フィアント公国の城にて
ヴィヴィアンは、城の廊下を歩いていた。
隣にいるのは、フィアント公国侵攻副指令のリスター・バレンタである。
2人は並び歩きながらも会話はない。
だが、守護樹の間の前に立つとヴィヴィアンが足を止めた。
入り口はビルガ帝国の兵が立っている。
その向こうに広がるのは、中庭のような場所で、真ん中にはクリスタルを抱く大樹がそこにあった。
《守護樹シンフォニア》
ルスレニクスに住む者で知らぬ者はいないであろう世界を守る大樹。
ヴィヴィアンは、ふと守護樹の間に足を踏み入れる。
入り口を守っている兵が止めようとしたが、リスターがそれを止めさせた。
入ってから、少し進むと見えない膜のようなモノにぶつかる。
魔法陣が展開されており、ゆっくりと回転していた。
ベイト・ディインダが施した結界。
これを破る術は、誰もしらない。
ベイト・ディインダ自身以外は。
大樹の中には、3人の人物が眠っている。
ベイト・ディインダ。
この国の王である、アレクサンダー・クェント
そして、王妃であるライラ・クェント。
ベイト・ディインダを中心にして、この3人がクリスタルの中で眠っている。
ビルガ帝国が首都フォニスに入る直前にベイト・ディインダは、王と王妃と共にシンフォニアの中に入った。
そして中から、悪用されぬよう封印を施したのだ。
更に誰も近づけない様に周囲に結界を張った。
ビルガ帝国の兵達が破壊を試みたが、失敗に終わった。
シンフォニアは、一度光を放った時以来穏やかに沈黙している。
だが、見ているだけで心が穏やかになるのは変わらない。
それは、ヴィヴィアンも同じであった。
「そろそろいいか?」
リスターの言葉に
「はいはい、殿下がお待ちですものね」
そう返事して守護樹の間を出た。
(結界に変化はない。さすがベイト・ディインダ…というところかしら)
偉大なる魔導師に敬意を表しながら先に進む。
守護樹の間の隣にあるのは謁見の間。
その入り口もビルガ帝国の兵が守っていた。
この城にいたはずのフィアント公国の兵などは、みな解雇されたか牢に入っている。
反抗的な態度を取った兵は、もちろん牢に。
それ以外は、解雇され街に出された。
この城はビルガ帝国の兵が守備をしているのだ。
魔導師は少し違う。
反抗的な態度を取った者は牢に入っているが、協力的…中立的…そんな者達は城に残っている。
その他のメイドや使用人達は、城の中にいる。
反抗的な者は、街に出されたりしたが。
特に、姫のお世話係の反抗はひどかった。
彼女らは、今、牢にいる。
街に出す事も考えられたが、姫を連れ戻した際に、慣れた者が世話をしないとならないだろうとヴィヴィアンが進言してキートン王子が了承した。
牢の中でヴィヴィアンに対する恨み言を漏らしているらしい。
「ヴィヴィアン殿だ」
「すっかり帝国に取り入ったみたいですな」
「あの者が裏切らなければ…少しは」
「シッ…聞こえるぞ」
魔導師達の会話が聞こえてくる。
「大変ですな」
皮肉を込めてリスターが言うと
「別に。こうなると分かっていて寝返ったのだもの。これくらいはどうって事ないわ」
気にしていない様子でヴィヴィアンは、扉の前に立った。
「バレンタ副官のお帰りです」
扉を警護している兵が、そう言いながら扉を開く。
長い絨毯の先には、王座の椅子がある。
だが、本来そこに座っているハズの王はクリスタルの中だ。
今は、キートン王子が鎮座していた。
2人は前に進み、キートン王子の前で跪く。
「殿下、リスター・バレンタ、ヴィヴィアン・レクスドール、戻りました」
頭を下げたまま言うと
「顔をあげよ」
キートン王子が言う。
キートン・ゲオルク。
ビルド帝国の第1王子…だが、王位継承権は2位である。
この帝国は、王位継承権は男女関係なく生まれた順に与えられる。
キートン王子の2つ上に姉のアルフィーネ・ゲオルクがおり、彼女が王位継承権第1位になる。
野心家の彼は、当然王になる為に姉を出し抜こうとしたが、アルフィーネ王女は、彼の何枚も上を行く曲者。
ことごとく失敗してきた。
そこでフィアント公国の王女との婚姻を持ち掛けたが、アレクサンダー王によってすげなく断れ続けていた。
しかも、下級貴族がシンフォニアに認められて姫の婚約者として諸国に公表されたのだ。
だが、キートン王子はある筋からシンフォニアが弱っており、フィアント公国に攻め入っても加護は発動しないとだろうという情報を得て、王である父にフィアント公国侵攻を進言した。
王も最初は渋っていたが、アルフィーネ王女の援護もあり、それに了承。
軍隊の一部を彼に与え、フィアント公国に侵攻してきた。
首都フォニスに入る前に、姫の婚姻とベイト・ディインダに配下に加わるように書面で宣告したが、ベイト・ディインダはシンフォニア封印に動き、自身と共に封印。
レイラ姫は、婚約者である騎士と逃亡を図り、何とか見つける事が出来たが、兵が放った毒矢が姫に命中し、姫はそのまま行方不明になってしまった。
そこまでが、キートン王子が持っている情報だ。
「リスター、姫はどうした?連れ帰ってないようだが?」
威圧感のある声でリスターに尋ねる。
「…殿下、申し訳ございません。レイラ姫は見つける事が出来ませんでした」
「賢者の森に匿われている…と聞いたが?」
そう言って今度はヴィヴィアンを見る。




