オリンズ…ギルド会館にて
バッカは、それをチラリと見て
「ああ、これは、人目の着かない場所で収納するさ。お前ら、ちゃんとついてこいよ」
そう言って、ギルド会館の近くの裏路地に入る。
ちょうどよく人目がない。
そこで、素早く荷を降ろし収納する。
鮮やかなくらいの手際のよさ。
だが、葵は納得していた。
いつも、この辺を縄張りしているんだろう、と思っていたからだ。
収納を済ませたバッカは
「さ、行こうぜ」
と、ギルド会館の方に足を向ける。
その後を追う葵達。
「じゃ、入るぜ」
バッカの言葉に
「え?入れるのか?」
葵は疑問を口にする。
すると、バッカはムッとしたような表情になり
「おい…入るのは自由だから、入れるんだよ。だが…問題起こせば叩き出されるし、あれ見てみな…」
と、入り口にある赤いクリスタルを指さす。
「問題を起こしたヤツは、あれが反応して、職員に速攻で追い出されるって訳だ。防犯装置兼飾りって訳だな」
そう言って、肩をすくめる。
「…へえ、あのクリスタルにはそんな性能が」
感心したように葵が言うと
「行こうぜ。早く礼をもらって、一杯引っかけたいからよ」
と、バッカは中に入っていく。
クリスタルは反応しない。
どうやら、彼は問題を起こしたことはないらしい。
「…デュラン、とりあえず荷物を見ていてもらえないか」
リアカーを引いているカイトに向かって葵が言うと
「え?だが…」
「大丈夫だ。問題を起こすようなヤツは叩き出される仕組みだし、第一そんな大荷物中に入れるはずもないだろう?一応、受付に聞いてくるから、デュランは外で待っててくれ」
という葵の言葉に
「しかし…」
食い下がろうとするカイトだったが
「すぐに戻る」
そう言って、葵は中に入っていった。
カイトは、納得出来ないが大人しくそこで待つ事にした。
ギルド会館の中は、相変わらずの盛況ぶりであった。
葵は、人混みをくぐり抜けて受け付けカウンターに辿り着く。
「すまないが…」
葵が受付のお姉さんに声をかけると
「何でしょう?」
営業スマイルのお姉さんが答える。
「依頼達成したんだが…」
「では、ギルドカードをお出しください」
「いや…獲物の買い取りもお願いしたいのだが…」
葵の言葉に
「ああ、買い取りですね?それでしたら、この番号札を持って裏に回ってください。後、依頼達成の手続きを…」
マニュアル通りに答えるお姉さんに対して
「いや、2人で依頼を受けたから。ツレは今、獲物を見ている」
そう説明すると
「…なるほど、なるほど。獲物の持ち込みは初めてで?」
「ああ、そうだ」
「そうですか…でしたら、まずは裏に回っていただきまして、裏の受付で討伐した獲物の確認書を出してもらってください。それを持って、こちらにもう一度来ていただけましたら、依頼完了の手続きをさせていただきますね」
笑顔で教えてくれるお姉さんに
「ありがとう」
短く礼を言った葵は、そのままカウンターを離れる。
再び人混みをくぐり抜けて、外に出た。
「大丈夫か?」
心配そうに聞いてきたカイトに対して
「大丈夫だ」
そう答えた葵は
「デュラン、それは裏の方に持って行くらしい」
と、荷車を指さす。
「そうか…わかった」
そう答えて、カイトは荷車の取っ手を持つ。
「じゃ行こうか」
カイトが言うと、葵は頷いて裏の方に進んでいく。
ギルド会館が広いので、裏に行くまでに多少時間がかかったが裏の方では、数人の行列があった。
「少し並んでいるな」
カイトがボソリと呟くと
「そうですね…ですが並ぶしかないでしょう」
そう答えて、列に並ぶ。
「お、お前らこれだけ狩ったのか?」
前に並んでいた冒険者らしき男が聞く。
「ああ…まぁな」
いつも通り葵が答えると
「ふう…ん、そっちの兄ちゃんはともかく、お前弱そうじゃねぇか?本当にお前、狩ったのか?」
と疑いの目を向けてくる。
「…数は少ないけどな」
葵が答えると
「ま、検品する時にバレるから、本当か嘘かはわかるけどな」
そう言って、検品所をチラリと見る。
「分かるのか?」
葵の問いに
「ああ、この世界はシンフォニアが見守っているからな。虚偽の報告をやらかしたら、即刻あのクリスタルで分かるって寸法だ。まさかお前、虚偽の報告をするつもりじゃねぇだろうな?」
再び疑いの眼差し。
葵は、首を横に振り
「…まさか。俺達、田舎から出てきて間もないからな」
そう弁明するように言うと
「ほう…どの村だ?」
「…ゲノベ村だ」
葵の答えに、男は顔を顰める。
「ゲノベ?…聞いた事ないな」
「フィアントの端にある村だよ」
葵の答えに、ピンときた男は
「…ああ、フィアントは、あんな状態だからな。こっちに移住してきたって訳だ」
そう言って納得する。
「まぁな」
そう答えると少し前に進む。
「そっちの兄ちゃんもか?」
男の問いに
「こいつの別の村だ。フィアントの森を彷徨っていた時に助けてもらってな。腕が立つから一緒に旅をする事にしたんだよ。こいつ、口下手だからよ。まぁ、俺は見ての通り腕は劣るが口だけは達者だからな。お互い共存関係って訳だ」
そう言って肩をすくめる葵。
それを信じたのか
「なるほどな」
男は、納得したようだ。
(…よかった。なんとか誤魔化せた)
背中に冷や汗が、滝のように流れていた葵だった。




