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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
一路、北へ…
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お宿バスクベで…

だが、クスリと笑ってから


「ま、せっかくのマーニャの口利きだ。あんたらいい面してるからね。ちょいとばかりサービスさせてもらうよ」


女将は、そう言ってから

「サービスって言っても、食事を一品増やすくらいしか出来ないがね。うちの料理人は、一流料理店で修業していた事もあって自慢の料理だから安心しておくれ」


宿帳を見て


「アオイって言うのかい?あんた…」


と、葵をジッと見る。


「よく間違えられるが、男だ」


そう言って、ギルドカードを出す。


「こりゃすまないね。可愛らしい顔しているからてっきり女の子かと思ったよ。とりあえず3階の部屋が空いているから、そこでいいかい?」


という女将の問いに


「構わない」


葵はそう答える。


「俺も構わないぜ」


バッカもそう答えた。


返事を聞くと、女将は台帳を取り出して


「ここに名前、書いてもらえるかい?」


そう言って、ペンを差し出す。


葵はそれを受け取り


「先に書くかい?」


とバッカに問うが


「あんたらが先でいいぜ」


そうバッカは答える。


葵は、台帳にサラサラと名前を2人分書く。


「へぇ…アオイ・シイナって言うんだな」


台帳を横から覗き込んでいるバッカが言う


「苗字があるとかめずらしいか?あんたにもあるだろ?」


葵が疑問を口にすると


「俺の家は昔、それなりの家だったのさ。いろいろあって落ちぶれたらしいがな。あんたもその口かい?」


「いや、俺の所は分からない。先祖が昔…なんかあったぐらいしか知らないんだ」


そう言って肩をすくめる葵。


「…へぇ、そうかい」


「はい、あんたの番だ」


そう言って葵は、バッカにペンを渡す。


それを受け取ったバッカは、台帳に名前の記帳をする。


だが、偽名らしく『バッカ・ドルガ』ではなく、『ウォル・エバンズ』と書いていた。


それを見た葵は、瞬時に状況を理解して


「じゃあ、ウォル、一旦部屋に行ってから、食堂に集合でどうだ?その時に礼を渡す」


そう言うと、バッカは少し目を見開いて


「…あぁ、そうしてくれると助かる」


そう答えた。


「ほい、部屋のカギだよ」


女将から部屋のカギを受け取り、3階へと上り、それぞれの部屋に入る。


部屋に入るなり、カイトはベッドに座り


「…アオイ、私は奴を信用出来ない」


そう言うカイトの言葉に


「何故?」


と問う葵。


「偽名を使うなんて怪しすぎる。そもそも何故、それに乗っかって《ウォル》と呼んだんだ?」


そのカイトの問いに


「…彼は盗賊です。本名を晒す訳にはいかないでしょう?むろん、私達に名乗っている『バッカ・ドルガ』が本名とは限りません。それも偽名の可能性だって否定できない。今は、彼のそれに乗るのが得策だと考えました。無論、カイトさんに異論があるのは分かっています。彼を信用していないのは私も同じです。ですが、今は事を荒立てる訳にはいきません。私が未熟なままでは…」


そう言って、拳を握りしめる。


カイトはバツが悪そうに


「…そう…だな。今は、事を荒立てる時ではない。すまなかった。アオイの心情を考えてやれなくて。どうやら、私は焦っているようだ」


そう言ってから


「早く、姫に会いたい気持ちが先走りすぎて、物事が見えずにいたようだ」


カイトのその言葉は、葵の心にチクリと針を落とした。


その理由を葵は分からない。


だが、葵はそれに目を向けなかった。


考えても仕方ないと思ったからだ。


一息だけついてから


「それでは、食堂に行きましょう。向こうはもう、行っているかもしれませんし」


そう言って、カイトを促す。


「分かった」


そう返事してから、葵に続くようにカイトも立ち上がる。


ドアを開けて部屋から出ようとすると、ちょうど隣のドアを開いた。


「今からかい?」


そう問うバッカに対して


「あぁ、今からだ。礼も用意してある」


葵が答えると


「今日は、ご馳走にありつけそうだ」


バッカは、そう言ってから階段に向かう。


それに続く葵とカイト。


食堂は、食事のピーク時なのか、たくさんの客で賑わっている。


いい感じに酔っている男共もいるようだ。


「「「いえ~~~い!!」」」


と、グラスで乾杯していい感じに飲んでいる。


3人は、適当な席を見つけると座ってから


「…まずは礼からだな」


葵が言うと、麻袋を差し出す。


それを受け取ったバッカは、懐にしまい込む。


「確認しないのか?」


葵が問うと


「確認の必要はないさ」


そう答える。


「信用…されている?…訳ではないだろう?」


そうもう一度問うと


「まぁな」


短く答えた。


そして、続けて


「だが、今回の事に関しては、信用するしかないさ。だいたいここで確認してみろ。どんな事になるか予想は出来るじゃねえか?」


そう言われて、葵は納得した。


確かに銅貨50枚なんぞ出したら、騒ぎになるどころかバッカの身も危ないし、下手したら葵達にも危害が加わる可能性がある。


それを踏まえると、その判断は適切だ。


「じゃ、ごちそうでもいただきましょうかね」


そう言ってから、バッカは手を挙げて


「メニュー表くれ」


とウエイトレスらしき女性に声をかける。


「はぁ~い」


女性は答えてから、葵達のテーブルまでやってきて、そして葵をじーっと見る。


「あなたが、女の子みたいな顔をした男の子ね」


と、ぶしつけに言う。



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