俺達で仕留めてアオイにはフェンダーベアに集中するって事にしたいのだが、お前はどう思う?」


そうカイトに問う。


カイトは、一瞬考えたりしてから


「…それでいい」


と、短く答えた。


どうやら、先程のアオイの作法やバッカがアオイの腕を掴んだ事が、未だにお気に召さないようだった。


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