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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
旅立ち
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急ぐ旅立ち

朝食を済ませて、早速ギルド会館に向かう。


宿から少し離れているので、気持ち焦りが入っているのか2人とも速足だ。


だが…


「おい…帝国の軍隊が来ているって」


誰かの声に足を止める。


住民らしき男女が話しているようだ。


「街にはもう兵がいるじゃない」


「いや…何か分からんが今回は違うらしい。城付きの魔導師も一緒らしいぜ」


「うそ…やだ…みんながこれだけ嫌な思いしているのに…」


「だいたい、これも姫様を誘拐したヤツのせいじゃないか?」


「え?でも、その誘拐したヤツってシンフォニアに認められた婚約者じゃなかった?」


「いや、噂だがな、その婚約はシンフォニアによって破棄されたらしいぜ。それで姫の婚姻相手にシンフォニアがキートン王子を選んだって」


「本当?」


「噂だけどよ…兵が話しているのを聞いたぜ。『この国はキートン王子が支配する』って」


「…シンフォニアが選んだのであれば仕方ないけど、帝国の連中にこれ以上大きな顔されるのは嫌よね」


カイトは、怒りが爆発するのを抑えた。


ここで、住民に怒りをぶちまける事でもしたら、すべてが終わってしまうと分かっているからだ。


どうやら帝国は真実を捏造して噂を流しているようだ。


男女が去って行くと


「よく堪えましたね」


葵がカイトに言うと


「私だって、状況は理解している。ここで住民に声を荒げたら、すべてが無駄になる。これからだって、こういう事が起こるだろう?これくらいで怒りは表には出さない」


そう言ってから


「だが…早くここを出た方がよさそうだ」


と言って、葵に


「これを使え。もうなりふり構ってられない」


銀貨を1枚渡す。


「金品交換所に行こう。それでとりあえず、食料を買って早めにこの街を発つことにしよう」


その言葉に葵は頷き


「そうですね。どうやら時間はないようです。ヴィヴィアンも勘がいいのでしょうか?こんなに早くここに辿り着くなんて」


「まだ見つかってはいない。それにヴィヴィアンだって確信があってこの街に来る訳ではないだろう?あくまで可能性の範囲でこの街にくるやもしれない」


葵は、もう一度頷いて


「とりあえず、金品交換所に行きましょう」


そう言って、2人は行き先を金品交換所に変えた。




使命を終えた男女は


『ご苦労』


盗賊らしき男の前にいた。


首領(ボス)、あんな感じでよかったでしょうか?』


男の問いに


『何がだ?』


『俺達が言っていた事は、半分嘘です。軍隊はこちらに向かっていますが、シンフォニアがキートン王子を認めた話は嘘っぱちなんですよ』


『構わない。いずれ、諸国にそのように表明されるだろう。シンフォニアが沈黙をしている以上…な』


首領と呼ばれた男は


『情報によると、もう近くまで軍隊が迫っている。脱出が間に合えばいいが…』


心配そうに呟いた。




「銀貨?お前さんのか?」


金品交換所の年老いた職員が疑いの目で葵を見る。


ボロボロの装備をもった少年が高価な金銭を持っていたら疑いたくもなるだろう。


「…故郷を出る時に、村の連中から餞別にもらったんだ。お守りにしろってな。でも、こんな弱っちい装備じゃ何も出来やしない。これで少しはいい装備に変えたいんだよ」


職員は、疑いの目を向けたまま


「とりあえず、身分証は?」


と身分証の提示を求める。


葵は、身分証とギルドカードを出す。


「ギルドに登録しておったか…ゲノベ村の出身なんだな。あの辺境の村から、よくここまで来れたもんだ」


疑いは少しは晴れたようだ。


「腕の立つ奴が途中から一緒でな」


そう言ってカイトを指す。


「…強そうじゃが、こやつの装備もあまり強くないみたいじゃな」


「だからな…こいつで装備を整えようと思ってよ」


そう言って銀貨を指さす。


「ま、罪でも犯していたらギルドカードが白くなるからな。本当なんじゃろ。銀貨を銅貨に変えるのでいいか?」


と問うと、葵は頷き


「頼む」


と短く答える。


「銅貨100枚あれば、それなりの装備は整えられるじゃろうて」


そう言ってから、職員は銀貨を受け取り、銅貨10枚入った麻袋を10個取り出す。


「がんばれよ」


「ああ」


職員の言葉に答えてから、銅貨の袋を受け取り、半分をカイトに渡す。


「デュラン、半分はお前の分に使え。とりあえず店に行こう」


そう言ってから、足早に店を出る。


出た後に、ホッとしたようになり


「とりあえず交換ができたな」


カイトの言葉に


「そうですね。早く露店に行き食料を調達しましょう」


そう言ってから2人は裏通りに向かった。


朝早いのか、人はまばらだ。


「とりあえず、保存の効く食料を買いましょう。疑われない程度に多く」


「そうだな」


「私は、そういう知識はありませんので、買うのは私がやりますから、食料は選んでください」


そう言われて、カイトは納得した。


カイトは、騎士として訓練野宿などを行うから保存食に対する知識はあるが、当然姫であるレイラ姫には、それはない。


「わかった。値段交渉とかはまかせる」


そう言ってから、露店を物色する。


いい感じの干し野菜や干し肉を売ってある店を見つけた。


カイトは、食品をよく見ている。


葵は店主に


「いくらぐらいだい?」


と問うと


「この食料不足だからね。干し野菜は銭貨10枚から20枚、干し肉は銭貨50枚になるよ」


店主が答えた。


カイトは、いくつかの干し野菜と干し肉を手に取り


「これでいくらだ?」


と、少し声色を変えて聞く。


少しは市政の言葉遣いも分かっている。


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