バースの森、池のほとりにて…
(キレイ…)
そう思いながら立ち上がり、池のほとりまで足を進める。
池に手を付けてから
(そういや、お風呂にすら入ってないわね。こっちでは湯浴みって言うみたいだけど)
ふと、カイトの方を見る。
横になったまま、眠っているようだ。
(…よし)
葵は、カイトの見えない位置まで移動して装備や服などを脱ぎだした。
一糸纏わぬ姿となり、ゆっくりと足を池につける。
(冷たい…でも、気持ちいい)
そして、ゆっくりと体を池に沈めて行く。
池は、腰までの深さなのでちょうどよい。
葵は、体を水で洗いながら
(やっぱり、体を洗うっていいわぁ…でも、冷たい水だけど。滝行を思い出すわね)
小さい頃から、両親の方針で年に何度か家から近くにある滝に滝行に行っていた。
その事を思い出しながら
(お父さん…お母さん…今頃何をしているのだろ…?)
そして、重大な見落としに気付いた。
自分の体の事である。
魂が抜けている状態という事は死亡している、という事だ。
という事は…今頃は…
葵は、首を横に振って
(ええい!考えるな!奇跡を起こせるシンフォニアが何とかしてくれる!)
そう思う事にした。
髪や体を洗った後、少し池に浮かんでみる。
(知らない世界…知らない人達…知らない街…知らない事ばかり。今は何とかなってはいるけど、これから大丈夫なのかな?)
不安が頭をよぎる。
必死に考えない様にしていたが、不安は拭えない。
(それに、いつ見つかるかどうか分からないし…逃げ切れるの?)
レイラ姫の記憶や知識からして、ヴィヴィアンの探索能力は高い。
水の流れに身を任せながら流されていく。
(…考えた所でどうしようもない)
そう思ってから、
【パシャッ!】
と音を立てて浮いていた状態から、立ち上がる。
「よし!」
頬を軽く叩いてから、岸の方へと歩き出す。
【パキッ…】
木の枝が折れる音。
「え…」
音の方を見ると、バッチリとカイトと目が合う。
「ひっ…きゃあ!!」
【バシャッ!!】
と音を立ててから、胸を隠して水の中に体を隠す。
「な、な、何を!しているんですか!?」
耳まで赤くして、あわわわわ…と動揺を隠せないように捲し立てる。
動揺しているのは、カイトも同じで
「お、お前こそ何をしているんだ?姫の体でこのような…」
両腕を意味不明な方向に振りながら言うと
「だって…仕方ないじゃ無いですか!宿では湯浴みは出来ないのですよ!」
水の中に潜ったまま葵が答える。
「…だが…このような場所で…」
「体中、泥まみれなんですよ…気持ち悪いんです…でも…」
「え…?」
「いつまで見ているのですか!?」
「へ…?」
「あっち向けーーーーーーー!!!」
葵が叫ぶと
「は、はい!」
カイトは、慌てて葵に背を向ける。
ぜー…ぜー…と、息を切らしながら葵は、池から上がり、服を急いで回収してから、カイトが見えない木陰に隠れて布を魔法陣から取り出してから体を急いで拭いてから装備や服を身に付ける。
(びっくりしたぁぁぁ)
髪は軽く最低限の波動しか出せないので、弱い風魔法で乾かす。
そして、直立不動で背を向けているカイトに
「…着替えました。すみません…動揺してしまい…」
葵が言うと
「いや…私の方こそ…申し訳ない…アオイの姿が無くて、湖から音がしたから見てしまった…すまない」
耳まで赤くしながらカイトがボソボソと言う。
葵は、カイトを直視出来ずにいる。
(うーー…どういう顔をしたらいいのか分からないよ…)
「…今のは…忘れましょう」
葵が口を開く。
「え?」
思わず振り返るカイトに
「今、起った事は、忘れましょう。忘れてください。忘れて!」
すごい気迫で迫る葵に
「ああ…」
目を合わせられないカイトは、視線を泳がせながら答える。
「とにかく忘却の魔法を…」
葵が手を翳そうとすると
「待て待て待て!ここで魔法を使うと、ヴィヴィアンに居場所が知れる!ここまでの苦労が水の泡だ。…だから、その手を下ろせ」
魔法陣展開寸前になっていた葵は、赤くなっている顔のまま
「だって…こうしないと…」
「わ、忘れる!全力で忘れるから!魔法は使うな!」
慌てたように言うと、葵は涙目で
「忘れてくださいね」
そう言ってから、翳していた腕を下ろす。
そして、カイトに背を向けて
「私、あっち向いてますから、デュランさんも水浴びしてください。汗臭いのは、あまりよくないでしょうし」
そう言ってから木陰に隠れる。
収納魔法の魔法陣から布を出してから
「これ…使ってください」
ふわっと風でカイトの元に布を運ぶ。
布を受け取ったカイトは
「…わかった」
そう答えてから、池に向かう。
カチャカチャ…と、装備や服を脱いでから湖に身を沈める。
(冷たい…が、心地は悪くない)
体についた汚れを拭うように、体を洗い
先ほどの葵と同じように、池に体を浮かせる。
(…にしても)
そう思いながら、先ほどの涙目の葵を思い出し、フッと笑う。
(さっきの顔は面白かったな…あのような顔を出来るのだな)
そう言ってクスクスと笑う。
体を起こして、葵がいるであろう方向を見る。
そして、首を横に振って
(何を考えている!?私には姫という人がいる。他の女性にうつつを抜かしている場合ではない!)
自分に言い聞かせるようにする。
【バッシャ!】
と音を立てて、頬を打つ。
自分に気合いを入れてから、池から出る。
布で体を拭いてから、装備と服を身につける。




