ランクアップの試験ー小休止中
「アオイ…アンタは、小手先の技とか魔法を使いながら支援するのが、一番しっくりとくる。だから、防御型のデュランでは系統が違うから訓練方法も違う。だから、上手く実力が上がらないんだ」
バッカの言葉に
「何を言う!…」
とカイトが反論を言おうとすると
「お前の師匠なら、俺の実力を上げられる…と?」
それを葵が遮断した。
肯定するように頷いたバッカは
「そうだ、俺の師匠は、どのタイプに対しても的確にアドバイスが出来る。世界中に多くの弟子を持っている方だからな。経験値が違うんだよ…もちろん、魔法に関しても知識が広い。お前にもし魔法の才があるならば開花できるかもな」
その言葉にドキリとする。
魔法に関しては、葵…レイラ姫の右に出る者など、ベイト・ディインダやレクスドール老くらいだろう、多分…
葵の中にあるレイラ姫の記憶では、そうである。
だが、レイラ姫は世間知らずだ。
レイラ姫の知らぬ、魔法の造詣者がいてもおかしくはない。
この世界は広いのだから。
どこに魔法の恩恵を強く受けている者がいてもおかしくはない。
バッカの師匠もその一人だろう。
葵は、バツが悪そうに
「悪いが、俺には魔法の才はないと思うぜ」
と、言う。
「何故?師匠は、この世界に何人もの弟子を持っている強者だぞ。見たところ…お前には魔法が…」
続きの言葉は葵に遮断される。
「残念だが、俺には魔法の才はない。いや…正確には初級の弱い魔法しか使えない可能性がある…くらいか」
そう言ってから
「せっかくだが、魔法に関しては俺の才能はないに近い。だから、剣で道を拓いていくしかないんだよ。まぁ、今の所はデュランに指導してもらっているし、俺はそれで満足している」
そう葵が言うが
「だが、あんたの成長速度は落ちると思うぜ。今の自分に合ってない鍛錬法では、実力が開花するまでに時間がかかりすぎるぞ」
と、痛い所をついてくるバッカに
「じゃあ、その師匠とやらは、どこにいるんだ?」
葵の問いに、バッカは押し黙る。
「え?」
少し戸惑う葵達に
「師匠は今、副業をしていてな。そっちの方で忙しい。…ていうか、俺ははぐれたんだけどな」
最後の方は胸を張っている。
「は?」
葵達は驚いていると
「実はな、ちょっと休憩していたら、仲間や師匠に置いて行かれたんだよ、俺」
「「へ?」」
バッカは、誤魔化し笑いを浮かべて
「ちょっと、休憩している間に、師匠と仲間たちは移動していてな。追いつこうとしたけど、手遅れで、途方に暮れていたところに、お前らに遭遇したんだ。危なかったぜ。美少女が襲われそうになっているんだもんな」
そう言って笑っているバッカに
「俺は、男だかな」
と、念押しして言う葵に
「あぁすまねぇ。最初は、か弱い美少女に見えたからよ。ま、それも幸運さ。ヤローなら、絶対に助けに入らねぇから、俺って」
しれっと言っている。
ぶっちゃけ、葵が女の子だからと思ったから助けただけで、男と分かっていたら助けなかったという事だ。
「…なるほどな。それはある意味幸運だと言えるな」
葵は、そう言うがカイトの方は、気が収まった訳ではない。先程のバッカの発言が気に入らなかったのだろう。
「わ…俺の何が悪い?アオイの指導をするのに力不足だというのか?」
納得出来ていないようだ。
(あまり、波風立てるな~~~!!!)
葵は、話題を逸らし、なんとなく場を収めたと思っていたのだが…
カイトの言葉で、話題は元の位置に戻った形となった。
バッカは、冷静な視線をカイトに向けて
「確かに、デュランは優秀な戦士だ。だが、防御型に特化しすぎて他の系統が逆に指導は難しい。特にアオイは支援型としては恐らく優秀だ。それを生かしてやるには、俺でもお前でもない、俺の師匠が合っていると言っているだけだ。別にお前を否定したわけではない。お前は、アオイの基礎体力や基本的な剣の捌き方を向上させるために、もっとも無駄のない指導をしているしな」
そう言われると、少し黙るカイト。
「ただ、このままの指導では、アオイは実力を発揮できないとは思う。これは現実だ」
きっぱりとした口調で言うバッカに対して
「…それは、認めざるを得ないが…だが…」
カイトは、苦悶の表情を浮かべる。
それに対いてバッカは
「何も難しく考える事じゃないだろ?俺の師匠を捕まえればいいだけの話だ」
あっけらかんと言う。
「いや…でも…」
それでも、迷っているカイトに
「で、その師匠とやらがどこにいるのか分かっているのか?」
もっともらしい事を葵は聞く。
少しの沈黙…
「…う~ん、俺下っ端だから、師匠が受けていた仕事の内容知らないからさ。今、師匠が何処にいるかは把握出来ないんだよね」
そう答えたバッカに
「「はぁ?」」
と、葵とカイトが口をそろえて叫んだ。
「お前…じゃあ、なんで…師匠の事を話すんだ?」
カイトが頭を抱えながら聞くと
「え?思った事を口に出しただけだけど?」
と、答えるバッカ。
「居場所分からないなら、そんな事言うなよ…」
葵が、呆れたように言うと
「…大丈夫。近いうち会えるよ」
バッカは自信たっぷりに言いきった。
「え…?」
驚いた表情を浮かべている葵とカイトに
「俺の勘だと、もうすぐ会える気がするんだ。当たるんだぜ、俺の勘」
そう言って、バッカはニヤリと笑った。




