狩りの報酬と借りの報酬
そして、表通りにあるギルド会館に入り、依頼達成の手続きに入る。
受付嬢は、買取場からのカードをクリスタルに翳して
「すみません、お二人のカードを翳していただけませんか?」
と、言ってきたので、2人は慌てて懐からカードを取り出す。
クリスタルに翳すと、クリスタルからスクロールのように文字が出てくる。
「なるほど…結構狩ってますね…、バオラビット122匹、ボークボア12匹、…レッドディアが4匹…これが狩りの成果ですね、依頼はボークボアの討伐だったので報酬は銅貨24枚になりますね。あと…買取分ですね。ボークボアとレッドディアの状態がよかったんですね。すべて合わせますと、買取金額が銀貨1枚銅貨3枚ですね。どうします?銀貨は銅貨に交換しておきましょうか?」
受付嬢が聞くと、葵は少し考える。
バッカへの返礼を考えると銀貨より銅貨の方がいいだろう。
「じゃあ、銅貨で頼む」
と答える。
受付嬢は、淡々と手続きをして
「では、銅貨103枚ですね」
と、お金を葵に渡す。
クリスタルをじーっとみていた受付嬢は
「あと少しで、Eランクに上がれそうですね」
そう唐突に言う。
「え?」
カイトと葵がびっくりしていると
「結構、狩りの実績が高い方なので、Eランクも受けても大丈夫じゃないかと言う判断でしょうね」
と言った後
「よかったですね~」
呑気そうに笑顔を浮かべる。
「そうか…ありがとう」
と頭を下げてから、ギルドカードを回収して
「じゃあ、あと少し狩りと実績を上げたらランクが上がってEランクの依頼が受けられるようになるんだな?」
葵が受付嬢に問うと
「受けてもいいですけど、アオイさんはソロでは向きませんね。あくまでデュランさんとのパーティーを組んだ状態で受けた方がいいです」
笑顔で受付嬢は答える。
それが現実である。
葵の見た目は弱そうだし、実際には剣術の腕は強くない。
分かっている事なので、気にはしていないつもりだが実際言われると、結構くるものがあるものである。
「…そうだな。ありがとう」
受付嬢に礼を言うと
「どういたしまして」
笑顔で答える。
「じゃあ、今日はもう依頼は受けられないだろうから、宿を探したいのだが、どこか安くていい宿はないだろうか?」
葵がそう聞くと、受付嬢は少し考えるようにして
「…そうですね。宿は少なくないですからねぇ。まぁ、初心者の方でも安心して泊まれるとことなりますと…大通りの北側にある《宿バスクベ》でしょうかね」
そう言ってから、こそっと
「本当は紹介とかは規律違反になりますから、内緒ですよ」
と、茶目っ気っぽくウインクする。
「…ああ、分かった」
あまり近づかれると女だとバレたら困るので、驚きながらも返事する。
「あなたたちカッコいいし、あそこの宿は幼馴染の一家が経営していますから、ギルドのマーニャからの紹介だと言えば、こっそりサービスしてくれるかもしれませんよ」
どうやら受付嬢の名前はマーニャというらしい。
葵は、困惑気味ながらも
「助かるよ」
そう言って、カウンターから離れる。
「また来てくださいね~」
機嫌よく手を振る受付嬢…いや、マーニャに見送られながら、ギルド会館を出る。
少し離れた場所で、バッカが手を挙げる。
葵達が駆け寄ると
「どうだった?」
「何とかな。報酬と買取で、それなりに…で、礼の件だか…」
葵が財布代わりの麻袋を出すと
「銀貨一枚…」
バッカの言葉に、カイトが何か言おうとするが
「…と言いたいところだが、おそらく報酬でそれくらいだろうから銅貨50枚にしといてやるよ」
バッカがそれを遮り言う。
カイトは、それでも不満そうに何か言おうとしたが、葵が手で制し
「それでいいんだな?」
と確認する。
バッカは肩をすくめて
「あんたら初心者冒険者から、荒稼ぎする程は落ちぶれてはいないさ」
と言ったが
「…50枚でも十分荒稼ぎだろうが」
ボソッと小さくカイトが呟いた。
バッカは、聞こえないフリをして
「さて、宿はどうする?そこで受け渡ししたいんだが」
そういうと、葵は
「あぁ、大通りの北側に《バスクベ》という宿があるらしい。そこで、礼金を渡すが、いいか?」
そう問うと、バッカは
「いいぜ。その宿なら安心だな」
その答えに、葵は少し驚いて
「知っているのか?」
と、聞くとバッカは、少し肩を竦めて
「まぁな…いろいろ情報網があるからよ」
これ以上は詮索するな…と言いたげだ。
葵達としても、詮索されて困る部分はあるので、そこは詮索せずに
「じゃあ、行こうか…」
と言いかけてから
「まずは、荷車をどうにかしようか」
そういって、カイトの引いている荷車を見る。
バッカは、クイっと親指を立てながら裏通りを指差して
「じゃあ、さっきの裏通りに行こうか」
そう言って、先に歩き出す。
葵はカイトと目を合わせてから、頷いてその後に続く。
その後ろをカイトが続いた。
先程の裏通りに着くと、カイトが荷車から離れたのを確認してから
「じゃあ、収納するから離れてくれ」
そう言って手を翳す。
魔法陣が展開されてから荷車を包み込み、魔方陣の中に荷車は吸い込まれていった。




