ランクアップの試験ーアオイ編に行く前に…
続けて、買取場からのカードを翳して
「おー、イッカクボアの価格が高いのは珍しいですね。相当、上手に仕留めたんですね。それだけじゃなくて、ボークボアにレッドディア…結構仕留めてますね。さすが、デュランさん…と言ったところでしょうか」
感心しながらも、計算を進めていく。
「はい、ギルドカードです」
マーニャからギルドカードを返してもらうと、カイトはそれを懐にしまう。
「それでは、買取価格が銀貨5枚と銅貨37枚になります。これは、イッカクボアの状態が良かった事が反映していますね」
と言って、銀貨5枚と銅貨の入った袋を差し出す。
軍資金が多い程、助かる。
カイトは、それを受け取り
「…そうか」
短く、小さく答える。
マーニャは、ニッコリと笑い
「これで、デュランさんのEランクへの昇格が認められました。後は、アオイさんだけですね。頑張ってくださいね」
【あんまり期待してないけど】感は、出ている。
それも、仕方があるまい。
葵の実力は、本当にギリギリなのだろうだから。
それにフェンダーベアとの遭遇率は運任せに近い。
とにかく、数が少ないのだ。
(なんで、こんな希少魔物が対象なんだろう)
と、葵が多少不満げに思ったが口には出さない。
文句は言ってられない。
指定された魔物を狩るしかないのだ。
2人がギルドを出ると、タイミングよくバッカがやってくる。
「お陰様で潤ったぜ」
ご機嫌よく言うと
「…そうか、よかったな」
葵が答える。
「だが、ルートがルートだから、適正ルートに比べたら、若干安いけどな」
そう言ってお手上げのポーズを取る。
《それは仕方がないだろう》
2人とも、そう思ったけど口に出さないようにした。
これから、葵の方のランクアップが始まるのだ。
そっちの方に気を取られている。
ランクアップ対象の魔物は数が少ないのだ。
遭遇も運任せ。
多少なりも不安になるものである。
それを感じ取ったのか
「ま、イッカクボアより難しいかもしれねぇが、案外早く達成出来ると思うぜ」
しれっと言う。
「「え?」」
葵とカイトが同時に目を見開いていると
「数は少ないとはいえ、流石にいない魔物は指定してこねぇよ。ま、だいたいの群れの位置は知っているし、アオイという餌に釣られない魔物はいねぇよ。だから、大丈夫だろ」
そう言って、葵の肩をバシバシ叩く。
(…ちょっと、痛いんだけど)
率直に葵は、そう思ったが、それはバッカが葵を男だと思っているからであるという証明ととって黙ってそれを受け取る。
だが、カイトは眉を顰める。
彼からしたら、彼女は一国の姫君なのだ。
…中身は、違うだろうが。
それを、気軽に触れるどころか肩を叩くなど、あってはならない行為に当たる。
だが、葵が黙っているように、カイトもグッと堪える。
(今は、我慢の時だ…)
そう心に刻みながら…
「で?早速、出発か?」
バッカの問いに、葵は少し考えて
「…少し休むか。腹も減ったし」
と、答えた。
これには、カイトだけではない、バッカも驚いている。
てっきり、早速狩りに行こうとすると思っていたからだ。
驚いている2人を見てから
「さっきの疲れが、まだ取れてないからな。それに腹を空かせていては…大事な場面で力が入らない。そうなると達成出来るものも出来ない」
さも当然の如く言う。
「てっきり、早速行くと思っていたぜ」
バッカが、率直に言うと
「まぁ、ランクアップを焦る気持ちがないとは言えない。が、さっきの口ぶりじゃバッカは、フェンダーベアの大体の場所を把握している。闇雲に探し回らずに済む分、時間に余裕があるからな。何より、さっきも言った通り大事な場面で力が入らなければ元も子もない」
葵は答えてから、バスクベの方角に足を向ける。
1つの判断が、状況を左右する場合があり、この場合もそうである。
今は、急がなければならないのは分かっているが、こういう冷静に客観的に判断出来る事にカイトは正直驚いていた。
それは、レイラ姫が教育として施された戦術の成果なのか、元々葵が持つ能力なのかは分からないが、その判断力に驚かされる。
葵がスタスタ歩いている事に気付いたカイトは、急いで後を追う。
「これは…面白いねぇ…」
バッカは、小さく呟いた。
2人に聞こえない様に。
そして、2人の後を追うように駆けだす。
「おや?どうしたんだい?」
バスクベに到着すると受付にいた女将が、驚いたようにしている。
「今日の依頼は終わりかい?」
女将の言葉に首を横に振ってから
「いや、小休止だ。腹を満たしにきた」
葵が答えると
「あぁ、そうかい。今は、昼前だから、もう少ししたら混むから早く食堂行きな」
女将は、そう言ってから
「まぁ、昼前なのに、ひっかけるヤツはいるけどさ」
肩を透かして言う。
それもそうか…と納得して食堂に入ると、まばらだが客は入っている。
昼前から酒を煽っているいる者もいれば、ちょっと腹ごしらえの者もいる。
それに、お茶を前にまったりしている老人もいたりもした。
(ほんと、いろんな人がいるわね)
葵は、レイラ姫の知らない常識に驚かされながらも、どこの世界にも昼から飲んだくれている人間はいるもんだな…と世界は違えど変わらないモノもあるんだと実感する。




