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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
旅立ち
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ボイテイの現実

前回の時とは違い、再び街に入るのには時間はかからなかった。


身分証だけではなく、ギルドカードのお陰なのだろう。


ギルドカードで身分を偽る事等出来ない…これが、この世界での常識。


だから、ギルドカードで身分を証明されている為、疑われる事はないのだ。


ギルドカード様々である。


街に入って気付いたが、前と違い周囲に気を配れるようになった。


そして、気付いた。


街の様子が暗い事に。


住民の表情は暗い。


ビルガの兵が街中にうろついているに、態度もでかい。


シンフォニアの加護が受ける事が出来ないこの状況では、彼等の横暴さを受け入れるしかないのだ。


ビルガの兵が住民に無礼を働いている様子を見ても、何も出来ない。


手を出したら、そこで自分達が疑われてしまう。


そうしたら、先に進めなくなるだろう。


ギルドカードのお陰で身分は偽れているが、疑われてしまえばアウト。


そう思うと、悔しい気持ちが湧き出てくる。


特にカイトの方が、それが顕著に出ている。


グッと拳を握りしめて堪えている。


「デュラン…分かっていると思うけど」


葵が小さい声で言うと


「分かっている。そういうお前もさっきから、震えているぞ」


カイトに指摘されるまでもなく、葵も我慢をしている。


(私がもっと強くなれば…この人達を救えるのに…)


そう思うと焦りが出てくる。


だが…


(焦りが一番の敵。落ち着くのよ。ボイテイの皆さん…必ず開放します)


決意を新たにするのだ。


そうしているうちに二人は、ギルド会館に到着した。


受付カウンターに行き


「依頼達成した」


と、葵は麻袋を出す。


受付嬢は、麻袋を開けて慎重に中身を出す。


牙は、材料になるので傷をつけてはならないのだ。


「……証明部位に傷はないようですね。4個ほど多いですが?」


「7匹出てきたから、全て排除した」


「…なるほど。では、合計で14個を鑑定士に依頼して鑑定してもらい、4個分の素材代金をお支払いさせていただきますね。ではギルドカードを」


受付嬢に言われ、二人はギルドカードを出す。


依頼書とギルドカードを重ねて、クリスタルのような石を翳すと魔方陣が形成されて、その光が収まると


「これで依頼終了です。お疲れさまでした」


そう言ってから、ギルドカードを渡す。


それと同時に依頼書が、消えていく。


「次の依頼は、半日は置かないと出来ませんから、注意してくださいね。これは決まりですから」


受付嬢に見透かされたように言われた。


早速、次の依頼を受けようとしていたからだ。


「あと、これが依頼の報酬の銅貨20枚で、素材4本の代金は銅貨2枚です」


そうやって、銅貨22枚をカウンターに置く。


それを受け取ってから


「この近くに宿とかあるか?」


葵が問うと


「街の入り口から少し歩いた所にありますよ。アイテム屋は裏通りにありますので、ご自由にご利用ください」


受付嬢の答えに


「ありがとう」


と言って、その場を去る。


ギルド会館を出て、息をつく。


出来るだけ低い声を出しているが、結構苦労しているのだ。


「アオイ、キツいようなら私が話をしようか?」


カイトが、少し心配したように聞くが


「デュランさんは、話し方と声で正体がバレる可能性がありますから。出来るだけ黙っておいてください。何とか出来ますから」


葵は、笑みを浮かべて答えた。


大通りを歩きながらでも、ビルガの兵の横暴が分かる位に目立つ。


「おい!」


声がした。


その方向を向くと、子供が地に伏せており、母親らしき人物が子供を庇うようにしている。


おそらく子供がビルドの兵にぶつかったのだろう。


「おい!俺様にぶつかっておいて、礼一つもないのか?」


ビルガの兵が脅すように言うと、子供の泣き声がする。


恐怖ゆえであろう。


その鳴き声にさらに、イラついたらしく


「この…!」


そう言って、剣を抜いて二人を斬ろうとした。


二人の体が同時に動いた。


「やめろ」


カイトは低い声で、腰から抜いた剣を兵に向ける。


兵は、カイトを睨みつけて


「おい!ここはビルガの領地だぞ!ここで俺様に逆らうとどうなるか分かっているだろうな!」


そう叫ぶが、前髪の隙間から見える鋭い眼光に怯む。


「…ちっ!運がよかったな」


兵は剣を鞘に納め、その場を去る。


「大丈夫ですか?」


葵が親子に問うと


「ありがとうございます。ですが…兵に逆らえば…」


と、母親は二人を心配そうに見る。


「大丈夫、私達は冒険者ですから。すぐにこの街を去ります。心配しないでください」


葵が答えると、母親は少し心配そうな表情をする。


「また…あの兵に会ったら…」


不安げに言うと


「ボイテイの太守に訴える事は…」


「出来ません。太守様は、ビルガ帝国により軟禁されております。街の運営は実質帝国が行っております」


「…そうですか」


母親は立ち上がり


「またあの兵に会ったら、その時は覚悟します」


そう言って母親は、子供の手を引いてその場を去って行く。




『余計なことを…』


『他の住民に被害が出たらどうするんだ』


『これだから冒険者は…』



周囲から声がした。


声の方を向くと、住民が一睨みしてから去って行くのが見えた。


…住民の心も荒んでいるようだ。


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