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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
旅立ち
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初めての買い物

街の入り口に戻り、宿を探す。


入り口から少しの所に宿はあった。


「…2人、泊まりたいのだが」


葵が、相変わらずの低い声を出して聞くと、女将らしき人物が


「うちは、朝食付きで1人銅貨2枚になるよ。夕食は、ここで食べてくれるならそれなりにサービスさせてもらうからね」


営業スマイルを浮かべながら言うと


「分かった…」


そう言って銅貨4枚を出す。


「夕食も、ここで取りたいが…いくら?」


葵が聞くと


「二人で銅貨1枚てところかね」


女将の言葉に、葵は銅貨を1枚出して


「夕食は、いつくらいになる?」


と聞くと


「あと一半時くらいかね」


女将の答えに


「では、買い物にいってくる。行こうデュラン」


そう言って受付から踵を返す。


「いってらっしゃい」


愛想よく手を振る女将に見送られて宿を出る。


(はぁ…低い声、疲れる)


だが、敵の目を欺くためには、自分が男と思われるしかないのだ。


仕方ないと無理矢理にでも納得させてから


「では裏通りにいきましょうか?」


とカイトに声をかける。


小さい声でだ。


「わかった」


カイトは短く答える。


カイトも言葉には気をつけている。


下の方とはいえ貴族の出なので、話し方が仰々しい部分がある。


正直、交渉等を葵がしている事は感謝している。


普通に市政の話し方に溶け込んでいるからだ。


これが、自分とレイラ姫なら上手くいかなかっただろう。


そう言った意味で感謝すべきなのだろうが、素直にそれは出来ない。


なぜならば、カイトはレイラ姫を愛しているからだ。


旅をするならば、姫と一緒がよかったというのが正直な気持ちだ。


自分の隣を歩く少女は、レイラ姫の顔をした別人なのだ。


受け入れがたい事実だと言うのに、カイトは受け入れいつつある。


それは、彼にとっては許されない。


レイラ姫以外の人間を認めるなど、カイトにとってはレイラ姫に対して許されざる事だ。


カイトは首を横に振り


(この事を考えるのはよそう。シンフォニアの試練を乗り越えれば、姫は戻ってくる)


シンフォニアが課した試練を乗り越えた先には、姫との日常が戻ってくると信じている。


信じることが、カイトの原動力となっている。


だから、今は少しでも前に進むしかないのだ。


としているうちに、裏通りの方に到着した。


「買うものは?」


カイトが短く聞くと


「食料と回復薬に使える薬草、傷薬ですね。回復薬は高いでしょうから、材料を揃えて作りましょう」


葵が答えると


「作れるのか?」


「一応は、レクス老に教えていただきましたから。これでも腕はいい方なのですよ。レスク老のお墨付きです」


と、答え露店を物色していく。


まずは薬草を売っている店を見つけた。


薬草を確かめながら物色していると


「あまり上質なモノがないな」


葵の言葉に店主は肩をすくめ


「上等な品は、奴らに持っていかれるのさ。ほんと世知辛いね」


と言う。


そして葵の顔をジッと見て


「あんた女か?」


と聞いてきた。


ドキッとしたが、葵はため息をついてギルドカードを取り出して


「この通り男だ。なんだ?おっさん」


「いや…どっかで見た事あるなぁと思ってな」


唸りながら葵の顔を見る店主に


「おっさんは、男を口説く趣味でもあるのかい?」


葵の言葉に


「そりゃそうだな」


そう言って豪快に笑う。


葵は、数ある薬草の中から、品質のいいものを選び


「これでいくらだい?」


と問う。


「お、ぼっちゃん、良い目してるね。どっかで目利きでもならったのかい?」


店主の問いに


「知り合いに薬草を扱う人間がいてな。そいつに叩き込まれた」


と、噓八百を並べる。


(大した度胸だな)


後ろで黙って立っていたカイトは感心していた。


「そっちの兄ちゃんはなんだい?」


店主がカイトを見ながら聞くと


「こいつは、戦闘に関しては優秀なんだがな。こういうのは苦手で。仕方なく俺が買い付けをしているのさ」


葵が答えると


「なるほどな。お前らパーティーか?」


「ああ、一応な」


「そうか」


「で?値段は?」


「品質がいいから銅貨10枚ってとこだが、9枚にまけてやるよ」


店主の言葉に


「もう一声出来ないか?俺達、金ないんだよ。これから傷薬とかも買わないとならねえから、もう少しまけてくれよ」


葵が言うと


「…しかたねえな8枚でどうだ?」


「7枚だろ?この品質じゃ」


「…おめぇ、目利きいいな…仕方ねぇな、それで売ってやるよ」


観念したように言う店主に


「ありがとよ」


そう言って、銅貨7枚を出す。


「あいつらのせいで、冒険者もやりにくいかもしれんが頑張れよ」


最後に店主が言った。


「ああ。おっさんも気をつけろよ」


と言い、手を振ってからその場を立ち去る。


「まさか、値段交渉まで出来るとはな」


カイトが、驚きと感心をしながら言うと


「ドキドキでしたよ。…姫の目利き能力があってこその結果ですけどね。それがなかったら、9枚で買わされてました」


葵は、肩を撫でおろしながら言う。


(疲れた…一軒だけでこれだけ疲れるなら、これからどうなるのだろう?)


少し先が思いやられた。


この街はビルド帝国の支配下に入っている。


だから、ビルド帝国の追手が追いつく前に、この街を発たねばならない。


逸る気持ちはあるが、旅立ちの準備は万端に整えておかないとならない。


(残りは10枚か…傷薬を買ったとして、食料までは無理かもしれない。カイトさんの銀貨を使うしかないけど…銅貨100枚だから、どこかで両替しないと)


こちらにも銀行みたいな施設がないか、と聞いてみることにした。


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