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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
一路、北へ…
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首都オリンズ入り

「…冒険者か。最近、多いな」


門番が葵達の出したギルドカードを見ながら言う。


ここまでで分かった事だが、数秒くらいなら他の者が触っても白くはならないようだ。


それでも、白くなりかけたカードを門番は2人に返す。


「多いのかい?」


葵が、いつのものように声を低くしながら聞くと、門番は肩をすくめて


「ああ。隣の国が物騒になったからな。うちの国に流れてくるモンが多いんだよ」


そう答える。


だが、すぐに


「だが、うちの国もいつ攻め込まれるか分からないからな。冒険者はいいよな。そうなったら次の国を目指せばいいからな。俺達は、攻め込まれたらアウト。連中の言う事を聞かないとならん」

険しい顔つきで、小声で言う。


「…これも、連中の好き勝手を許したフィアントのお偉いさんのせいだ。関係のない俺らまで巻き込むなっての」


不満げに言う門番に、葵は苦笑するしかなかった。


その表情を、どう捉えたのかは分からないが


「すまねぇな。見ず知らずのモンに、こんな事をボヤいて。ま、ようこそ首都オリンズへ。ここは、湖に囲まれた街だ。グルゴ山脈からの恩恵である水だけじゃねえ、食べ物のうめぇ街だから、ゆっくりしていきな」


そう言って、中に入るように促す。


ちなみに、カイトはカツラを装着済みだ。


「ありがとよ」


葵はそう言うと、カイトを促して中に入っていく。


街の中に入ると、外の殺伐とした雰囲気とは違い、活気があった。


歩く住民達の表情も明るい。


だが、それはボイテイの街に比べてだった。


確かに住民の表情は明るいが、どこか不安も漂わせている。


今の状況は住民も分かっている。


フィアント公国の次は、ツォンズ王国だと言うのは何も知らされてない住民でも分かる。


分からないのは、政治等がまだ理解出来てない子供ぐらいだろう。


笑顔で会話をしながらも、時々その表情は暗みが差す。


いつ、ビルガ帝国が攻めてくるか分からない。


フィアント公国…いや、シンフォニアが手中にある以上、逆らえない。


それが、シンフォニアが持つ影響力だ。


世界の安定を見守る樹…それがシンフォニアなのだから。


だが、分からない。


安定を見守る存在であるシンフォニアが、なぜビルガ帝国の侵入を許したのか?


紛争などの不安定要素をもたらすビルガ帝国を、安定をもたらすシンフォニアが沈黙を以て受け入れたのか…


分からないから、住民達の心は不安が広がっていた。


真実の部分は、誰も知らない。


知らされていない。


フィアント公国で何があって、どのような状況なのかオープンにされていない今、そこにある情報を頼りに推測するしかない。


それが、ビルガ帝国に都合よくねじ曲げられた事実であろうとも。


その空気がひしひしと伝わってくる大通りを歩む。


周囲に警戒をしながら…


どこから何が漏れるかは分からない。


いつ、自分達が手配されているレイラ姫と騎士カイトである事がバレてもおかしくないのだ。


不審者に間違われないよう、自然に冒険者を振る舞うように、注意して進んでいると、大きな建物が見えた。


どうやら、ギルド会館のようだ。


オリンズのギルド会館は、表通りにあったようでとりあえず胸をなで下ろす。


ギルド会館のドアを開けると、中は冒険者が大勢賑わっている。


どうやら、このギルド会館は奥に酒屋や宿があるらしい。


向こうの方で、酔っている輩がいるのであろう、盛り上がっている声が聞こえていた。


「とりあえず、依頼を見に行こうか」


低い声で葵が言うと、カイトは頷いた。


依頼ボードの前では、冒険者の人盛りがこれでもか賑わっている。


(やっぱり、首都だけあって依頼が集中するのかしら?)


そう思いながら、ボードに貼られている依頼書をじっくりと吟味する。


(まだ私のランクでは、薬草取りが主になってくるわね。中には、魔物退治もあるけど)


そう思いながら見ていると、ふとある依頼書が目に止る。


『ボーグボア退治、5匹から10匹、報酬1匹につき銅貨2枚』


(…ボーグボア、ね)


「デュランさん、これどうですか?」


声音に気をつけながら、隣にいるカイトに声をかける。


「…ボーグボアか…今の私達では少し難しいが、まぁいいだろう」


ボソボソと小さな声で答えるカイト。


「では…」


そう言ってから、葵は依頼書を剥がして、カウンターに向かう。


カイトもすぐに後を追った。


「すみません、これをお願いします」


依頼書をカウンターに置くと、受付のお姉さんらしき人がそれを覗き込んで


「ふむふむ、ボークボアですか…でも…」


そう言ってから葵を見る。


弱そうな感じのする葵に、お姉さんは少し弱ったように笑い


「受けるのは自由なのですが、君はもう少し経験と装備を整えてからの方がいいと思うのだけど…」


そうアドバンスするように言う。


葵は、ギルドカードを出して


「大丈夫だよ。こいつもいるし」


そう言って、遅れてきたカイトを指す。


お姉さんは、カイトを見てから少し納得したようだが


「とりあえず、これにギルドカード翳してくれない?」


と、直径10cmくらいのクリスタル製の丸い板を出す。


葵は、言われたままにギルドカードを翳すと


「…ふむふむ、イーゲンドックの討伐クエストをクリアしてますね…え?男の子?君、男なの?」


驚いたようにお姉さんがしていると


「よく間違えられるが、男だ」


不満げに葵が言う。


「…てっきり女の子だと………コホン…まぁ、それはいいとして、イーゲンドックを討伐経験があるのであれば、このクエストは問題ありません」


そう言ってから、クリスタルの上に依頼書を置く。


「さ、カードを置いてください」


お姉さんに促されるままに、2人はカードを置くと、すぐに認証印らしきモノを翳して


「これで依頼登録は完了しました。ボーグボアには角があります。それが依頼達成の証になりますので、角は傷つけないようにしてください。あと、ボーグボアの肉は美味で高く売れますので、持ち帰った分はギルドで買い取りが出来ます。では、よい狩りを」


笑顔で言うお姉さんに


「ありがとう」


そう言ってから、ギルドカードを回収する。


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