見守る者達…そして、いざオリンズへ
そして、木陰にいる葵に
「アオイ、終わったからとりあえず出てきていい」
カイトが言うと葵は、おずおずと出てきてから近付いてきて
「すみません、髪を乾かしますね」
そう言って手を翳そうとすると
「大丈夫だ」
その手を制する。
「そんなに寒くはないから大丈夫だ。魔法は出来るだけ使わないようにしよう」
カイトが言うと
「そうですね」
と、翳していた手を下ろす。
「とりあえず、濡れた布を夜明けまで乾かしておこう」
と、木の枝に濡れた布を干す。
「アオイの使った分も干しておこう」
そう言って、手を差し出す。
葵は、すぐに自分が使った布を出して
「お願いします」
とカイトに渡す。
何事もなかったかのように振る舞ってくれるのは嬉しいが…
何か納得いかない部分もある。
(え…やっぱり、私って意識されてないんだな…まぁ別にいいけどさ…何か傷つく)
釈然としない感情が渦まく、難しいお年頃なのだ。
(とりあえず平常心だ…)
カイトが必死にそう思って意識しないようにしているのに、葵は気付いていない。
(まぁ、レイラ姫の恋人だから、意識されるとそれはそれで困りますけど…何か、釈然としないし、モヤモヤする…これって私?それともレイラ姫?)
胸に手をやって考える。
そうしても答えは出ない。
葵には分からない感情が渦巻く。
モヤモヤした夜は続く。
『あーびっくりしたわ。姫様が脱ぎだした時は』
遠くで2人を見守る影。
『…見てないでしょうね?』
隣にいる男にジト目で聞く。
『…見てない…誓って。というか、お前は側にいただろうが。俺は姫様が脱ぎだしたら背を向けたのは見ていただろう?』
男が不満げに言うと、女は疑いの目を外してから
『さーてね』
そう言ってから
『…首領達は、もう首都に入ったかしら』
『首領の事だ。もう潜り込んでいるだろう…心配か?』
『首領の事だから心配はしてないけど…それよりも、あの指令をどう実行しようか…』
『悩む部分ではあるな…』
『タイミング見て実行しないと。首領も見ているだろうし』
『気になるか?』
『なによ…?』
『いや、別に』
『…ふ』
『何を笑っているの?気持ち悪い』
『いや、首領の事となるとお前…』
『何が言いたいの?私は…』
『…必死だな』
『あのね、誤解はしないで。首領は…』
『分かっているさ』
『分かってないわよ。誤解しないで。あなたが思っている関係ではないから…あの人は…』
『大事な人の恋人…だろう?』
『そうよ。だから、誤解しないで。じゃ、姫様達を見守りましょう。場合によっては介入も辞さない覚悟で…それが、私達の使命なんだから』
『そうだな』
「ここまでにして、出発しよう」
木刀を引いてカイトが言う。
「はい」
葵は、木刀を降ろす。
結局、2人は寝れないので、剣の練習に時間を使った。
「まだ、隙はあるが、腕は上がっている」
「ありがとうございます」
少し嬉しそうに微笑む葵に
「だが、まだまだだ。下級魔物しか相手に出来ない。今のままでは中級魔物の相手は出来ない」
厳しい口調でカイトが言うと
「ですよね…」
少し残念そうに葵は、苦笑する。
「油断はするな」
「分かりました」
「では…」
「早く出発しましょう」
「ああ」
東の空が赤らみ出す前に、葵達は出発する事した。
少しでも早く、首都オリンズに到着する為だ。
「オリンズに着いたら、とりあえずギルドに行きましょう。簡単な仕事なら、すぐに稼げるでしょうし」
葵は、そう言いながら、歩き出す。
「そうだな」
カイトもそれに同意する。
「少しでも、安全に旅をしないとならないからな。だが、一応銀貨を交換する事も頭にいれておこう。あまり、長居は出来ないだろうし…いつ追っ手が追いつくか分からないからな」
それについては、葵は頷いて
「そうですね。出来るだけ急いで行動しましょう」
追っ手が今どこまで到達しているのかは分からない。
その情報が入れば上々だが、何せ世間知らずお姫様と不器用な騎士の組み合わせだ。
そんな簡単に情報が手に入るとは限らない。
ボイテイの街での事は、幸運としか言いようがない。
…と2人は認識していた。
「ここからオリンズまでもう少しだ。入ってからすぐにギルドに行こうか。そこで情報を得るしかない。…申し訳ないが」
「分かっていますよ。私がやります。カイ…デュランさんは、話し下手の剣士という役ですから」
「すまない」
「いえ、これは私が自分で選んだ事ですから。上手く情報を聞き出せれば上々でしょうけど…上手くいかなかったら、すみません」
葵がすまなそうにしていると、カイトは首を横に振り
「いや、元々無理を言っているようモノだから。本来ならば騎士の自分が自らやらないといけないのに…」
そう言うが、葵も首を横に振り
「いえ、レイラ姫の体と記憶があるとはいえ、私は一般の立場の者ですし、目的の為ですから、頑張りますよ」
と笑みを浮かべる。
「…そうだな。我々の目的の為、目の前の事をこなしていくしかない」
「ですね…」
少し寂しげな葵の様子に
「?どうした?」
カイトは、声をかけるが
「何でもありません。行きましょう」
少し微笑んでから、足を速める。
「具合でも悪いのか?」
そう心配するカイトに
「いえ、大丈夫です」
なんかモヤモヤしてるなんて言えない葵は、スタスタと歩く。
「?」
カイトは、首を傾げながらその後を付いて行く。




