援護する者たち
「…荒んでますね」
葵が言うと
「そうだな…それより、さっきの兵を何とかしないと。また母子に危害を加えるやもしれない」
カイトが言ってから、その兵が行った方向を追いかけていく。
兵がイライラしながら街を闊歩していると、美人の娘と目が合った。
ウインクされて、気をよくしたのか娘が入った裏道に入って行く。
兵が裏道に入ると、スッと後ろを塞がれた。
前には、盗賊らしき男がいる。
その隣には先ほどの娘がいた。
「…お前ら!」
兵が叫ぶと同時に、男が手を翳す。
『今、あった事を忘れろ。母子の事も、助けに入った二人組も』
男が言うと、兵は目をトロンとさせてから
「…わかりました」
虚ろな声で答える。
男たちは素早くその場を立ち去る。
兵がハッとした時、何が起こったのか分からず頭をかいてから首を傾げる。
だが、仕事があるのだろう、すぐに表通りに戻った。
『カイト殿と姫らしいとは思いますが、もう少し行動は慎重にしてもらいたいものですね』
『仕方なかろう。姫は、この国の民を愛しておられるからな。それにお優しい方だ。放っておく訳がないだろう』
『フォローするのも大変ですね』
『それが仕事だ』
『はいはい、首領』
兵を追いかけて道を進んでいると、前の方から先ほどの兵が向かってくる。
思わず身構えるが、兵は二人の事等目に入ってないかのようにすれ違う。
意味が分からず顔を合わせる二人。
「何が起こっているのだ?」
「わかりませんよ」
そういう二人の会話をよそに、兵は離れていく。
「とりあえず、先程の兵の後をついて行ってみましょう。あの母子に何かするかもしれませんし」
葵が言うと、カイトは頷いて二人はとりあえず兵の後を追う。
あの母子との遭遇は時間がかかると思っていたが、意外と早かった。
母子は兵を見つけ、怯えたような表情を浮かべたが、兵は構わず母子の横を通り過ぎる。
不思議そうな顔をしている母子だが、それは葵達も同じだ。
まるで、先程の事がなかったかのように、兵は隣を通り過ぎて行ったのだ。
だが、立ち寄った店の前で横暴な態度は取っている。
顔を合わせる二人だったが
「とりあえず、あの兵の事は置いときましょう。まずは、今晩の宿と買い物をしましょう。デュランさん、銀貨はありますか?」
葵がカイトに聞くと
「持っているが…どうした?」
「いえ…銅貨22枚では、どこまで買い物出来るかは分かりません。私は金貨しかないので。金貨をこの場で使うのは不自然ですが、銀貨ならばギリギリ大丈夫ではないかと思いまして」
葵が言うと、カイトは納得したように頷き
「そうだな」
と財布を取り出そうとする。
「でも、銀貨は2、3枚くらいにしてくださいね」
葵は、そう言ってから、財布の中の銅貨を確かめる。
(これで、どこまで出来るか分からないけど…)
そう思ってから、財布を直す。
ちなみに銅貨100枚で銀貨1枚の価値があり、銀貨100枚で金貨1枚の価値がある。
銅貨の下には銭貨というのもあるが、これが100枚集まると銅貨1枚の価値になる。
分かりやすく言えば、銭貨一枚が1円として、銅貨は100円、銀貨は10,000円、金貨は1,000,000円の価値と言う訳になる。
つまり、葵達は現在2.200円を自由に使えるが、それ以上の買い物等には慎重にならなければならないという訳だ。
「とりあえず、今晩の宿を確保しましょう。それから買い物してから、足りなかったらまた依頼を受けて金銭を稼がないとなりません」
葵の言葉に
「ゆっくりすぎないか」
カイトは不安げに言うが
「慎重に行動しないとなりません。ここに追っての手が届くのも時間の問題かとは思いますが、不自然さが目立てばその分だけ見つかる可能性が高くなります。焦りこそが一番の難敵なのです」
と言ってから
「まぁ、私も急ぎたい気持ちもありますが…」
と付け足す。
「…冷静だな。私は焦ってばかりだ」
「必死なだけですよ。姫の知識と私の知識を掛け合わせて、思考しているだけです。どうしたら、効率的なのか。一番の近道を探しているだけですよ。でも…」
「でも…」
「正直、怖いです」
「怖い?」
葵は、街の様子を見ながら
「この世界は私にとっては未知の世界です。レイラ姫の知識があるとはいえ、姫も首都からは単身で出た事のない世間知らずです。何が常識なのか分かりませんから、怖いです。判断一つ間違えば、事態が悪い方向に向かいますから」
その言葉にカイトは、少し黙っていたが
「私がいる。私もあまり首都から出た事はないが、この世界での常識はある。お前が常識外れをやろうとしたら、止めてやろう」
そう言ってニヤリと笑う。
葵は苦笑しながら
「お願いしますね」
と言うと、カイトが驚いた表情になる。
「どうかしましたか?」
葵の問いに
「何でもない」
そっけなく答える。
(笑い方が姫に似ている。姫の体なのだから当たり前だろうが…笑い方も似ているのだな)
この短い時間の触れ合いで、カイトは無意識に姫と葵の共通点を探していた。
民の為に身を投げ出そうとする優しい姿。
ひたむきにいく姿。
笑い方。
ただ違うとすれば…
前を向いて進もうとする強くありたいと思う心…だろうか。
姫は、優しさ故に強さに欠けていた。
それは、自分が支えていけばよいと思っていたが…
カイトは、分からなくなった。
自分が。
姫は、そのままでいいと思っていた自分が




