ヴィヴィアン達の出立
ヴィヴィアンとリスターは、兵を揃えてすぐに出立した。
一刻も早くレイラ姫を確保する為に。
馬に乗り、先頭を行く2人を歩兵と馬兵が付いて行く。
「賢者の森は、迂回した方がいいわ。また迷ってしまうから」
ヴィヴィアンの言葉に
「そうだな。時間を有効に使う為には迂回した方がいいだろう」
リスターはそう言ってから、後ろを付いて来ている兵の先頭にいる兵長らしき馬兵に
「賢者の森は迂回する。兵に通達せよ」
と命令を下す。
「はっ!」
その者は答えると、他の兵に通達の為に他の兵を呼ぶ。
1000人もいるので、通達に時間がかかるのは仕方があるまい。
「それにしても、これだけの兵を動かしても大丈夫ですの?」
ヴィヴィアンの問いに
「それだけ殿下が、レイラ姫の確保を重要視されているという事だ。レイラ姫は、この国の姫でありながら、守護樹シンフォニアの巫女でもある。女性としても素晴らしい方だと聞いている。殿下の妻としては申し分ないだろう」
リスターが、答えると
「…殿下の妻…ねぇ」
「何か不満でもあるのか?」
リスターがヴィヴィアンを睨みながら言うと
「いいえ、何も。ただ、レイラ姫が婚姻に同意するか、シンフォニアに認められるか、それが気掛かりなだけですわ」
ヴィヴィアンに動じずに言う。
リスターは、ムッとした表情になり
「我が主である殿下ならば、姫にもシンフォニアにも認めていただけるであろう」
少し誇らしげに言う。
(…認めていただける…ねぇ)
ヴィヴィアンは、レイラ姫を知っている。
そして、その婚約者に選ばれたカイトの人格もだ。
カイトがシンフォニアに選ばれるに足る人間である事は、ヴィヴィアンも認めている。
そのカイトを差し置いて、キートン王子が選ばれるとは考えにくい。
だが、シンフォニアが何を考えているのかは、ヴィヴィアンにも分からない。
もしかしたら…が起こるかもしれないのだ。
だから、ヴィヴィアンはキートン王子に従っている。
彼女には彼女の思惑があるのだが…
(ま、あの方の言う通りなら、ビルガ帝国の思い通りには簡単にはならないとは思うけどね)
そう言ってフッと笑う。
「どうした?何か可笑しいか?」
不機嫌そうにしているリスターに
「いいえ、私もキートン王子にシンフォニアの加護がある事を信じますよ」
そう言ってから
「そんな事より、今夜は野営になりそうですけど、どの辺りにします?」
リスターに聞く。
リスターは、片手で地図を広げて器用に見ながら
「そうだな。兵もあまり急げば疲れるだろうし、賢者の森とボイテイの街の中間位に小さな平地があるだろう?そこでどうだ?」
リスターの言葉にヴィヴィアンは、魔法で地図を広げ確認する。
「そうですわね。この辺なら見晴らしもいいし、近くに川も流れていますから、休むのにもちょうどいいでしょう」
そう言うと、地図が消える。
「魔法と言うは便利なものだな」
リスターの言葉に
「副官は、魔法の方は、お出来になりませんの?」
ヴィヴィアンの問いに
「適性がなくてな。その代わり剣の腕を磨かせてもらった。そのお陰で、このように殿下より取り立ててもらい、ありがたい役職をいただいている」
リスターが答えると
「なるほど。この世界には、魔法か剣か、どちらかの適正にしか目覚めませんものね。私も剣は振るう事すら出来ませんし」
ヴィヴィアンが肩を竦めると
「だが、稀に両方の適性を持った者が生まれる…聞いている。フィアント公国にも1人いたと聞いているが?」
「…会った事もないし、噂だけだと聞いてますわよ。そんな騎士がいたら、重要な役職に就いているハズですし」
ヴィヴィアンは、知らないフリをした。
本当はいる、と知っている。
フィアント公国の為に数々の武勲を立てている、という事も。
だが、この情報は流さない。
それが、彼女の思惑の為に必要な事だからだ。
(いずれ、相まみえる時が来るでしょうね。誰の思惑も関係なく)
ヴィヴィアンは、それを楽しみにする事にした。
自分の思惑があるとはいえ、面白い事は好きなのだ。
その人物と相まみえた時、自分はどこまで通じるか興味はある。
そして、ビルガ帝国の兵が、どこまで通用するか。
大変興味がある。
元々、彼女は研究職肌の人間なのだから。
(楽しみにしておきましょう。…その時を)
楽しそうに笑みを浮かべているヴィヴィアン。
それを怪訝そうに見ているリスター。
(こやつ…何かを隠しているな…油断はしない方がいい)
警戒度を上げた。
軍隊が目的の休息地に到着すると、兵などがテントや食事などの準備を始める。
馬から降りたヴィヴィアンは、すぐに探索の魔方陣を展開する。
(この辺に…波動は…あった!薄いけどこれはカイトの波動ね。あとは…これは…姫?いや、似ているけど違うわ。でも、この魔法の波動は姫に似ている。やはりあの方の言う通りになったという事か…)
展開した魔方陣を解除してから
「魔法の波動の後を発見したわ。どうやら当たりを引いたみたいね」
「何!では…」
そう言ってリスターが兵に出立するように命じようとするが
「兵は疲弊しているのよ。今、動かしてもいざという時に役には立たないわ」
そうヴィヴィアンに言われ
「だが…」
何か言おうとするリスターに
「確実にボイテイの街にいると思うし、姫達もまさかすぐに私達が追いつくなんて思っていないでしょう。今は、兵を休ませて朝一番に街に入れるようにしましょう」
そう言うヴィヴィアンの提案をリスターは受け入れる事にした。




