バースの森、交渉成立
「…すまない。今、持ち合わせがない」
と、葵が言うと
「は?」
彼は不機嫌そうになり
「なんだよ?金も持ってないのか?」
そう言うと
「すまない。何せ、この国に入ったのが昨日でな…冒険者として駆け出しだから、金もない」
葵がそう言うと、彼は不審そうに葵を見て
「ふうん…」
納得いかないようにしていたが
「だが、礼はする。ボークボアを狩った数だけ報酬がもらえる。あんたが狩った分はカウント出来ないが、俺達が狩った分はカウントされる。それで、支払う…それでどうだ?」
相手に礼を尽くすように言う葵だったが
「…信用できねぇな」
彼が言った。
「何!貴様…!」
何か言おうとするカイト制してから
「あんたが信じられないのも分かる。だが、ここは俺達を信用してもらうしかない。礼が欲しいのだろう?ならば、とりあえずオリンズで換金するのを待ってもらえないか?」
葵が彼に提案する。
彼は、葵をジッと見つめ
「…ま、あんたは嘘をついていないようだ。…信用してやるよ」
その言葉に胸を撫で下ろす。
「だが、俺もオリンズに一緒に行く。それでいいな?」
彼の言葉に
「え?」
と、少し驚く。
「ん?」
思わず出た声に彼は、顔を顰める。
「いや、あんたの言うとおりだな。一緒に行こう」
葵は、誤魔化すように、彼の提案を受け入れる。
「お、おい…」
と、カイトが葵に声をかける。
「…仕方ないだろう?彼が俺達を信用出来てないのは分かる。だから、一緒にオリンズまで行ってもらうしかないんだ」
そうカイトに言う葵。
「しかし…」
何か言おうとするカイトに
「デュラン、これは俺達の…いや、俺の力不足が招いた事態だ。すまないと思うが付き合ってくれ」
葵は頭を下げた。
カイトは納得いかないようにしていたが
「…分かった」
と答えた。
それを見ていた彼は
「…主導権は、あんたが握っているようだな」
そう葵に言ってから
「俺は、バッカ・ドルダ。見ての通り、盗賊だ」
「「え?」」
驚く2人に、バッカは身分証を取り出して
「見ろよ…俺は、犯罪歴がある。仕方ない事情があるとはいえ、犯罪は犯罪。それを許してはくれない世界だからな。俺は、盗賊になるしかなかった。だが、俺は悪どい奴らからしか盗みは働かない。ま、それを許す世界ではないからな。腕があろうとも、俺は冒険者にはなれないんだよ」
悔しそうに言うバッカに
「…そうだな」
葵は同意したが、頭の固いカイトは
「アオイ、こいつと行くのは反対だ」
と小さな声で葵に言う。
葵は、カイトをチラリと見て
「仕方ないだろう?俺は彼に助けられた。それは紛れもない事実だ。だから、彼と共にオリンズまで行くのは当たり前だと思っている」
「…だが!」
「デュラン、俺達は波風を立てないように行動しなければならない。ここで彼と揉めれば、確実に目立つ。…分かるだろう?」
葵の言葉に、ぐっと言葉も出ないカイト。
「…バッカだったな?俺達はオリンズに戻るが、あんたも一緒に行くんだろ?」
そうバッカに聞く。
「そのつもりだが、そっちの兄ちゃんはいいのか?」
そう言ってカイトを指さす。
「構わない。だが…」
そう言って、魔物の死骸達を見つめ
「これ、なんとか運べないかな。バオ・ラビットやシャウト・ベアはともかく、ボークボアは、美味で高く売れると聞いたが…」
葵がそう言うと
「俺、一応、収納魔法使えるぜ」
そう言って魔方陣を展開させる。
「え?あんた、魔法使えるの?」
葵の問いに
「一応な。俺には師匠がいてな、その人から一通りは習っている」
そう言ってから、ボークボアの死骸を手際よく収納していく。
「…助かる」
葵は、そう言ってから
「バオ・ラビットとシャウト・ベアは、儲からないのか?」
とバッカに尋ねる。
「ボークボアに比べると、肉は不味いし、材料としてもあまり…な。ま、シャウト・ベアは北のヒルダガルデの連中には重宝されてるぜ。毛皮の保温性は一級だからな」
そう言って、シャウト・ベアも収納する。
「…おい」
葵が声をかけると
「俺にも独自のルートで売り捌くからよ。あんたらが狩った分は、とりあえず俺が預かっとくわ。物質ってやつだな」
バッカは、そう言ってから収納魔法の魔方陣を閉じた。
「…そんなに高いのかよ。ボークボアって」
葵が言うと
「狩りの報酬より、高いかもな。質がよければいい程、こいつは高い値段で取引される。オリンズの名物料理だからな」
そう答えて、バッカは
「さて…オリンズに行こうぜ」
そう言って歩き出す。
「だが…」
そこでようやくカイトが口を開く。
「オリンズの入り口で、お前引っかからないのか?」
疑問を口に出す。
それは、葵も気にはしていた。
あまり目立たない行動を取りたい2人にとって盗賊である彼と門で揉めるのは困るのだ。
「それは、大丈夫だ」
そう言ってから、再び身分証を出す。
それは、別の身分証だった。
「それは…詐欺じゃ…」
と、カイトは言いかけたが
「そうか…大丈夫なんだな?」
葵は、彼に確認を取るように聞く。
「ああ…これで引っかかった事はない」
自信満々に答えるバッカ。
「そうか…それはありがたい」
引こうとした葵に対して
「いや…詐欺だろ…」
納得出来ないカイトが言った。




