ランクアップの試験ー魔物は待ってくれない
イッカクボアも、一番弱い葵に向かってくる。
カイトは、間に素早く入って、すれ違い様にイッカクボアを仕留めた。
そして、次に出てきたボークボア5匹を素早く仕留める。
「おいおい、アオイの鍛錬を邪魔したらマズいだろ」
バッカの指摘に、カイトはムッとは来たが
「…そうだな」
と言い、次に出てきたボークボア3匹のうち1匹をわざと葵の方へと逃がす。
葵は、グッと剣を握りボーグボアを仕留めた。
「力、入りすぎだぜ。それじゃ、体力が持たないぞ」
バッカの言葉に
「…分かっている」
葵は答えた。
バッカは、双剣を構えてから
「まずは…」
と言ってから、目の前に迫っているちょうど向かってきたボークボアを見据える。
そして、葵に向かってくるボークボア。
「今は、そいつ一匹みたいだから、攻撃を避ける練習をしてみな…ボークボアが複数なら出来ないが、一匹くらいなら楽勝だろ」
そういって、葵の方にわざと逃がす。
葵は、ボークボアの突進を寸前の所で避けた。
「余裕あったはずだぞ。相手の動きをよく見てみな。ボア系は動きが単純だから、突進のタイミングを間違えなければ、上手く躱せるはずだぜ」
そう言われて、葵は観察をする。
ボークボアは、突進してきてるがアオイの動きに合わせて微妙な軌道修正をしている。
(そうか、それを逆手にとって…)
と、すぐに出来るだけ動かずにボークボアの突進が寸前に迫るその瞬間に、スッと攻撃を躱す。
そして、急所と言える首に一撃入れた。
葵の力では、即死にはならないが、致命傷になったのは間違いない。
弱弱しく動くボークボアに留めの一撃を与える。
「息をつくのはまだだぜ!」
バッカの言葉の通り、今度はレッドディアが向かってくる。
葵は、向かい合いながら、右に左にとひらりひらりと跳ねながら突進してくるレッドディアの動きをよく見てみる。
昨日も感じていたが、この右に左に跳ねてハンターを混乱させてから、強い脚力で攻撃を加えるのである。
レッドディアは、草食系なので人間には興味がない。
ただ、人間はレッドディアを獲物としてロックオンしている。
だから、レッドディアは逃げているだけだ。
一度、逃したら逃げてしまうので、すれ違い様が勝負だ。
葵は剣を握って、レッドディアの急所である首筋を狙う。
目で動きを正確に追って、着地点を頭の中で計算。
どこですれ違うか…それを見据えてからタイミングを計る。
だが、レッドディアとて、大人しくやられる訳ではない。
強靭な脚を出し、進行の妨げになる葵に一撃を加えようと構えてきた。
(右…左…右…左…)
葵は目で追いながら
「ここだ!」
そう言ってから、レッドディアに向かって駆けだす。
レッドディアは着地をしたばかりだったが、強靭な脚力があるので、次のジャンプの態勢に入り、一瞬で葵に一撃を入れようと前脚を突き出した。
葵は、紙一重の寸前でそれを受け流し、すれ違い様にレッドディアに一撃を入れる。
そして、後ろに来ていた、別のレットディアが襲ってくる。
一瞬、動きが遅れた。
だが、そこはバッカが
【ザク…】
と一刀両断した。
「すまない…バッカ」
葵が礼を言うと
「俺は今、雇われの身だからな。お前に何かあったら報酬がもらえねぇ」
そう言ってから、湧いてくる魔物の群れに
「奴らは待ってはくれねぇからな。力を抜いて、確実に仕留めろ」
そう言ってから、やってきたボアラビットを鮮やかな剣捌きで仕留めていく。
さすが、実力がある奴…と感心している暇には葵にはない。
襲ってくる様々な魔物をカイトとバッカの助けを借りながら、出来る限り狩って行くしかできない。
もちろん、その中にもイッカクボアが数匹混ざっていたようなので、カイトの方にそれは流していく。
そうするうちに、魔物の襲来は、収まりをみせた。
「ふぅ…こんなもんか」
狩った魔物を見ながら、バッカが息をつく。
「さて、イッカクボアは何匹狩った?」
バッカの問いに
「12匹くらいだな」
カイトが答えると
「じゃあ、ランクアップ試験は合格って事だな。よかったじゃねぇか」
そういってカイトの肩を叩く。
「あぁ…そうだな」
だが、その表情は浮かない。
バッカは、葵を見て
「問題は、アオイの方だからな」
そう言うと、葵はグッと押し黙ってします。
先程のバッカの指摘通り、葵には実力がない。
魔法に関しては、Sランク級の魔獣でも対峙出来るだろうが、何せ慣れもしない剣なのだから、素人同然。
それで、ランクアップ試験受ける事等、本来無謀ではあるが…
実力を試すには一番の有効な方法だろう。
「とりあえず、ギルドに戻って、デュランのランクアップをしてこようか」
葵は、剣を鞘に収めながら
「デュラン…今回の狩りの成果だが、報酬としてバッカに渡したい。無論、デュランが止めを刺した分に関しては、クリスタルに出るだろうから、それはデュランの自由に使ってくれ。俺が今回狩った分は、バッカに譲るつもりだ」
そう言うと
「お…お前、何を…」
カイトが何か言おうとすると
「それが、約束だ。バッカも、これだけあれば十分だろう?」
それを遮って葵が言い、バッカに同意を求める。
「まぁ…いいぜ。なかなか面白くなってきたからな」
そう言って、双剣を鞘に収める。




