ツォンズ公国入り
襲ってくる魔物を倒しながら、アオイとカイトは先を急いでいた。
出来るだけ遠くに行かなければならない。
その思いだけで。
ある程度進んでから
「ここまで来れば大丈夫でしょうか?」
と葵が言うと
「油断は出来ないが、今の所は大丈夫だろう」
カイトが答える。
今、倒したばかりの魔物は、昨日倒したイーゲンドックよりは強い魔物だ。
少しは腕を上げたのだろうか…と葵は、思っていたが
「まだ動きに隙が多いぞ。魔物は待ってはくれない」
カイトの厳しい言葉がくる。
(まだまだ…というのは分かっているけど…)
葵は不満に思いながらも、それは事実なので受け入れる。
「それでは、収納魔法を使いますので、使わないアイテムは収納しましょう。デュランさんのカツラも収納しましょうか?」
茶髪のカツラをつけたままのカイトにそう聞くと
「いや、このままでいい。いつ誰が見ているか分からない。これは被っておくべきだろう」
そう言ってから、カバンの中から荷物を取り出し
「ある程度は、持っておいた方がいいだろう。アオイ、お前もそうした方がいい。いつでも収納魔法が使える訳ではないからな」
「そうですね」
葵は答えてから、自分のカバンの中身を確認する。
食料と傷薬を少し残してから、収納魔法の魔法陣を展開する。
「さ、収納しましょう」
と、余分な荷物を魔方陣に乗せると、それに吸い込まれるようにアイテムが入って行く。
カイトもそれに倣い、アイテムを置く。
収納魔法を解除してから
「この森は、どこまで続くのでしょうね…」
そう言って、今度は地図を展開させる。
ボイテイの街からは、かなり遠ざかったが、目的地までは、まだまだ遠い。
「もうツォンズ公国に入る頃だな。国境付近には衛兵隊が出入国を監視している。一応、身分証とギルドカードがあるとはいえ、油断はしない方がいい」
そう言って、2人は歩き出す。
カイトの言葉を受けて、葵は歩きながら地図を拡大する。
確かに、国境近くまで来ているようだ。
「ボイテイの街から国境はすぐだからな。おっと、国境が見えてきた」
木で出来た柵と門が見えてきた。
小さな小屋があり、そこが検査所になっているのだろう。
2人は、門の方に向かった。
門番しているらしき兵が
「身分証を出してもらおうか」
と、威圧的に言ってくる。
2人はカバンから、身分証とギルドカードを出す。
それを受け取った門番は
「ふん、ギルドに登録しているのか。ツォンズ公国へは何をしに?」
当たり前の事を聞いてくる。
「フィアント公国は、雲行きが怪しいからな。別の国で一旗揚げようと思って」
葵はそう答えたら
「ああ、ビルガ帝国の侵攻を受けたってな。シンフォニアがそれを許したって事は、そのうちにうちの国も侵攻されるかもしれねぇな」
門番は不安げに言う。
シンフォニアは、この世界-ルスレニクスを守る存在とされている。
そのシンフォニアが、ビルガ帝国の侵攻を許したという事は、世界をビルガ帝国に委ねる事に同意した事を意味する。
どの国もビルガ帝国の黒い噂は知っている。
そのビルガ帝国がシンフォニアを制したのだから、各国は今頃、対応に追われているだろう。
地図的に見て、ツォンズ公国は、次に侵攻されるであろう国の候補の1つだ。
フィアント公国の東にはビルガ帝国、北にはツォンズ公国、西にはイーストベルガ王国、南にジン連邦がある。
ツォンズ公国は、ビルガ帝国の隣国でもあるから、一番侵攻を受ける可能性が高いのだ。
「一体、シンフォニアは何を考えているのやら…おっと、こんな事を言ったら罰が当たっちまうな」
門番は、少しボヤいてから
「まぁ、通っていいが、この次期にビルガ帝国に侵攻されるやもしれねぇ。逃げるなら、西のイーストベルガか遠く離れたマレスフィアがいいかもしれねぇぞ」
2人にアドバイスするように言い、身分証とギルドカードを返した。
「ありがとよ」
礼を言ってから、門を通過する。
しばらく歩いてから
「とりあえず、無事にツォンズ公国には入れましたね」
葵が安堵したように言うと
「まだ油断は出来ないが、とりあえず国は超えられた。首都のオリンズは、このバースの森を抜けた先にある。湖のある美しい場所だ。そこで、ヒルデガース王国に行く為の装備を整えよう。アオイ、そこでまた金品交換所に行ってもらいたい」
そう言って、銀貨を出す。
「何故?…ああ、そうか。通貨が違いますものね。この国での通貨に変えないと」
「銅貨は、もしもの時の為に持っておこう。とりあえず、こちらでの通貨が分からないから、銀貨2枚を交換して様子をみようか」
そう言ってから、銀貨を葵に渡す。
「分かりました。任せてください」
それを受け取ってから懐に入れる。
「さ、もう日が暮れる頃だ。この辺に野営できる場所を探そう」
カイトの言葉に、葵は地図を広げてから、現在地を拡大させる。
「現在地はここですね…で、ここらからこちらに向かえば、首都オリンズ。では、この辺に出来る場所を探しましょう」
そう言って、現在地から首都オリンズまでの間を指さす。




