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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
一路、北へ…
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援護の策略と宿バスクベ

荷車が収納されていくのを確認してから、バッカは翳していた手を降ろす。


「じゃあ、宿に行こうか」


そう言って歩き出すバッカ。


「場所は…知っているのか…?」


という葵の問いに


「もちろんだ」


そう答えてから


「この辺を根城にしているからな」


と言って、先を歩き出す。


先程のやり取りもあり、それに納得したので後に続く葵とカイト。


その3人の動向を見つめている視線に、気付いていてはいない。




『バッカ・ドルダ…ねぇ…』


その一言に


首領(ボス)、大丈夫でしょうか?』


誰かが心配そうに言うと


『大丈夫だ。私達がフォローに回る』


『しかし…』


『何かあれば、介入をしなければならない。だが、それは今ではないだろう』


首領(ボス)と呼ばれた男は、そう言ってから


『今まで以上に監視は怠るな。それと連絡手段を確保しろ。早急にな』


と指示を出す。


だが、それが分かっていた様子の部下の一人が


『確保しております』


と答えると


『手際がいいな』


首領(ボス)と呼ばれた男は、少し驚いた様子。


『何年、首領(ボス)の下で任務遂行していると思うんです?それくらいは、予想つきますよ』


と、自信満々に言うが


『…いざという時の対処は?』


首領(ボス)の一言に


『あ…』


言葉を詰まらせる。


『詰めが甘いな』


首領(ボス)と呼ばれる男は、ため息交じりに小さく呟いて後


『…まぁいい。いざという時に介入しやすいように、入念に打ち合わせはしておけ。全員にだ』


そう指示を出す。


『了解しました、首領(ボス)


答えた後、指示を実行しようと動こうとする部下に


『あとは、ビルド帝国の動向だが…』


その問いに


『今は、国境近くまで迫ってますね…ヴィヴィアン殿は優秀な魔法使いですから、当然なのですが…』


『…そうか』


部下の回答に少し考える首領(ボス)と呼ばれる男。


『どうかしました?』


『少し攪乱をかけるか…ヴィヴィアン殿相手にどこまで通用するか分からないが…』


『…何故?…あぁ…』


部下は納得したようだ。


『追手が近すぎる。このままでは、追いつかれるのも時間の問題かもしれん。姫様の成長を焦れば、全てが無駄になる。姫様が成長される時間を稼がないとならない』


そう言ってから、魔法で地図を展開する。


『国境の手前とバースの森のいくつかに、錯乱部隊を送ろう。国境の兵にも、国境手前で、2人を目撃したという情報を流せ』


そう指示を出すと


『それで大丈夫でしょうか?』


部下の不安げな声に


『これでは足りないと思うか…?』


『ビルガ帝国は、誤魔化しが効くかもしれませんが、相手はヴィヴィアン殿です。彼女は探索系に関しては右に出る者はいませんし、何よりも賢者レクスドールの孫です。賢い彼女が騙されるとは思えません』


『…確かに…それもそうだな』


首領(ボス)と呼ばれる男は少し考えて


『…私が出向こう。姫の魔法の波動を真似て魔法を使えば、それが攪乱になるやもしれん。賢い彼女が騙される可能性は低いが、それに賭けてみよう』


そう言ってから部下に


『その間、姫様達の事はお前達に任せる。こう申し上げたらならんと分かっているが、危険が迫った場合は、バステノス次期子爵を切り捨てても、姫様の安全の確保を優先しろ。責任は私が取る』


と、言うと


『あとで、姫様に恨まれますよ…それでも?』


『…それでもだ。我々の任務は姫様の安全の確保にある。全員に通達しておけ』


そう言うと、首領(ボス)と呼ばれた男は転移魔法を展開し、消えていく。


残された者達は、少しの沈黙の後


首領(ボス)の命令です。各自、姫様の安全を一番に置いて、街に散らばってください。姫様がお困りのようなら、さりげなく手助けするのを忘れないでください。すでに街に潜入している者達にも通達してください』


そう言うと


『分かりました、副官』


返事をして、そこにいた者達は、散り散りになる。


残された一人は


『…上手くいけばいいけど』


不安げに呟いた。




宿バスクベは、思いの外遠くではなかった。


《カラン…》


入り口のドアを開けて中に入ると


「いらっしゃい!」


受付には、女将らしき中年の女性が笑顔で迎える。


葵達はカウンターに向かい


「宿を取りたいのだかが…」


というと、女将は3人をジッと見て


「宿泊は3人かい?」


と尋ねる。


すると、バッカが


「俺は、こいつらとは別口だ。別の部屋を頼む」


そういうと、女将は


「はいはい…じゃあ二部屋用意させてもらうよ。代金は、一部屋で銅貨5枚になるが…あんた大丈夫かい?」


バッカに向かって聞く。


どうやら、この宿は一部屋単位らしい。


「問題ない」


バッカが答えると


「代金は、前払いだよ」


女将がそう言ってから、宿帳を取り出す。


葵が宿帳に記入しながら


「食事は、ここで済ませられるか?」


そう聞くと


「ああ、奥で済ませられるよ」


「あと、ギルドのマーニャが、自分の紹介だと言ってくれと言われたのだが…」


葵の言葉に、女将は目を丸くして


「…まったく、あの子は、禁則事項だというのに」


と、嬉しそうに苦笑する。


「ダメなのか?」


葵が問うと


「ギルドの決まりさ。この街…というよりこの国かね。グルゴ山脈からの恩恵で水質や食べ物が美味いから、旅人が多いのさ。それで宿も多い。だから、ギルドや商店での宿の紹介は、基本は禁止している。だが、罰則がないからね。こうやって、贔屓の宿を紹介する者は、それなりにいるってわけさ」


そう言って女将は、肩をすくめる。


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